1993/4
No.40
1. 環境騒音を測る 2. デシベルの計算と等価騒音レベル 3. 汽笛型純音発音器 4. 人工中耳 5. 聴覚障害児の聴覚の活用
  
 デシベルの計算と等価騒音レベル

理事長 五 十 嵐 寿 一

1.はしがき
 各種の騒音を測定するにあたって、等価騒音レベルを統一した評価量とすることが国際的にも定着してきている。最近は積分型騒音計も開発されて、等価騒音レベルを測定することは極めて容易になったが、これはデシベルという対数量の和や平均の計算を計器が自動的に実行しているからで、このデシベル量に関する基本と、等価騒音レベルを求めるときの幾つかの問題について述べてみることにする。

2.騒音レベルのパワーの和と平均
 航空機騒音にかかる環境基準の測定法は、原理的には等価騒音レベルを求めることで、それぞれの航空機が飛行した際に観測される騒音レベルの最大値、Lmaxの平均(パワー平均レベル)を計算することになっている。また、新幹線騒音の環境基準においても、20列車を測定し、騒音レベル、Lmaxの上位10本について、パワー(エネルギー)平均レベルを求めるように決められている。いずれにしても、騒音レベルについて、パワーの和あるいは平均を計算する必要がある。例えば、騒音レベル、70dB,74dB,78dB,82dBの和あるいは平均を計算することを考えてみよう。

 通常デシベルとしては、10dBがパワー比として10ということは自明であるが、1dBごとの数値については、小型の計算機を使うか、図表から読み取ることが行われている。しかし、次に述べることを理解していれば、これらの計算は計算機や図表がなくとも容易に実行することができる。なお、ある音のデシベルは、基準とする音のパワーを1として、その音のパワーとの比の常用対数であるから、パワー比という場合は、基準の音を1としたときのパワーと考えてよい。ここで、基準の音は0デシベルである。

 まず、3dBがパワーで2(厳密には1.995)また-3dBがパワーで1/2(0.5)であることから、1dB毎のパワーが容易に求められることを次に示してみよう。

 下の表1の最初のブロックでは、基準の音のパワーを1(0dB)としたとき、3dB毎にパワーが2倍になることから、3,6,9,12,15,18dBのパワーが第2行のようになる。第3行の( )は数表にある数値で、3dBは正確にはパワー比が1.995であるのに2としているため僅少の誤差を生じている。したがって、2倍毎に誤差は次第に大きくなるが、15.18dBの場合で、1%をやや超える程度でそれ以外は1%以下である。第2ブロックでは、10dB大きいことは、パワーで10倍であるから、12dBが16ならば、2dBは1.6、同様に15dBが32なので、5dBは3.2、8dBは6.4となる。一方、第3ブロックでは、10dBのパワー10の1/2は3dB小さい7dBであるから、7dBのパワーは5、同様に4dBは2.5、1dBは1.25となる。この場合は数表よりやや小さくなるが、誤差は1%以下である。このようにして1dB毎のパワーはすべて求められる。
表1 1デシベルごとのパワー

 なお、1dBのパワー比は1.25であるから、1dB毎のパワーの増加は1.25倍になり、元のパワーの1/4だけ大きくなる。従って、6dBがパワーで4とすれば、7dBが5であることもわかる。あるいは、1dB,2dB,3dB,のパワーが、それぞれ1.25,1.6,2であることを記憶するだけで、3dB毎にパワーが2倍になることからデシベル毎のパワーは暗算でも求められ、パワーの和、平均の計算などは極めて容易にできることが分かる。ここで、10dBの増加は、パワーが10倍、20dBは100倍、30dBは1000倍、また-10dBは1/10、-20dBは1/100になるので、これらを一覧にしたものが表2である。

 前述の例について計算すると、
70dB:1, 74dB:2.5, 78dB:6.4, 82dB:16
         合計   パワー 25.9→84dB
         平均   25.9/4=6.5→78dB となる。
表2 デシベルの詳細

3.航空機騒音のLAE
 つぎに、図のような航空機騒音の1秒毎の騒音レベルから、騒音暴露レベル、LAEを計算する手順を述べる。なお、LAEは、図のような一つの騒音現象についての全騒音エネルギー(パワー)のデシベル値で、最大値、Lmaxではない。

図 LAEの計算例

 この計算で、パワーの合計は84.6になる。これは、70dBを1としたときのパワーで、80dBを1とすると合計で8.46となる。ここで、9dBのパワーは8、10dBは10であるから、パワー8.46のデシベル値は、直線近似すると、9.23dB、しかし、対数尺度であることを考慮して繰り上げると、9.3dB(8.51)となって数表とほぼ等しい数値が得られる。

 なお、測定値が1秒毎の場合は、それぞれの測定値のパワーの和が全パワーになるが、測定が1/2秒毎のときにはパワーの和の1/2をとる必要がある。なお、デシベル変換にあたって、パワーの数値が上のデシベル値の中間のときには、数表を必要とするが、内挿して0.5dB毎の表示でも充分であろう。また、LAEの計算にあたって、最大値から10dB以上小さいデータは省略してもよい。

4.等価騒音レベル(パワーの時間平均レベル)
 変化する音の等価騒音レベルは、ある指定された期間に発生した音の総エネルギーに等しい定常騒音のレベルである。例えば、地上で観測される航空機騒音の場合、一日の等価騒音レベルを計算するにあたっては、その期間に観測された航空機騒音のエネルギーを積分するか、一機毎のLAEを総計して、一日、24時間(86,400秒)の秒単位の時間で平均したパワーを、デシベルに変換して表示することになる。従って、この場合の平均は、一機毎のパワー平均ではなく、指定された時間で平均した騒音レベルである。一日の時間(秒単位)についての平均は、全騒音エネルギーを86,400秒で割ることになるので、デシベル計算では、全パワーのデシベル値から、
  を差し引くことになる。
 なお、航空機の環境基準の場合は、ます、一機毎の最大値、Lmaxのパワー平均のレベルに、平均的な継続時間補正、10dBを加えて騒音暴露レベルの平均値とし、これに機数Nを乗じて(実際にはNの常用対数を加える)騒音の総エネルギーのデシベル値を求める。さらに、1日の時間で平均するため、49.4の代わりに簡単のために50を引いて時間平均レベル(等価騒音レベル)を計算する。但し、環境基準では、PNL尺度に変換するため定数13を加算しているので、WECPNLの算出式においては、Lmaxのパワー平均レベルに、この13と継続時間補正の10及び時間帯補正(6.参照)された機数Nの常用対数を加え、さらに時間平均として50を引くことになっているので、定数が27となる。
  

          
従って、時間帯補正した等価騒音レベルは、
      
となる。

5.等価騒音レベルと暗騒音
 ある環境における等価騒音レベルは、全騒音エネルギ一を積分すれば良いが、ある特定騒音、例えば、航空機騒音の測定にあたって、1日24時間の間、時々刻々積分する自動測定を実行すると、航空機以外の暗騒音のエネルギーも含めて測定することになる。従って、航空機騒音のような間欠音を対象として自動測定を行う場合には、暗騒音を除外する方法を講じて測定するか、航空機騒音だけを検出して測定する必要がある。等価騒音レベルの測定値に対する暗騒音の影響は、測定対象とする音のレベルと暗騒音とのレベル差だけでなく、対象音が占める時間率にも関係するので、対象音の発生頻度が少ない時に、騒音エネルギーを連続して積分すると、たとえ暗騒音レベルが小さい時でも、対象音の等価騒音レベルとしての測定結果に大きな誤差を生ずることがある。また、対象音の騒音レベルが、暗騒音に比べて10dB以内の時、これらの測定値が多数あると、等価騒音レベルは過大評価となる。

6.時間体補正
 航空機騒音の環境基準において、夕方と夜間に観測された騒音レベルに補正をすることになっている。これは原則として夕方と夜間において、暗騒音が小さくなって相対的に航空機騒音をうるさく感ずる、あるいは生活の邪魔になることからこのような補正が行われている。時間帯補正は、通常夕方(19:00-22:00)観測された騒音レベルには5dB、夜間の騒音レベルには、10dBの補正をすることになっているが、日本の環境基準においては、計算が煩雑であることから、夕方5dB加算する代わりに積数を3倍(エネルギー的には5dBは3.2倍)、夜間の10dBの代わりに機数を10倍するという簡便法を取って上式の積数Nとしている。また、すべての航空機騒音のパワー平均をとり、運航機を考慮して総エネルギーを求めているので、日中、夕方、夜間、それぞれの時間帯において観測される騒音レベルの平均が同じであることを前提にしている。

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