1993/1
No.39
1. 十歳を迎えた[小林理研ニュース] 2. 環境騒音問題の推移 3. バルクハウゼン式騒音計 4. 第14回国際音響学会議周辺 5. 超音波診断装置 UX-01
       <技術報告>
 超音波診断装置 UX−01

リオン株式会社 研究開発部1G 根 本 喜 久 郎

1.はじめに
 人間の目が感じる光(可視光)は、人間の皮膚や内部組織を透過しないため、生体内部を外から目で見ることはできません。光が透過しない生体中でも、音波は聴診器で生体の表面から心臓の音を聞くことができることからわかるように生体中を透過します。
 超音波診断装置はこの透過性を利用し、外から見ることができない生体内部を可聴音領域を越えた超音波を用いてリアルタイムで画像化して見えるようにし、医療診断に役立たせるための装置です。

2.原理―概要
 超音波診断装置の原理は山彦の原理と同じです。すなわち、体表に当てた超音波探触子から生体内に数MHzの超音波パルスを送波し(声を発し)音響インピーダンスの異なる組織境界(山腹)からの反射波(反響又はエコー)を受波し(開き)対象に関する情報を知ります。送波してから受波するまでの時間間隔によって反射体の距離情報が、反射波のレベル又は波形から反射体の存在または質に関する情報が得られます。この一連の動作を徐々に探触子を微少位置ずつずらしながら行い(走査し)生体組織の両断層像を得ます。
 用いる超音波の周波数は、その断層像の解像度と診断できる部位の深さ限界を決めます、すなわち高周波ほど波長が短くなり、より細かい生体組織まで分離可能になりますが、音波の生体組織中での伝搬減衰が増え音波の到達距離が短くなります。現在広く普及している超音波診断装置の周波数は10MHzが上限であり、肝臓や胎児用の診断装置は3.5MHz、体表に近い甲状腺用などは7.5MHzを用い体表下10〜20個を数mmの分解能で表示しています。
 UX−01は原理を同一としながらも皮膚表在性疾患などの診断に役立てることを目的としており、第一の目的を分解能とし、15MHz、30MHzの高周波超音波を用いて体表下20mm迄を1 mm以下の高分解能で表示します。
 表1にUX−01の主なる仕様を、写真1(a)(b)に外観を示します。

写真1(a) 本体
 
写真(b)

UF-30型・・・・(左)
UF-30型・・・・(右)

3.特 徴
3−1.高分子圧電膜の採用
 UX−01の高周波集束超音波を送受する振動子材に用いている高分子圧電膜(PVDF)は小林理学研究所の河合先生が世界で最初にその圧電性を見いだされたものであり、セラミックス材に比べ高周波に適し、高分解能、広帯域、且つ加工しやすいという特性を有してます。
 これらの特性を活かしUX−01には従来の超音波診断装置にはない次に示す特長が有ります。

表1 主なる仕様

(1)高分解能
・15MHz、30MHzの高周波の採用により高分解能なエコー画像が得られます。
距離分解能  90μm以下(30MHz)
         180μm以下(15MHz)
方位分解能 180μm以下(30MHz)
         380μm以下(15MHz〉
 ・凹型アニュラアレイ振動子(同心円上に複数の素子を持ったもの)のダイナミックフォーカスにより、診断領域全域に渡り均一、且つ細い超音波ビームを有しておりシャープなエコー画像が得られます。

(2)一本の探触子で2周波送受信  ・広帯域特性を活かし、一本の探触子で15MHzと30MHzでの測定が行えるようにしてあるので、探触子を交換する必要がなく、同時に両周波のエコー性状比較が行え、組織判断に有効であります。

3−2.Bモ一ド、Cモ−ドの併用による三次元的診断
 従来この分野にはないCモードの採用により、病変部を断面だけでなく、奥行きまで観察することができます。

4.UX−01のシステム構成

 本装置は、
 (1)超音波を送受する振動子とその振動子を扇型にスキャンし超音波ビームを走査させる
 (2)振動子を駆動する高電圧高周波短パルスを発生する送信部、及び振動子からの微弱な   エコー信号を処理、増幅する受信部で構成する送受信部、
 (3)受信部からの信号をA/D変換し各種処理演算を行い画像信号迄にする画像処理部、
 (4)TVモニター部、
 (5)キーボード操作部、
 (6)画像データ収録部 で構成されています。(図1)

図1 システムブロック

5.表示画像
 UX-01は、UF-30型とUP-33型2本の探触子を備えております。
 UF―30型は15MHzと30MHzを兼用する探触子でありパネルのスイッチ操作で何れかを選択できます。15MHz選択時は20mm(深さ)×20 mm(幅)、30MHz選択時は10 mm×10 mmの範囲で探触子から見た垂直断面(Bモード)を表示します。また、UF−30型はCモードの機能も有しており15MHzで20 mm、30MHzで10 mmまでの任意の深さに於ける水平断面(Cモード)を15MHz選択時で20 mm(幅)×20 mm(奥行き)、30MHzで10 mm×10 mmの範囲で表示します。
 UF−33型はさらに皮膚の浅部を鮮明に観察する目的に周波数30MHz、Bモードで5 mm(深さ)×10 mm×(幅)の範囲を測定表示します。

6.臨床画像例
 本装置の基礎及び臨床試験は大学病院、総合病院の皮膚科に於て多くの症例を得ております。次に幾つかの症例画像を紹介します。
 ・写真2は基底細胞上皮腫の腫瘍部位を15MHzと30MHzで見た画像です。左画像の15MHz   では腫瘍の部位や大きさが、古画像の30MHzでは、腫瘍周辺の細部構造がわかります。
 ・写真3は粉瘤を15MHzで左右の画像で少し位置をずらして見た画像です。右画像に嚢腫壁の破裂部位が認められます。
 ・写真4は石灰化上皮腫を15MHzで見た画像で左画像はBモード(垂直断面表示)で、右画像はCモード(水平断面表示)で表示してあります。病変部の形状を立体釣に把握することができ手術の方針に役立ちます。

写真2
 
写真3
 
写真4

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