1993/1
No.39
1. 十歳を迎えた[小林理研ニュース] 2. 環境騒音問題の推移 3. バルクハウゼン式騒音計 4. 第14回国際音響学会議周辺 5. 超音波診断装置 UX-01
  
 環境騒音問題の推移

理事長 五 十 嵐 寿 一

1.はしがき
 騒音にかかる環境基準が施行されて20年、特殊の地域を除いて日常生活における騒音の環境は改善されてきたと思われるが、騒音測定と評価の方法に関する研究の進展を振り返って、今後に残された課題を考えてみることにする。特にISOとJISにおける環境騒音についての国際的動向及び騒音に係る環境基準設定の経過についてもこの点に絞って述べる。

2.騒音問題の発生
 騒音が社会的な問題になって学術誌に掲載されるようになったのは、昭和の初期からである。市街電車の騒音、飛行機の発動機試運転場周辺の騒音等が取り上げられている。昭和11年に日本音響学会が設立されたのもこのような社会情勢を背景にしていた。終戦後、都市の復興に伴う土場の稼動、建設工事、経済活動としての広告宣伝合戦等広範にわたる騒音被害が発生した。

 このような状況を受けて東京都(当時東京市)は騒音対策委員会を設けて都市騒音条例を施行することになった。しかし、測定器が整備されていないため急遽騒音計の工業規格(JES:今日のJIS)が制定された。これは、当時米国で発行されていた規格を参考にしたものであった。騒音計の初期のものはマイクロホンにクリスタルを使ったものが多く、周波数特性を規格に適合させるための苦労があったが、動電型マイクロホンによってやや改善され、コンデンサマイクロホンを採用することで次第に今日の精度をもつようになった。また、騒音計の校正器として最初は木製の笛が用いられ、発生音の周波数が倍音に飛び、安定したレベルになったところを基準音とするものであったが、後に小さな鋼球を振動板にあてて雑音を発生する校正器が用いられたことがある。現在はピストンホンが校正の基準になっている。

 一方、騒音の測定方法としては、都市騒音のように大幅に変動する騒音の平均的な値を求めるため、統計的な中央値、L50、及び騒音の変動幅を示す、L5L95が守田栄氏によって提案され、今日まで広く使用されている。その後制定されたJES、騒音レベル測定方法にもこの手法が導入されて、騒音測定の体系が整備されることになった。都市騒音条例は、大阪をはじめ大きな都市でも次々に施行されることになったが、基準値としては、中央値を用いて、日中:50〜55dB、夜間:40〜45dBとほぼ現在の環境基準に相当する数値が採用された。この値は二、三の外国の文献を参照したことと、この位のレベルであれば大体問題がないだろうという極めて大ざっぱな決め方であったように記憶するが、現在の環境基準値とほぼ同程度であることは興味のあるところである。  

 しかし、この頃の騒音測定方法としては、騒音計の周波数特性にA、B、Cがあり、65ホン以下はA、60〜85ホンはB、80ホン以上はC特性で測定することになっていたため、例えば、60ホンまたは80ホンの場合にどの特性で読むかという問題が生じた。そこで騒音レベルを測定するときには、まずB特性で計り、60ホン未満の場合はA、85ホン以上のときはCとするように規定されたが、その後B特性が廃止されてA特性だけを使用するようになった。ここでホンという単位は、戦前から戦後にかけての時代、騒音の測定にあたっては、オーディオメータを使って左右の耳で聴き比べる方法が用いられ、1kHzの音と対象の騒音を比較し、音の大きさのレベル、phonを計ることが行われたり、同じ原理を使ったドイツのジーメンス社製聴感式騒音計が用いられていたことによるものと思われる。従って、音の大きさを示すフレッチャーの聴感曲線をそのまま騒音計の周波数特性とする試みも行われたこともあったが、騒音のように複合音の場合、必ずしも純音に対する感覚がそのまま適合しないということが分かり、各種の騒音に対する人間の聴感は、A特性だけでよいことになって今日に至っている。しかし、騒音計の出力dB(A)は、音の大きさのレベル、phonとは異なっているので、ホンという単位はデシベルに変更すべきであるという議論が、昭和37年頃から学全内部において始まった。しかし、ホンは一般に広く慣用されているという反対もあってその変更は見送られ、騒音の環境基準値の単位としても採用された。しかし、平成4年になって計量法が改正され、ホンも他に用いられている単位とともに変更の対象となり、デシベルとして規定されることになった。計量法にホンが規定されたのは昭和20年代で、その採用の経過は明確ではないが、一旦法律として制定されるとその改訂は容易ではない。

3.環境基準(一般及び道路騒音)の制定
 昭和42年に公害基本法が制定され、まず、工場の操業、建設工事に対する騒音規制法が制定され、測定法として統計的なL5を用いることになった。ついで各種騒音に対する環境基準を制定することになり、厚生省に騒音環境基準専門委員会が設けられて、一般環境と道路騒音に関する環境基準の審議から開始された。公害基本法の中にあった、経済との調和を図って環境改善を進めるという条項が削除されたこともあって、騒音の環境基準としては、達成可能ということではなく、望ましい環境を維持することを指向することになり、環境基準のありかたについて多くの時間をかけて議論が行われた。

 当時、騒音による被害については、学術的に充分な資料がなかったので、急遽行われた実験室実験や、二、三の社会調査の結果等が参考にされた。環境基準における騒音の測定方法としては、建設工事騒音等に適用されていた騒音規制法のL5を採用するという意見もあったが、一般の変動騒音を対象にしていることと、これまで道路騒音についてはほとんど中央値で整理されて多くの資料もあることから、JISに規定されている中央値、L50を採用することになった。騒音レベルと騒音の影響についても、苦情の実態、睡眠妨害に関する調査等様々な検討の結果、一般騒音に係る基準値としては、以前都市条例で規定された数値とほぼ同じ水準となった。道路交通騒音についての基準は、当時、ISO(国際標準機構)の勧告として、道路騒音が卓越する都市においては、一般環境の基準より5〜10dB騒音レベルが大きいのはやむを得ないとしていたので、そのように規定されている。ただし、測定方法と騒音の影響について必ずしも充分な資料がなかったことから、昭和46年5月25日に閣議決定された、"騒音にかかる環境基準"には、その第7項に、

 第7 環境基準の見直し

 環境基準は、騒音の影響に関する知見の進展及び社会的評価の変化、騒音の測定技術の進歩に照らし、必要に応じて改訂を行うものとする。

と述べてある。

 しかし、その後制定された航空機、新幹線騒音に係る環境基準を含めて、一度制定された環境基準の見直し、改訂に関して、多くの議論がなされているものの、行政的には取り上げられないまま今日に至っている。改訂は過去の経緯もあって極めて困難であるとされているが、測定法についての最近のISO,JISの動向やその後進展した騒音影響に関する多くの研究結果等からみて、従来の環境基準については、それらに規定されている評価測定方法における欠点、騒音影響に関する社会調査の結果の解釈についての問題点、基準相互の整合性、あるいは米国で実施しているような騒音指標の統一等を考慮した見直しは、学術的に今後の大きな課題であろう。これについては、後で詳しく述べる。

4.航空機騒音の環境基準
 航空機騒音に関する環境基準は、当初騒音の及ぶ範囲がきわめて広範にわたること、外国においてまだ例がないこと、さらに基準を設定しても対策が可能かどうか等いろいろ危惧されたが、とりあえず各種の資料を集めて検討することになった。審議が始まったのは昭和45年頃で、昭和46年には環境庁も発足し、改めて航空機騒音、新幹線騒音に係る環境基準の制定について中央公害対策委員会に諮問があり、振動騒音部会の特殊騒音専門委員会において引き続いて審議されることになった。

 空港周辺の騒音に関する社会調査として、ロンドンヒースロー空港周辺において実施された報告、国内では大阪伊丹空港にジェット機が導入された後に関西騒音対策委員会が実施した、空港周辺の騒音測定と社会調査の結果が参考にされた。この他、いくつかの外国文献、国内における影響調査の資料等も考慮されたが、焦点はその測定方法と基準値の設定、対策の方法等であった。航空機のように間欠的な音についてJISには、発生騒音について最大値の平均とその頻度を測定することとなっていたが、航空機騒音にかかる環境評価の指標としては、英国が使っているNNIや米国のCNRのように、一つの量で空港周辺における騒音暴露の量を表示する指標を採用することが好ましいとして議論が進められた。最初はヒースロー空港と大阪空港で用いられたNNIは、住民の反応との関係が詳しく調査されているので、これを採用しようという意見が委員会の大勢であった。たまたま同じ時期に、カナダに本部のあるICAO(国際民間航空連盟)において、航空機騒音に関する国際会議が開催され、ジェット航空機の騒音低減のため、騒音証明制度を発足させることになった。この会議では、空港周辺で観測される騒音暴露についても、各国がバラバラな指標を使用しているので、これらを比較するために統一された国際単位の必要性が指摘され、これを受けて新しい指標として(W〉ECPNLが提案されることになった。各国の測定結果はこの指標に変換して比較すること、また、これから航空機騒音に係る土地利用の目的で、騒音暴露の指標を採用しようとする国においては、WECPNLにするようにとの勧告が行われた。

 これが丁度、航空機騒音の環境基準の議論の始まる頃であったこともあり、NNIとWECPNLの評価方法としての比較、それぞれの測定方法等について詳しい議論が行われた。この両者はいずれも騒音レベル、dB(A)ではなく、ICAOが提案しているPNdBを使用していることは共通しているが、NNIは運航回数、Nの対数の係数が15で、WECPNLは騒音のエネルギーを基本にして、10という係数を用いているという違いがある。しかし、英国のその後の調査によると、NNIとして運行回数の係数は必ずしも15ではなく、測定時期によって違うことも報告されていており、これに時間帯補正が含まれていないこともあるので、国際的な整合性等を考慮して、WECPNLを採用することとなった。しかし、WECPNLは通常の騒音計で直接測定できないこと、また騒音の継続時間をいちいち測定する必要がある等の複雑な手数を要することが分かり、現在航空機騒音の環境基準に規定するように、dB(A)を測定して常数13を加えることによってPNdBへの変換を行なうこととし、騒音の継続時間補正については、平均的に10dBとすることになった。この他、特異音の補正も必要であるが、これも計算が複雑であることと、エンジンの改修によって特異音が減少してきたことを考慮してこれも省略することになった。時間帯補正については、夕方の測定値に5dB、夜間は10dBの加算をするというICAOの方式に換え、時間帯によって航空機騒音の平均レベルに変化がないものとして、機数をそれぞれ3倍(エネルギーでほぼ5dBに相当)、10倍(10dB)するという、現在の日本式簡便法を採用することになった。

 このWECPNLは、航空機騒音の運航によるある地点の一日、24時間にわたる全騒音暴露量を測定することになるので、現在JIS騒音レベル測定法に規定する、等価騒音レベルに時間帯補正した尺度と考えてよい。ただし、日本のWECPNLは騒音レベルを測定してこれに13を加えてPNdBに変換しているので、WECPNLから13を差し引いた数値が時間帯補正した等価騒音レベルLdenになる。例えば、WECPNL,70は、Lden,57dBである。ここでLdenは夕方(19:00〜22:00)と夜間(22:00〜07:00)について時間帯補正したことを示す。

 なお、最近ICAOは、WECPNLを使用しているのは日本はじめ3ケ国(中国等)に過ぎず、日本で使用しているのは本来のICAOの提案したWECPNLと異なることを理由に、ICAOの付属書(ANNEX 16)からこれを削除する決定を行った。なお、英国は現在も従来のNNIを使用しているが、米国は航空機騒音について、CNRからNEF(ICAOのWECPNLに対応)としたが、最近、航空機騒音も含め環境騒音について、夜間(22:00〜07:00)の測定値に10dB加算した等価騒音レベル、Ldnを使用することに変更した。

 次に航空機騒音の環境基準値の設定にあたって、住宅地域で、WECPNL,70としたのは、英国において防音工事の必要がない地域としてNNI,40としているので、環境基準としてはこれ以下とすることと、大阪空港周辺の社会調査の結果等を参考にして設定された。

 尚、ICAOの指標WECPNLは、航空機の騒音証明に用いる測定方法とともに、空港周辺における土地利用に用いられる騒音暴露量の測定方法として、ICAOがISOに以前から委託していたもので、ISO R 507としても発行された。(ISOではWECPNLをLpneqとしている)

5.新幹線騒音の環境基準
 新幹線騒音の環境基準の審議が開始されたのは、航空機騒音に引き続いた昭和48年頃である。この頃は東海道新幹線が開通して約10年が経過し、各地において今まで経験したことのない高速鉄道から発生する騒音に対する苦情が発生していた。新幹線はこのころになると岡山まで開通し、さらに博多までの山陽新幹線が建設の途中であった。新幹線騒音の性状としては、高速のため高音成分が多く、航空機騒音にやや類似しているが、走行毎の騒音レベルとその継続時間がほぼ一定しているという特徴がある。ただし、高速鉄道の騒音に関する資料は極めて少なかったので、新幹線沿線の騒音測定とともに、周辺の住民を対象とした社会調査が平行して実施された。この場合の測定方法として、航空機騒音のWECPNLとするか、JISの最大レベルにするかについて検討が行われた。社会調査の結果、運行回数の少ない山陽新幹線沿線における住民反応が、東海道新幹線沿線に比べて平均として5dBほど厳しくなったことについて、これは開通して日が浅いので騒音に対する馴れに関係するのではないかという議論になった。従って、東海道と山陽では当時運行回数に倍以上の違いがあったが、山陽新幹線も将来回数が増加することも予想されること、また測定が容易であることも考慮して、東海道も含めて一律の測定方法である騒音レベルの最大値(ピーク値)のパワー平均を測定指標とすることになった。なお、測定にあたっては、列車速度が遅い場合や、測定点反対側路線の通過列車の騒音レベルが著しく小さいこともあることを考慮し、20列車について測定し、上位10本についてパワー平均することとなった。当時、成田、東北、上越新幹線の計画が進んでいて、これについての対応も審議の対象になったが、運行回数等将来の状況については予想が困難なので、いずれその時に改めて検討することとして、東海道・山陽新幹線については、運行回数を考慮することなく、ピークレベル、Lmaxを新幹線騒音の指標とすることになった。また、運行時間については、当時東北から九州まで開通した暁には、夜間運行も計画されていたので、その場合の取扱いをどうするかという議論もあったが、当時は夜間運行の回数も少なかったので、簡単のために時間帯補正をしないことになった。

 新幹線騒音に関する環境基準値については、主として環境庁と環境庁の委託で東北大学が実施した、東海道、山陽新幹線沿線における社会調査の結果等を参考にして、Lmax,70dBとすることになった。この基準は道路交通騒音、航空機騒音の基準値とできるだけ整合をとるため、当時すでにISOにおいて提案されていた、等価騒音レベルに換算して比較することも行われた。しかし、基準値については5の倍数が好ましいとする意見があって、必ずしも厳密には整合がとれていない。  ともかく、鉄道騒音については、国内及び外国における通常路線についての資料があっただけで、新幹線のような高速鉄道については、参考になる資料はほとんどないという状態であった。

6.ISO環境騒音測定方法とJIS騒音レベル測定方法の改訂
 各種測定法に関する国際標準機構ISOが発足したのは、昭和30年代前半であるが、音響部門TC43においては、一般の環境と職場騒音及び航空機騒音の測定方法について1960年頃から議題に上がっていた。騒音測定の基本としては、当時米国のBeranekが提案していた、騒音評価曲線NC(Noise criteria)値を修正した、NR(Noise Rating)曲線を用いる方法が提案され、騒音を周波数分析した結果について、そのスペクトル成分がこの曲線の最大値になる数値をもって、NR値とするものであった。また、変動する騒音や間欠的な騒音の評価については、1時間以内に約1/2min継続する騒音が、60回以上の場合は、補正0、10〜60回の場合は、補正−5、1〜10回の場合は、補正、−10というような現在の等価騒音レベルに近いエネルギーべ一スの考え方が既に導入されていた。また衝撃音を含む場合の補正は、+5、純音成分が存在するとき、+5、また、日中−5、夜間は+5、都市+5、郊外−0、都市の住宅−5の補正をして、総合的なNR値が40以下ならば、とくに苦情がないこと、寝室や居室、コンサートホール等は20〜30のNR値が望ましいこと等が提案されている。その後、各国の意見を入れて審議の結果、1966年頃には変動音について、Leq(等価騒音レベル)と言う概念が導入されることになった。

 ここで、Liはクラスiの騒音レベルで、 クラスは5dBより大きく取ってはならない。

 fiはクラスiの騒音の時間率(%)

 このような内容を盛り込んで制定されたのが、1970年に発行されたISO R 1996(Assessment of noise with respect to community response)である。 この勧告はそれまでの審議を基に環境騒音測定方法をまとめたもので、測定値に各種補正を加えた量をLr、騒音評価値(noise rating)と呼ぶこととし、衝撃音、純音等、の特殊音及び間欠音についての補正値を表1として示し、不規則に変動する騒音については、上述の(1)式としたものである。また、時間帯及び、地域差による補正(表2)、騒音評価値の大きさに対して予想される住民反応の程度等が表として盛り込まれている。

表1 騒音レベルに対する補正
 

表2 地域補正

 この規格はその後、ISO R(recommendation)を国際規格とすることについて、各国の意見を入れて幾たびか修正が加えられて、ISO IS(国際規格)として発行された。

ISO IS 1996:Description and measurement of environmental noise,
  Part1:Basic quantities and procedures(1982)
  Part2:Acquisition of data pertinent to land use(1987)
  Part3:Application to noise limit(1987)

 Part1は、等価騒音レベル(Equivalent sound pressure level)LAeq,t及び騒音暴露レベル(Sound exposure level)LAEを基本量とした測定方法の体系を示し、Part 2は測定データ取得の方法を述べたもので、騒音マップを作成した場合の地図の色分けについての記述もある。Part3は、騒音の限度値を求める場合に必要な事項について記載したもので、限度値はそれぞれ当事者がきめることにして具体的な数値は示していない。

 わが国の測定方法に関するJISは、できるだけ国際規格ISOと整合をとることを基本にしていることから、JIS"騒音レベル測定方法"を改訂することになり、昭和58年等価騒音レベルの測定法を採用して改訂された。ただし、従来使用されてきた統計的なL50は、各種の法令に使用されていることも考慮して、当分規格の中に含めておくことになった。また、計測器としても、国際規格、IECに基づいてJIS、"指示騒音計"の規格に、等価騒音を測定する機能が追加されることになって、等価騒音レベルを測定することは極めて容易になった。

7.今後の課題
 現在わが国では騒音に係る環境基準におけるように、騒音源の種類によって異なった評価指標が使われているが、ISOの環境騒音測定法をはじめ欧米各国においては、統一した指標、等価騒音レベル、LAeq,tあるいはこれに時間帯補正を加えた指標を使用するようになってきた。これは等価騒音レベルが、騒音のもつエネルギーを基本にしていて、測定が容易でどのような音源にも適用できる評価指標であることと、さらに、人間が受けるうるささとの対応についても、他のどの指標と比較しても等価騒音レベルが優れているという研究結果に基づくものである。一部衝撃的な音、超低周波を含む音について未解決の問題は残っているが、今後当分環境騒音及び作業環境の評価指標として使用されるものと考えられる。従って、今後検討すべき課題としては、現在使われている各種の騒音に係る環境評価指数を、等価騒音レベルに統一する問題といってよいであろう。

 次に現在使用されている各種騒音指標の問題点と、それらを等価騒音レベルに換算することによって、各種環境基準値の比較をしてみることにする。

 (1)道路交通騒音:L50
 L
50は統計量なので、対象とする現象が定常的か不規則に変動し、その変動幅が小さいときには、LAeqとの差はきわめて小さいが、大幅に変動するか、道路の交通量が極端に少ない場合等には、その差が大きくなる。

 高速道路周辺の測定によれば、L50Leqの差は、日中、朝夕、夜間に分けて、1.5−1.3−2.1dB、国道幹線の場合は、1.9−2.2−4.5dB,地方道は、2.1−2.9−8.9dBという結果がある。変動の標準偏差と両者の差の関係は実測の結果、図のようになり、LAeq>L50でその差は変動幅によって異なり、通常2〜6dBとなる。道路交通騒音についての環境基準値の設定は、Ldenの場合と時間帯に若干の差はあるが、以上の結果によってL50からLdenを推定することは可能で、高速道路、国道についてこれらの差は、+1〜3dB、地方道の場合は、+3〜6dBとみてよいであろう。ここで一般及び道路交通騒音の基準値は、日中、朝夕、夜間に分けて設定されているので、Ldenへの変換は日中のLdenL50との差として計算することができる。従って道路交通騒音の基準値、L50,55dB(朝夕、50dB、夜間、45dB)は、Lden,56〜61dBになる。また、Ldenを用いることによって、夜間で交通量が少なく、大型車の騒音レベルがL50に反映しない問題は大いに改善されることになろう。

図 道路交通騒音のLAeq−L50
 (2)航空機騒音:WECPNL
 航空機騒音については、もともと騒音のエネルギーベースになっているので、前述のようにPNdBとdB(A)の差、13を差し引くことによって等価騒音レベル、Ldenになる。従って、WECPNL,70は、Lden,57dBとなる。ただし、騒音の継続時間を10秒としているので、飛行する航空機に近く、騒音レベルの大きい地域では、継続時間が10秒より短いので等価騒音レベルとしてやや過大(2〜4dB)に、また遠い地域では、10秒を超えることもあってやや過小に(1〜2dB)評価される。この点については、継続時間を10秒一定のままとすることによって、被害の大きい地域を救済することになるという理由から、その修正については特に考慮しないことになった。

 (3)新幹線騒音:Lmax
 新幹線騒音に用いられているLmaxは、間欠的な騒音の発生回数がほぼ一定であるとして設定されたが、現在の新幹線は、東北、上越等路線も広がり、運行回数や車両長が必ずしも同一ではないので、平成4年の新幹線の時刻表から、特定の箇所を選んで、Lmax,70dBの地域のLdenを算出してみる。

 東海道新幹線:
  東京−横浜  運行回数、上下、260(200−40−20)、
  騒音の継続時間  8秒      ( )内は日中、夕方、夜間の回数 L
max:70dB  Lden:56.8dB

        
  博多−小倉  運行回数、140、       
  騒音の継続時間  8秒 Lmax:70dB  Lden:54.1dB
  
東北、上越新幹線
  盛岡周辺、新潟周辺  運行回数、70、
  騒音の継続時間  8秒 Lmax:70dB  Lden:51.1dB

ただし、東海道線は通常車両数が16両であるが、山陽、東北、上越線では一部12両で、約1dB小さくなるがこれは無視した。また、日中、夕方、夜間の運航回数の割合はいずれも東京−横浜と同一とした。

 以上、環境基準で定められた基準値について、Ldenに換算した結果の例を述べた。これらについて、住宅地域における数値を比較してみると、

  道路交通騒音    L50  55dB  Lden 56〜61dB
  航空機騒音   WECPNL 70dB  Lden    57dB
  新幹線騒音     Lmax 70dB  Lden 51〜57dB

となり、最大で10dBほどの差があり、相互の整合性という点から修正が必要であると思われる。このLdenの採用によって、交通量が少ない地方道と同じく運転回数の少ない新幹線についての基準値が大幅に修正されることになる。

 環境基準値の設定にあたっては、それぞれの騒音源に対する社会反応の結果を参考にして行われたが、それらの調査について相互の比較が充分にはなされてはいない。また、その後の研究によれば、国内または外国における社会調査は、質問の方法、尺度の構成が異なっていて、必ずしも確立された方法で行われていないので、従来の各種住民反応の結果から直接望ましい騒音の基準を導くことについては、多くの問題が残されている。特定の騒音源に対する周辺の住民の反応には、当該地域における騒音以外の要因、例えば地域特性、音源に対する周辺住民の利害関係、行政の対応等が反映することもあり、騒音固有の影響についての指標としては、音源の区別をすることなく、Ldenで評価することがもっとも公平な方法であると考えられる。

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