1984/12
No.7
1. 私と補聴器

2. 低周波領域におけるマスキングについて

振動ピックアップの絶対校正(その2) 4. Tr式微風速計の概要−新しい熱式風速計− 5. 騒音と会話の了解度
       <研究紹介>
       ―低周波シリーズ2―

 低周波領域における家屋、建具応答について

騒音振動研究室 清 水 和 男

1. はじめに
 低周波音による苦情の中で、一番多いのが戸や窓、障子等の振動や、これらが振動することによって発生する2次的な音によるものです。日本家屋は御存じのように家屋の構造や窓等も複雑でかつ種類も多いので、低周波音に対する応答について簡単に結論を出すことは困難であります。当研究所では数年来低周波領域における家屋、窓等の遮音性能、とくにガタツキに関する応答について実験や調査を行ってまいりました。これらの研究は現在も継続中でありますが、その結果の一部について紹介いたします。

2. 建具のがたつき
 一般の住宅で用いられている建具の中から、木製ガラス戸、木製雨戸、障子、アルミサッシ、鉄サッシの5タイプ、各3種類の計15種類の建具を選定しました。実験は当研究所の簡易残響室(開口部の外は自由音場)の開口部に枠及び建具を取付け、開口部内側から厚い板材で囲い、板材に取付けたスピーカーから低周波音を発生させて行いました。音源、建具の取付け概要を図1に、測定系列を図2に示します。実験はまず建具に当たる低周波音(入射音)の音圧レベルを一定とし、周波数を変化させて建具各部位の振動性状及び建具の外側1m点の騒音レベルを観測しました。暴露する低周波音の周波数は、原則として建具自身及び取付け条件できまる共振周波数を含む3つの周波数(5〜50Hz)とし、各周波数において建具に当てる低周波音の音圧レベルを、5dBのステップ(一部2.5dBステップ)で増減させてがたつきの発生状況を調べました。なお、ここで「がたつき」とは、建具がまわりの枠等にぶつかって不規則な運動をするとき「がたつき有り」と定義することにしました。実験では、建具の各部のがたつきの発生し始める音圧レベルを、オシロスコープ等で振動波形を観測しながら建具に当てる音圧レベルを変化させてゆき、建具等に取付けた振動加速度ピックアップの波形のくずれた状態をもって規定しました。(図3参照)

図1 音源、建具の取付け方法
 
図2 測定系列
 
図3 建具のがたつきの概念図

 実験結果を図4に示しましたが、これによると同種類の建具であっても、構造、材質、取付け状態が変ると、がたつきの始まる音圧レベルも異なるということがわかります。各々の建具は取付条件等も含めて個別の共振特性を持っているため、がたつきの始まる音圧レベルはまちまちてす。しかし、入射音圧に対して建具の振動と2次的な発生音は、図5に示すようにある程度の対応を示しています。すなわち入射音によって建具等が加振されて振動することにより音が発生します。実験結果より金属性の建具は、木製建具よりがたつきは発生しにくい傾向があることがわかりました。

図4 建具のがたつきの始まる音圧レベル
 
図5 建具の振動と2次元

3. 低周波領域での家屋内外のレベル差(遮音性能)
 各部材の低周波領域での遮音性能試験を実験室で行うことはむずかしいので、実際の現場で比較的低周波領域で高い音圧レベルが観測される建屋の内外で音圧レベル差を求めました。もちろん室内の音圧レベルは外部の低周波音に起因して観測されます。実験に使用した家屋及び窓の構造はつぎのとおりです。
  1)木造家屋―木枠窓 (15軒)
  2)木造家屋―アルミサッシ窓 (13軒)
  3)木造モルタル家屋―木枠窓 (3軒)
  4)木造モルタル家屋―アルミサッシ窓 (22軒)
  5)鉄筋コンクリート家屋―アルミサッシ窓 (6軒)
 で合計59軒である。なお鉄筋コンクリート家屋の場合は、大部分がアルミサッシ窓で、木枠窓はなかった。室の大きさは4.5〜8畳である。

図6 内外レベル差(家屋・窓別)

 図6にこれらの内外レベル差を示します。結果は各バンドの平均値で、室内の各バンドの音圧レベル―室外の各バンドの音圧レベルの差で示しました。したがって、いわゆる音響透過損失の表示方法とは逆になります。図中白抜き印が木枠窓、黒印がアルミサッシ窓です。この結果内外レベル差は5Hz以下では家屋、窓構造に無関係に一定で差はありません。5Hz以上の周波数帯域では、徐々にレベル差は増加し、63Hzになると10dB程度の差が生じます。内外レベル差は家屋構造よりも窓構造によって異なる傾向を示しています。図7に木造家屋、図8に木造モルタル家屋の木枠窓とアルミサッシ窓の内外レベル差を示します。図は平均値と標準偏差で示しました。木枠窓とアルミサッシ窓を比較すると5Hz以下ではほとんど差はないが、それ以上の周波数になるとアルミサッシ窓の方が内外レベル差が大きくなります。また内外レベル差に周波数による凹凸が見られるのは、室の音響特性によるものと考えられますが、明確な結論は得ていません。

図7 内外レベル差(木造家屋)
 
図8 内外レベル差(木造モルタル家屋)

4. おわりに
 低周波領域における建具応答として、建具のがたつきと、内外レベル差について実験的研究をこころみてきました。建具のがたつきについては、まだサンプル数が不足していますがある程度の結果は得られたと思われます。低周波音による建具及び家屋の応答については現在も実験を継続中であり、さらに多くのサンプルについて構造、使用状態、音響特性を考慮した実験、調査を行い、建具、家屋応答について物理的な解明をしていきたいと考えています。

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