1985/9
No.10
1. 老年と聴力

2. 低周波音に対する可聴音のマスキング

3. 軽量高感度バイモルフ型圧電加速度ピックアップ  4. 液中微粒子計の開発 5. 土地利用計画の指針
       <研究紹介>
 軽量高感度バイモルフ型圧電加速度ピックアップ

圧電材料研究室 横 須 賀  勝

1. はじめに
 圧電素子を用いた加速度型振動ピックアップは構造が簡単、感度が大きい、測定振動数範囲が広い、小型軽量、取扱いが容易等々の理由から、最近各方面で使用されるようになった。例えば公害振動の計測、構造物の保安監視、機械の運転状況の把握、作業場の環境管理、地震の実測や予測など、用途は拡大の一途をたどっている。特に最近は各種機械の小型化、機材の軽量化と相まって、系の振動形態に影響を及ぼさないような小型で軽量のピックアップが使われるようになって来た。
 現在使用されている圧電型加速度ピックアップの構造としては、圧縮型、せん断型がほとんどであるが、小型軽量かつ高感度なピックアップという観点からはバイモルフ型にも注目すべきであると思われる。当研究室では数年来、この構造を用いたピックアップの研究開発を行なって来た。そこで、本稿ではバイモルフ型加速度ピックアップの構造、性能、特徴等について、圧縮型、せん断型にも言及しながら述べたいと思う。

2. 圧縮型、せん断型とバイモルフ型との比較
 圧電型ピックアップは図1のように、圧縮型、せん断型、バイモルフ型の3種類に大別できる。それぞれの特徴は下記のとおりである。
  圧縮型
 薄いドーナッツ状のセラミック板に電極を付け分極し、その上におもりを取り付けた構造であるため、作製が容易であり機械的に強い。力の加わる方向は分極軸方向、つまり圧電定数d33の縦効果により出力を得る構造である。このため、周囲の急激な温度変化に対し、出力電圧が変動する等、パイロ効果による影響が無視できないことがある。
  せん断型
 円筒状セラミック素子の内外面に電極を付け出力を取り出す構造であり、おもりは円筒外周に接着してある。分極方向は円筒軸方向であり、電極面とは平行であるため圧電定数はd15、つまりせん断効果を使うことになる。d15はd33より大きな値を有するため、圧縮型よりも感度が大きくとれる。又、力の加わる方向と検出方向は異なるためパイロ効果は無視できる。このため最近ではこのタイプが最も多く使用されている。
  バイモルフ型
 これは二板の薄いタンザク状、あるいは円板状圧電素子の間に金属板をはさみ接合し、一端を固定あるいは中央部を固定して使用する構造である。この場合、作用力に対し素子は屈曲振動を行なうため変位は大きく、圧電定数d31の横効果により高い感度が得られる。パイロ電気は二板の素子で互に打ち消し合い非常に少ない。

図1. 圧電型ピックアップの構造

3. バイモルフピックアップの構造
 圧電バイモルフは構造上、高感度を有し、さらに機械的インピーダンスを低くできるため、古くから電気音響トランスジューサーとして、マイク、イヤホーン、レコードピックアップ等の素子として使われてきた。その構造は大別して図2のように二つに分けられる。(a)は並列接続と呼ばれ分極方向は上下のセラミック板とも同じ方向であり、電極からのリード線の引き出しは中間と上、下のセラミック板の外側を短絡して取り出す。(b)は直列 接続と呼ばれ分極方向は二板のセラミック板で対向し、電極からの引出しは上、下のセラミックの外面から行なう。一板のセラミック板の容量、発生する電荷および電圧をそれぞれC、Q、そしてVとすると、(a)の接続で出力電荷は2Q、電圧はVとなり、(b)ではQ、2Vとなる。電荷で検出するときは(a)が有利であり、電圧で検出するときは(b)が有利である。しかし中間電極からのリード線の引出し、外部電極間の相互接続など製造上困難をともなうため通常(b)の直列接続が利用される。
図2. バイモルフピックアップの構造
 次にバイモルフの一端を固定し、他端に荷重を加えたときの静特性について考えて見る(丸竹:小林理研報告1955年第5巻参照)。なお簡略化のため二板の圧電板の間に補強板は挿入されてないものとする。座標軸を図3のようにx、y、zとし圧電板の長さを、幅をa、厚みをtとする。

図3. バイモルフと座標軸(x、y、z)との関係

力をF、電圧をV、自由端の変位をξ、電荷をQとするとよく知られた次の関係が成りたつ。

   圧電体については次の圧電方程式が成り立つ。

ここでE3、D3は電揚の強さ、電束密度、S1、X1はx方向に対するひずみと応力であり、 はそれぞれ誘電率、圧電率、弾性率である。電圧Vを加えたときの自由端の変位ξは、このセラミック板の曲率半径をRとすると

と表わされる。の関係から、得られた結果を示すと次のようになる。

 ここで考えていることはV=0で自由端に力が加わったときであるから

の式を得る。
 この式から明らかなように、出力電荷を大きく得るためには圧電定数の大きな材料を用い、長さを長く、厚みtを薄くすることである。しかし実際には、極薄セラミック板の作製が容易でないこと、又素子の共振周波数がとtに関係すること等から、使用目的に応じて素子の寸法は決定されねばならない。

4. バイモルフ素子の作製および特性
 圧電型加速度計に用いられる圧電素子材料として、最近ではPZTと呼ばれるPbZrO3とPbTiO3との固溶体が専ら用いられている。薄板状の大面積セラミックシートは通常、ドクターブレード法により作製されるが、量産を目的としないならば焼成したブロックからスライス、研磨により仕上げても良い。バイモルフ素子をつくるには、まずセラミックシートを長さ80o、幅40o程度の長方形に切断し電極形成後分極処理する。それからこれら二枚のセラミック板の間に薄い金属板をはさみ接着し、150℃〜200℃の高温で硬化させる。金属板を挿入するのは大振幅、あるいは衝撃に対し素子の折れ、ひび割れを防ぐためのものでいわば補強材の役目をする。次に出来上がったバイモルフを必要なサイズに切断する。図4には大小三つの素子が示されており、最小のもののサイズは4.0×0.8×0.28o3と非常に小さい。

図4. バイモルフ素子

 図5は中間層としてしんちゅう板を入れた長さ7.0o、幅2.5o、厚み0.45oのバイモルフ素子の一端を固定し、つまり片持梁の構造とし、他端に60rのおもりを付けたときの振動数特性を示している。室温における感度は3.8pC/mS-2であり、そのときの固有振動数は2.5KHzである。なお80Hzにおける横感度は3%以下であるから実用上、問題はない。おもり無しのときの感度は1.4pC/mS-2、固有振動数は4.7KHzである。0.1Hzから1KHzまでの感度の変化は10%以内である。

図5. バイモルフ素子の振動数特性
 図6は図5と同じサイズのバイモルフ素子の一端を固定し、他端に付加するおもりを変えたときの電荷感度(Q)、および固有振動数の変化を示すグラフである。付加するおもりを120rにすると感度は6.8pC/mS-2とかなり増大し、固有振動数は1.7KHzまで低下する。グラフから感度とおもりは直線的な関係にあることがわかる。なお加速度を0〜10.0mS-2までの範囲で変えたとき、電荷感度と加速度は直線的な変化を示しており、十分に大きな加速度まで使用可能である。
図6. 付加質量(M)に対する電荷感度(Q)
および固有振動数(fR)。

 表1は試作したバイモルフ型ピックアップの特性表である。ハウジングとして高力アルミを用いることにより総質量0.8gと軽量で、感度は3.8pC/mS-2|とかなり大きな値を有する小型ピックアップを作ることができた。

表1. バイモルフ型ピックアップの特性表
5. まとめ
 機械、機具等の振動測定、監視に用いるピックアップは全体の系の振動に影響を与えないように十分に小さく、かつ軽量でなければならない。この趣旨に沿って、PZT系素材を用いたバイモルフ構造小型ピックアップの試作研究を進めて来た。このピックアップの大きな特徴は、同じ重さの圧縮型、せん断型と比べると一桁以上感度が大きいことである。又、バイモルフ素子は構造上、感度を高くとれるため、さらに軽量化を進め総重量0.5g以下のピックアップは十分に作製可能である。超軽量化に伴って、使用範囲は今後ますます拡大するものと思われる。

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