1987/1
No.15
1. アマゾンで出会った蝉の大合唱のことなど 2. 古文書「ヘルムホルツ著 音感覚」の発見 3. 2-マイクロホン法を用いた低周波数領域における吸音率測定 4. 温度補償型加速度ピックアップ材料の開発

5. カナダにおける航空機騒音モニタリングシステム

       <技術報告>
 温度補償型加速度ピックアップ材料の開発

圧電材料研究室 落 合  勉
リオン(株)基礎技術部 泰  道 男

1. はじめに
 300℃の高温で常時使用が可能であり、かつ高感度、しかも-50〜300℃の広範囲の温度領域で感度がほぼ一定となる加速度ピックアップを得るために、圧電材料およびコンデンサー材料の開発を行ったので報告する。

 圧電型ピックアップの電荷出力は、圧縮形、せん断形を問わず温度が高くなるにつれて増加する。電荷感度は圧電材料そのものの電気機械結合係数、弾性コンプライアンス、誘電率に依存するが、それが温度と共に上る理由の1つは主として誘電率の増加による。従って温度と共に誘電率が減少するコンデンサーと圧電エレメントを組み合せれば、出力電荷をコントロールすることができ、広範囲の温度領域で感度ほぼ一定とすることができる。

 高温度用圧電材料としては、PbNb2O6, Bi-Layer、水晶等があるが、高感度という点を考えれば断然PZT系が有利である。さらに有利な点は正方晶一菱面体晶相境界の温度変化を利用することにより、弾性コンプライアンスをコントロールすることができ、d定数の温度変化を極力小さくすることが可能となる。

 以下実際開発した、圧電材料および温度補償用コンデンサー材料の諸特性について順次述べる。また最後に、これら材料を組み合せて試作したプレートシェアー形加速度ピックアップの諸特性についても報告する。

2. 圧電材料の開発
 300℃での常時使用が可能で、かつd定数の大きな材料として、次の組成式で示される各種3成分系材料について検討した。

(1-x)Pb(Zr1-yTiy)O3-xPb(Ma1/3Mb2/3)O3

 ここでMa、Mbは2価および5価の元素である。高温での使用に耐えるにはTiの量を増し、キューリー点を上げた方が有利であるが、感度は逆に著しく減少してしまうので適当なZr/Tiを選ぶ必要がある。

 またPb(MaMb)O3の量、およびMa,Mbの種類により正方晶一菱面体晶相境界の温度変化をコントロールすることができる。相境界近傍で圧電材料は弾性的に非常にソフトになるが、相境界線が温度の上昇と共にPbTiO3側、またはPbZrO3側にシフトすれば、弾性コンプライアンスは小さくなる。一般的にセラミックス等の固体は温度が高くなるに従ってやわらかくなるが、この相境界の温度シフトを巧みに利用し、組成を適当に選ぶことにより、弾性コンプライアンスが負の温度系数を有する材料が得られる。その結果d定数の温度変化を非常に少なくすることができる。このことはコンデンサー材料と組み合せて感度の温度補償をするとき重要となる。その理由は広範囲の温度領域で一定でしかも大きな負の温度係数を有するコンデンサー材料は得にくいことによる。

 以上のことを考慮し、高感度、高キューリー点、電荷感度の温度変化の少ない圧電材料の探索を行った結果、その1つとしてPNT-28(略名)を開発した。その材料の諸特性を表1に、また誘電率、および圧電定数d15の温度変化率を20℃を基準として図1に示す。この材料のキューリー点は378℃、d15=423×10-12C/Nである。また−50〜300℃でd定数の変化は65%と少なく、相境界の温度シフトによる弾性コンプライアンスの妙を巧みに利用して実現された。

表1 圧電材料PNT-28の特性
図1 圧電材料PNT-28の温度特性

3. コンデンサー材料の開発
 温度補償されるべき圧電材料が決まり、そのd定数、誘電率の温度特性が得られると、それに対する補償用コンデンサーの最適温度係数が決定できる。ここでは前述の圧電材料PNT-28について考える。まず補償用コンデンサー材料の開発にあたり、コンピューターシミュレーションを行った。その結果、温度係数が−0.0028〜0.0032/℃の材料を開発すれば、電荷感度の変化は10%以下におさまることが判明した。また圧電エレメントとコンデンサーエレメントの容量比を適当に選ぶことにより2次的な補償が可能となる。

 図2は、2枚の圧電エレメント、および1枚の補償用コンデンサーエレメントを図中の回路のごとく組み合せたときの、感度の温度補償の結果である。ここで計算に用いたコンデンサー材料の温度係数はα=−0.003/℃とした。実線は圧電材料そのものの電荷感度の変化、また破線はコンデンサーと組み合せた場合のそれである。CRの意味するところは、圧電エレメントに対するコンデンサーエレメントの20℃での容量比である。これより圧電エレメントに対して3倍位の容量を有するコンデンサーを組み合せれば、かなりの補償が期待できうる。しかしながらここでのシュミュレーションは、コンデンサーの温度係数はlinearと仮定したが、実際は温度が高くなるにつれ傾きが緩やかになるので若干補償特性は悪くなる。

図2 電荷感度の温度補償型シミュレーション

 次に補償用コンデンサーを用いた場合の感度の低下について考える。2枚の圧電エレメントをparallelに用いた場合と、一方の圧電エレメントにSeriesに補償用コンデンサーを入れた場合を比較すると、CcがCpに対して非常に小さいならば約%まで低下してしまう。しかしながらその容量比が2倍以上あれば85%以上となり、ほとんど問題はない。

 ここで実際に開発した補償用コンデンサー材料の組成式は、次式で表わされる。

Pb1-(x1+x2)Mx1Lax2(Zr1-yTiy)O3

 2価の元素Mが無いものは、いわゆるPLZTである。PLZTだけでは固溶範囲に限界があり、限きられた狭い範囲の温度係数を有する材料しか得られない。そこでアルカリ土類金属Mを用いることにより、固容範囲は著しく拡大し、多様性にとむコンデンサー材料が得られる。 この材料は組成式(χ1+χ2)の量が少ないときは強誘電体であるが、それが増すにつれ常誘電体となり、誘電率が負の温度係数を有するコンデンサー材料となる。

 当然のことながら、加速度ピックの使用下限温度が−50℃であるので、キューリー点はその温度以下でなければならない。またtanδの増大は、周波数分散の原因となるので圧電材料のそれよりも充分小さい必要がある。

 以上のことを考慮し、圧電材料PNT−28と組み合せる補償用コンデンサーの1つとしてTC-07(略名)を開発した。この材料はキューリー点が−78℃、20℃での誘電率=2360である。また20℃で=0、300℃でも 0.003以下である。

4. まとめ
 圧電材料PNT―28を4エレメント、コンデンサー材料TC-07を2エレメント用い、プレートシェアータイプの加速度ピックアップを設計、試作しその諸特性を測定した。その結果、電荷感度45pC/G(20℃),−50〜300℃の温度領域で感度変化15%以下と非常に優れた特性を有する、温度補償型加速度ピックアップを得た。その諸特性については表2、図3にまとめた。

表2 温度補償型加速度ピックアップの性能
図3 温度補償型加速度ピックアップの電荷感度温度特性

 さらに圧電材料、コンデンサー材料の開発を進め、それら材料の組み合せを検討することにより感度変化数%以下のピックアップの開発も可能となるであろう。

温度補償型加速度ピックアップ

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