1984/12
No.7
1. 私と補聴器

2. 低周波領域におけるマスキングについて

振動ピックアップの絶対校正(その2) 4. Tr式微風速計の概要−新しい熱式風速計− 5. 騒音と会話の了解度
      <技術報告>
 振動ピックアップの絶対校正(その2)

リオン滑礎技術部 鈴 木 克 巳

1. はじめに
 レーザ干渉法による振動ピックアップの絶対校正について、小林理研ニュース1984/9、No.6で、主に原理に関して説明しましたので、今回は、干渉縞計数法の校正装置、校正の手順、校正精度と基準ピックアップについて紹介します。

2. 校正装置
 小林理研とリオン鰍ェ共同で研究開発した校正装置のブロックダイアグラムを図1に示します。この装置は加振系、振幅計測系、電荷出力計測系の3つの系列に分けられます。加振系はシンセサイザ、アッテネータ、パワーアンプ、加振器から構成され、振幅計測系はレーザ発振器、ミラー、フォトディテクターなどの光学系、アンプ、フィルタ、レシオカウンタから構成され、電荷出力計測系はチャージアンプ、差動電圧計から構成されています。この中で、加振系の加振器、振幅計測系の光学系は、図2に示すように、それぞれ独立した除振台に設置しました。そのため、外部からの振動ノイズの影響及び加振系から光学系への振動の漏れによる影響を小さくしています。除振台には、制動材を用いて音響対策もしています。また、測定室の壁、天井には50oのグラスウールを張り、半無響的な部屋としました。
図1 校正装置のブロックダイアグラム
 
図2 加振系と光学系の除振台

 このように、加振系から光学系への影響と、測定環境の音響及び外乱振動の影響が最小となるような構造とし、校正精度の向上を図っています。

3. 校正の手順
 加速度ピックアップの電荷感度は、基準の加振加速度に対する出力電荷で表されます。単位表示はあるいはとなります。加振振動数は、通常、80Hz、100 Hz、160Hzのいずれか1つを用います。
 いま、電荷感度sをで表しますと、(1)式が得られます。

ここに、

電圧計読値       
  電圧計読取補正値   %
電荷増幅器校正値   
9.80665
加振加速度       

です。
 ここで、加振振幅を干渉縞計数法により求めますと、
加振加速度aは(2)式で与えられます。

ここに
加振振動数     Hz
周波数比
レーザーの波長   He-Neで0.63282μm
です。
 (1)、(2)式から、加速度ピックアップの電荷感度は、前もって電圧計読取補正値と電荷増幅器校正値とを求めておけば、周波数比、加振振動数、電圧計の読値を測定するだけで得られます。
 周波数比、加振振動数はカウンタによりデジタル値を、電圧計の読値は差動電圧計によりダイヤル目盛の読値を、それぞれ測定します。

4. 校正精度
 精度には「精密さ」と「正確さ」とが含まれます。
 「精密さ」は、偶然誤差のバラツキを表し、「正確さ」は、主に、測定器が固有する誤差を表します。
 そこで、本装置の校正精度がどの程度であるのか、「精密さ」と「正確さ」に分けて検討しました。その結果、次に記すように、当初目標とした±0.5%は十分に満足しているといえます。
4. 1 精密さ
 偶然誤差として考えられるものは、振動ピックアップの取り付けによるもの、経時的なもの、測定者の個人差、干渉縞計数法における±1の計数誤差などです。そこで、手元にある基準ピックアップ(詳細は後述します)を3個使用し、感度校正を繰り返し行いました。測定は、日時と測定者を変え、ピックアップの取り付けと取り外しは、測定時毎に行いました。測定時の条件は、
 温度は23℃±3℃  
 湿度は50%±20%  
 取り付けの締め付けトルクは2Nm  
 加振周波数は80Hzと160Hz  
 加振加速度はそれぞれ10G

などです。なお、ピックアップには20gの擬似質量を取り付け、その質量の上面を研磨して振動鏡としました。
 測定結果は、図3に示すように、バラツキは極めて小さく、いずれのピックアップについても、精密さは0.1%以内といえます。図3の零は平均値です。

図3 干渉縞計数法による測定値のヒストグラム

4. 2 正確さ
 正確さは、通常、不正確率で表されます。そこで、本装置の不確率を、ISO/DP5347/DAD1 (Primary Vibration Calibration by Laser Interferometer)に出ている式から求めてみました。この式(3)には、誤差を生じると考えられる全ての要因を網羅してあります。

ここに、
電圧計の誤差
加振振動数の誤差  
周波数比のカウント誤差 
1カウントの計数誤差が与える出力電圧の誤差
全体の歪率
基準ピックアップの横感度比
加振器の加振方向に対する横振れの割合
  ノイズ・ハムの加振におよぼす割合
レーザーの波長の誤差
です。
 式(3)の中で、不正確率に一番影響を与えるものは、電圧計の誤差です。世界的にみて、精度が最も良いといわれ、現在、本装置で使用している差動電圧計でも、カタログ精度は0.05%です。二番目には、1カウントの計数誤差が与える出力電圧の誤差が挙げられます。次は、歪率、ピックアップの横感度比、加振器の横振れの割合、などです。
 実測できるものは測定値を、実測できないものはカタログ値を求め、式(3)にそれらの値を入れて計算すると、=0.12%となります。
 は、電荷増幅器の出力電圧について算出したものです。さらに、電荷感度を求めるには、電荷増幅器の増幅度の校正が必要です。この校正は、1,000pF±0.03%の標準コンデンサを基準として用いると、不正確率が0.1%以内で行うことができます。
 以上の結果から不正確率は、単純計算でも0.22%以内となります。

5. 基準加速度ピックアップ
 基準加速度ピックアップは、とくに、規格や条件が定められているわけではないが、形状は図4に示すようにback to back又はpiggy back方式と呼ばれる恰好をしています。すなわち、底面と上面ともにねじ止めができるようになっています。それは、加振器と被測定ピックアップとの間に挿入し、比較校正をするための基準を与えるものだからです。
図4 基準加速度ピックアップの基本形状

 基準ピックアップと称するものは、現在、世界で7種類あり、日本ではリオン鰍フPV-03が1種類あります。

写真1

 PV-03(写真1)は、小林理研で開発したBi層状酸化物の圧電素子を用いています。特徴は、振動数特性が平坦なこと、図5に示すように温度特性が良いこと、安定性に優れていること、外部ノイズを受け難い構造を採用していることなどです。主な仕様を表1に示します。

図5 PV-03の温度特性
表1 PV-03の主な仕様

 感度、振動数特性の測定は、前述のレーザ干渉法を用いて行っています。その一例を図6に示します。図6は擬似質量を変えたときの振動数特性を示したものです。
図6 PV-03の周波数特性

6. おわりに
 今回は、主に干渉縞計数法について述べました。干渉縞計数法による校正の振動数範囲は20〜400Hzで、振幅は40μm以上が必要不可欠です。それ以上の振動数での校正は干渉縞消失法によることになります。そこで、今後の課題としては、干渉縞消失法の校正精度の検討、より高い振動数での校正、より低い振動数での校正などが考えられます。

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