1993/4
No.40
1. 環境騒音を測る 2. デシベルの計算と等価騒音レベル 3. 汽笛型純音発音器 4. 人工中耳 5. 聴覚障害児の聴覚の活用
       <骨董品シリーズ その20>
 汽笛型純音発音器

所 長 山 下 充 康

 これまでにこのシリーズにいくつかの音響実験用の音源が登場した。「オルガンパイプ(1988.10.)」、「音叉と音棒(1989.10.)」、「標準周波数レコード盤(1990.4.)」、「ダブルサイレン(1991.1.)」、「ガルトンの超音波笛[エーデルマンパイプ](1991.7.)」、「パラボラ付きのハルトマンの噴気発音器(1991.10.)」等々。

 今回登場するのは、そんな実験用音源の一つ、「汽笛型純音発音器」である。

 直径30mm弱、真鍮にクロム鍍金が施された円筒で、一端に送気管がある。本体は精巧に擦り合わせられた三重のパイプで構成されていて、20cmから35cmの長さに伸縮することができる。

 全体的な形は<骨董品シリーズ・その2(1988.4.)>で紹介した「水鉄砲型周波数分析器」に似ているが、こちらの方は円筒の側面の一部が切り取られて、四角い小窓が開けられている[写真]。送気管から息を吹き込むとボーッと鳴る。いわゆる汽笛である。本来の名称が判らないので「汽笛型発音器」と呼ぶことにした。

写真

 断面の概略を図に示したが、基本的には「エーデルマンの超音波笛」と同様なメカニズムで純音を放射する構造になっている。

断面図

 一番内側のパイプが周波数調整用のピストンになっていて、[e2−f−g−a−h3−c3−d− e−f−g−a3〕の音程目盛りが彫刻されている。ピストン付きのオルガンパイプと解釈しても良さそうである。

 中間のパイプの一端は鋭いエッジになっている。送気の強さに応じてこのパイプを前後させて安定した音が得られるようにエッジの位置を調整する。

 オリフィスとエッジは半円周の位置まで切り込まれていて、これが効率の良い発音構造を形成している。

 実際にはゴムのチューブなどでコンプレッサからの空気を送気管に導いて使用したものと考えられる。音程目盛の刻まれているピストンの表面の鍍金が薄くなって真鍮の地肌が見えているから、かなり頻繁に使用された用具であろうと推測される。

 音程目盛以外に文字が見当たらないので何時ごろ何処で製作されたものか不明であるが、ねじの部分やシリンダーとピストンの擦り合わせ具合などに極めて丁寧な細工がなされていて、高度な工作技術を見ることができる。

 今日では安定した音を放射する音響実験用の音源装置にさほど苦労させられることはない。エレクトロニクスの技術によって、実験に要求される音をスピーカから任意に放射することができる。上記の各種の骨董品を目にするたびに、エレクトロニクスの発達以前、先輩の研究者たちが安定した出力の実験用音源を確保するのに大層な努力と工夫を強いられていたこと、そして開発されたこれらの装置の見事さに敬服させられる次第である。

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