1998/10
No.62
1. "ピエゾサロン"の開設 2. 斜入射吸音率試験室の新測定システム 3. サウンドボックスと竹のレコード針 4. 第16回 ICA/ISA(シアトル)会議報告 5. 0.05μm検出の液中微粒子計 KS-17
       <研究紹介>
 斜入射吸音率試験室の新測定システム

騒音振動第一研究室 木 村 和 則

1.はじめに
 当研究所では、主に道路交通騒音の吸音対策に用いられている吸音材の斜入射吸音率測定を行っている1)。今回、新たにスピーカおよびマイクロフォンを移動させずに測定を行い、吸音率の算出がリアルタイムでできる斜入射吸音率の測定システムを導入したので紹介する。

2.斜入射吸音率測定
 試料の音響性能を評価する方法として、ランダム入射吸音率、垂直入射吸音率および斜入射吸音率がある。ランダム入射吸音率とは、音があらゆる角度で測定試料に一様に入射したときの吸音率である。実験的にランダム入射吸音率を求める方法としては、JISで定められた「残響室法吸音率の測定方法」があり、一般に吸音率というとこの残響室法吸音率である場合が多い。残響室法吸音率は、劇場やホールなどの室内における音響設計あるいは工場などの閉空間での吸音対策に使用する吸音材の評価に用いられている。垂直入射吸音率とは、音が試料に垂直に入射したときの吸音率であり、測定方法としては、JISで定められた「管内法による建築材料の垂直入射吸音率測定方法」がある。垂直入射吸音率は、測定時の試料の大きさは10cm角程度あれば良く、多数の試料の吸音性能評価を行うことが必要な新たな吸音材の開発などに用いられている。

 斜入射吸音率とは、試料面に音がある角度で入射したときの吸音率である。道路構造が高架あるいは掘割などのように、限られた方向から高架裏面および掘割側壁などに自動車走行音が入射する音場で用いる吸音材の評価には、現場での騒音性状と類似した測定法である斜入射吸音率が主に用いられている傾向にある。また、高性能な高架裏面吸音板などの開発を目的とした建設省の平成7年度建設技術評価制度課題「騒音低減効果の大きい吸音板の開発」の吸音性能の評価項目として、各角度で得られた吸音率の算術平均値と道路交通騒音の周波数特性とA特性を吸音率の算術平均値に加重して得た平均斜入射吸音率2)が採用されている。

 斜入射吸音率の測定方法としてはいろいろな手法が提案されているが、現段階ではJISなどの定められたものはない。当研究所では、青島が提案3)した時間引き伸ばしパルス(Aoshima's Time‐stretched pulses)を音源に用いて測定を行っている。このパルスは、スイープ信号に近い波形をスピーカーから放射し、マイクロフォンで得られた波形を後処理することにより継続時間の短いパルス的な信号の波形が得られる。この試験音を用いることにより、試料からの反射音と、スピーカからの直接音および周辺の障害物からの反射音を分離することが可能となり、試料からのみの音を抽出することができる。この試料からの反射音と試料設置前すなわち床面(剛壁)からの反射音を用いて斜入射吸音率が得られる。

3.新設試験室の概要
 斜入射吸音率の測定は、鉄骨構造・防火サイディング貼りの床面積56(7m×8m)、高さ6mで、床面は完全反射面、壁面および天井は吸音処理が施されている半無響室で行っている。試験室の構造については既に報告した4)

 従来は、天井部に設置した電気トロリーから吊り下げたマイクロフォンおよびスピーカを移動させ、所定の位置および角度に調整して、音をスピーカから放射し、その反射音をマイクロフォンで得てDATに収録し、その波形をパソコンに入力して、試料からの反射音のみを切り出して吸音率の測定を行ってきた。

新たに導入した測定装置は、4つのマイクロフォンおよびスピーカを測定を行う角度の0度、15度、30度および45度での設置位置に固定し、測定を行う角度のマイクロフォンおよびスピーカをセレクタで選択して吸音率の測定を行う(写真1参照)。また、測定は、A/D、D/A変換ボードが組み込まれたパソコンの測定システム(斜入射吸音率測定システム、AS‐21型、リオン製)を用いて行う(図1参照)。このシステムは、D/A変換した試験音をスピーカから発生させながら逐次マイクロフォンからの反射音が含まれた波形をA/D変換して、時間引き伸ばしパルスをパルス波形に変換後、吸音率計算を行いリアルタイムで吸音率が得られる。このシステムの測定ソフトは、吸音率の算出時に剛壁面で得られた波形と測定試料設置時に得られた波形とを重ねあわせて表示できるため、測定試料からの反射音か、その他の部材からの反射音かが明確に区別でき、測定試料からの反射音だけを抽出することが容易になおかつ確実に行うことが可能である。また、測定場所周辺の暗騒音を考慮しながら試験音のFFTの点数および同期加算の回数を選ぶことが可能になっている。このシステムを導入することにより、測定時間が短縮され、平均斜入射吸音率が測定後直ちに得られるようになり、吸音材料の性能向上への検討が迅速に行なえると考える。

写真1 各測定角度ごとに設置された測定装置

 

図1 新設の斜入射吸音率測定システム

 測定フィールド内には、測定試科からの反射音以外はできるだけないほうが好ましいが、新設した測定装置には、測定角度以外のスピーカ、マイクロフォン、吊り下げ用のパイプなどの反射物がある。そのため、これらの反射物にはグラスウールで覆う処置を施して、測定試料面からの反射音の抽出の妨げにならないようにした(写真2参照)。また、マイクロフォンのホールダーは突起物のほとんど無い部材を用いて、できるだけ吊り下げているポールから離してマイクロフォンを設置した。反射物となるスピーカ表面部も測定周波数帯域でほぼ平坦特性が得られている5cmフルレンジ・ユニット(外形14×12.5×8cm)を用いてできるだけ狭くしている。

写真2 反射音対策を施した測定装置

4.おわりに
 当研究所で行っている斜入射吸音率測定で、スピーカおよびマイクロフォンを移動することなく簡便・迅速に測定するシステムを導入した。今後、このシステムを用いることにより、測定時間の短縮化および測定結果が迅速に得られるようになり高い吸音性能を持った吸音材の研究・開発がより推進しやすくなったと考える。

参考文献

1)木村和則他: 「裏面吸音板の斜め入射吸音率について」
          日本音響学会講演論文集 平成4年3月
2)山本貢平他: 「吸音率と道路騒音による吸音材の評価」
          日本音響学会騒音・振動研究会資料、N-94-02
3)青島伸治:「パーソナルコンピュータを利用した信号
          圧縮法によるパイプ内音場の測定」
          日本音響学会誌40巻3号(1984)pp.146〜151
4)木村和則:  「斜入射吸音率試験室」 小林理研ニュースNo.54(1996.10)

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