1987/1
No.15
1. アマゾンで出会った蝉の大合唱のことなど 2. 古文書「ヘルムホルツ著 音感覚」の発見 3. 2-マイクロホン法を用いた低周波数領域における吸音率測定 4. 温度補償型加速度ピックアップ材料の開発

5. カナダにおける航空機騒音モニタリングシステム

       <研究紹介>
 
2−マイクロホン法を用いた低周波数領域における吸音率測定

騒音振動第一研究室 松 本 敏 雄

1.はじめに
 近年、道路橋や工場を発生源とする低周波音の影響が問題となっており、その低減のために有効な対策を開発することが望まれています。現在、可聴音領域の音響材料の特性については、残響室法によるランダム入射吸音率や定在波比法による垂直入射吸音率等の確立したものがありますが、低周波数領域においては対策のための音響材料の特性に確立したものがありますが、低周波数領域においては対策のための音響材料の特性に確率したものがありません。そこで、音響管を用いた2−マイクロホン法による低周波数領域での音響材料の特性の測定について紹介致します。

2. 測定原理
 ここでは材料の音響特性の測定方法として、2本のマイクロホンで観測した信号の間の伝搬特性から推定する2−マイクロホン法を適用しました。この手法については1980年にJ.Y.ChungとD.A.Blaserによって原理と測定例が報告されています。この報告の中の測定では、可聴音領域が対象となっており、これを低周波数領域まで拡張して考えることにしました。 2−マイクロホン法では材料の吸音率及び透過損失は次式のように表わされます。
(吸音率) 

(透過損失)
 ここでH12は2本のマイクロホン間の伝達関数(u:入射側、d:透過側)で、Suu、Sddはそれぞれ入射側及び透過側でのパワースペクトルです。また、Sは2本のマイクロホン間の距離で、調べたい周波数範囲で吸音率を正しく測定するためには、Cを音速、fmを測定の上限周波数としてSは次の条件を満足する必要があります。

 以上の原理に基づいて吸音率及び透過損失を算出しました。

3. 音響管
 前述の測定原理に基づいて材料の音響特性を測定するためには、平面波の垂直入射条件を満たす管の直径が必要です。また、本手法は2本のマイクロホンで観測した信号の間の位相差を利用する手法であるため、定在波比法よりはるかに短い管の長さで足りるのですが、本手法によって得られる結果を定在波比法と比較するために、管を長くとっています。

 以上のことから、平面波の垂直入射条件を満足させ、かつ、ある程度以上の資料面積を確保することを考えますと、本手法に使用する音響管の仕様は表1のようになります。また、音響管はそのスケールから実験室内に設置できないために戸外に設置し、外からのノイズの影響をできる限り小さくするために大部分を土中に設置しました。音響管の概要を図1と写真1に示します。


表1 音響管の仕様

写真1 音響管全景
   
図1 音響管の概要

4. 測定方法
 音響管内における吸音率及び透過損失の測定の測定係列を図2に示します。測定は、雑音発生器からのピンクノイズを帯域フィルタによって140Hzで高域遮断したものを30cmのコーン型スピーカで出力します。そして、吸音率測定では試料の前面、透過損失測定では試料の前後に設置した2本の低周波マイクロホンで測定し、1条件につき2分間のデータをデータレコーダに録音しました。この時の2本のマイクロホンの間隔は、吸音率測定では20cm、30cm、40cmとし、透過損失測定では20cm、40cmとしました。それぞれのマイクロホンの孔の位置を図3に示します。また、試料の取付方法は図4に示します。次に、マイクロホンの位相特性、振幅特性の違いの影響を取り除くために、同じマイクロホン間隔でマイクロホンの設定位置を交換して2分間の録音を繰り返しました。データの分析は、データレコーダに2分間録音されているデータからサンプリング時間からサンプリング時間2msecで81.92秒間のデータを計算機に取り込み、1024点FFTの40回の平均でスペクトル、伝達関数を求めました。さらに、伝達関数の推定ではマイクロホンの交換条件に対する平均化を行いました。吸音率及び透過損失の値は、各マイクロホン間隔で得られた結果の平均から求めました。

図2 測定系列
 
図3 マイクロホンの孔の位置
 
図4 試料の取付方法

 また、2マイクロホン法から求められる吸音率が、従来の定在波比法から求められる吸音率と一致するかどうかを比較するために、低周波マイクロホンを音響管内で10cm間隔で移動して音圧レベルをレベルレコーダで読み取りました。

5. 測定結果
 低周波数領域の吸音率測定に2−マイクロホン法を用いることの有効性を孔あき板を用いて検討しました。孔あき板は背後空気層の容積と板厚及び開孔率とから共鳴周波数を計算することができます。今回は、板厚24mm、孔径を5mm、孔間隔を10cmの孔あき板を用いて、背後空気層を25cm、50cm、100cmとして吸音特性を調べました。その結果を図5に設計共鳴周波数と比較して示します。共鳴周波数の実測値は設計値とほぼ一致しました。また100Hz付近にみられる吸音率の上昇は板振動によるものではないかと考えました。

図5 孔あき板の吸音特性(計算値の比較)

 音響管を用いた吸音率測定では、一般的には定在波比法による垂直入射吸音率が測定されます。そこで、2−マイクロホン法から求められる吸音率と比較するために定在波比法による吸音率測定をグラスウール(背後空気層50cm)を用いて行いました。両手法による結果を図6に比較して示します。結果は両手法ともほぼ一致しました。

図6 定在波比法と2-マイクロホン法の吸音率の比較

 これらの結果から、2−マイクロホン法は低周波数領域における吸音率測定に有効な手段であると考えました。

 次に、多孔質材料の背後空気層による吸音率の比較を行いました。一般に、可聴音領域における多孔質材料の吸音特性は剛壁から吸音したい音の1/4波長の位置に材料を置くと最も効果があると言われています。そこで、グラスウールを用いて背後空気層が無い場合、空気層50cm及び100cmの条件での吸音特性を調べました。図7に示すように背後空気層が無い場合には、低周波数領域における吸音能力はほとんどありませんが、空気層を50cmとした場合には120Hz付近で、空気層を100cmとした場合には60Hz付近でそれぞれ大きな吸音特性がみられます。しかし、1/4波長に対応する周波数は音速を340m/sとして計算しますと背後空気層50cmで170Hz、100cmで85Hzとなり、計算値は実測値よりも低くなっていますが、背後空気層が2倍になると周波数は1/2になっています。このことから、可聴音領域における現象を低周波数領域にも拡張して説明することに不合理でないことがわかりました。

図7 背後空気層と吸音率の比較

 また、2−マイクロホン法による透過損失の測定を鉛板を用いて行いました。その結果を図8に垂直入射質量則と比較して示します。測定結果は山、谷の激しい特性になっていますが、山の位置はほぼ質量則と一致しました。

図8 鉛板の透過損失

 2−マイクロホン法による吸音率及び透過損失について実験だけでなく、シミュレーション波形でも検討しました。シミュレーションは、単一パルス(周波数領域では全周波数について同じ成分をもつ波形)が入射したという条件で行いました。まず吸音率についてですが、シミュレーション波形と計算結果を図9に示します。この結果は、設定吸音率と完全に一致しており、本手法の有効性及び正当性を確かめることができました。次に透過損失についてですが、図10にシミュレーション波形と計算結果を示します。結果は実験と同じように山、谷を持つ特性でした。これは、透過側の管端が完全吸音でないため反射によるモードの影響によるものと考えられます。

図9 吸音率0.75のs謬レーションシミュレーション

 
図10 透過損失6dBのシミュレーション

6. まとめ
 2−マイクロホン法による吸音率及び透過損失の測定方法について実験とシミュレーションで検討しました。吸音率については、孔あき板で本手法の有効性を確かめ、グラスウールで従来の定在波比法による結果との比較を行い、両手法による結果の一致をみました。しかし、透過損失については、音響管内での音圧のモードが測定結果に影響するために、山、谷の激しい特性となっており、今後実用面での応用に当って検討を加えて行こうと考えております。

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