1984/3 No.4
1. 震動計測の標準と基準

2. 日本における航空機騒音問題

3. 母と子の教室 4. 屋根材料の雨音実験 5. 光散乱式粒子計数装置について 6. 欧州音響研究所訪問記
       <技術報告>
 光散乱式粒子計数装置について

リオン滑ツ境測器技術部 近 藤  郁

 は じ め に
  大気中に浮遊する固体、又は液体の粒子状物質(エアロゾル)の挙動は、気象現象や大気汚染の要因の1つとして古くから研究されてきました。又、近年躍進著しい半導体工業、生物工学等の分野では、製造、開発の作業環境中でのこの微小粒子の粒径一個数分布が、製品の歩留りや品質に大きく影響しています。そのためこの微小粒子の除去に力を入れ、クリーンルーム等の高精浄度空間が作られ粒子濃度が厳しくチェックされるようになりました。微小粒子を計測する方法として、粒子の力学的慣性力、電気移動度、光散乱強度などを利用したものが考えられてきました。ここでは、これら計測方法のうちで粒子の光散乱強度を用いた計測技術について選べることにします。
 原 理 
  大気中の浮遊粒子による光散乱現象は、空の色の変化やその空にかかる虹、又紫や白に見える煙草の煙、スモッグによる視程の良し悪しなど、身近に多く見ることができます。
  散乱現象の理論的解析は、1908年にMieが球形等方性粒子の表面における電界、磁界の連続条件を解くことで巌密な光散乱強度分布の理論式を示しました。強さ、波長λの自然光が粒径D、屈折率mの粒子で散乱される時、粒子の中心から距離r、入射光との角度θでの光強度Iを与える理論式は

  ここでらはそれぞれ垂直偏光成分、水平偏光成分の散乱分布関数でRiccati-Besse/関数、Ledgendreの多項式を含む複雑な式となっています。(1)式は粒径が入射光の波長より十分小さい時、散乱強度は粒径の6乗に比例して、入射光の4乗に反比例するという近似解を得ることができます。このことは例えば、粒径0.2μmの粒子の全散乱光量を1とすると0.1μmのそれは0.016と非常に少なくなることを意味し、このことが実際の計測上の粒径分解能の良いことと共に、微小粒子の計測の困難さを想像させます。
  (1)式の数値解法には複雑な計算を必要としますが、計算機の発達につれて吸収性粒子(mか複素数)を含めて多くの計算結果の報告がされています。又、高輝度の安定光源や高感度の光電変換素子の進歩により、実際に浮遊粒子の光散乱量を測定することが可能となりました。現在、一般に光源に白色ランプを用いた時、最小可測粒径は0.3μm付近となり、光源にレーザ(主にHe-Neレーザ)を用いた時、0.1μm近傍といわれています。次にこの測定方法を用いた計測技術について選べます。
 測 定 方 法
 図1は光散乱式粒子計数装置KC-01Aタイプのセンサー部の概略図を示しています。層粒状の流れを保っている試料空気流に光源からの光を収束して照射させます。粒子により散乱された光を入射方向光軸交角70°で光電子増倍管上に集光します。光電子増倍管からのパルス状の出力電気信号の数から粒子数を、又波高値から粒径を標準粒子と比較することで求めます。照射系と受光系の光軸交角が粒子による散乱光分布の測定する範囲を決めます。図2は式(1)より計算した散乱光分布ですが、この図が示すように入射波長付近の粒径の粒子は前方散乱の割合が非常に大きくなっています。したがって入射系の前方に受光系を位置することは強い散乱光を集光できる利点がありますが、一方入射光が直接受光系に入りやすいという欠点があります。又、粒径散乱強度の比例関係の良し悪しも散乱光分布のうちの集光される範囲に依存しています。これらの要素を総合的に評価して、KC-01Aでは光軸交角70°を採用しています。

図1 KC-01Aタイプのセンサー概略図
 
(a) サイズパラメータが(=πx粒径/入射光)が1.5入射光の波長が0.5μmの時粒径は0.24μm
 
(b) サイズパラメータが3.0入射光の波長が0.5μmの時粒径は0.48μm

 光源にHe-Neレーザを用いた光散乱式粒子計数装置KC-14のセンサー部の概略図を図3に示しています。照射光にHe-Neレーザの光共振器内部を用い、その光共振器内部に集光用の楕円鏡を置いています。レーザ交線と試料空気流の交点を楕円鏡の1つの焦点と一致させ他の焦点に光電子増倍管を置き楕円鏡で集光された光を受光しています。このため全立体角の半分(2πStrad)以上の集光角を得ることができました。又、レーザ光線の断面強度分布は中心が最も強いガラス分布(TEM00モード)であるので、試料空気流の径がレーザビーム径に十分細くないと同径同質粒子に対するパルス波高値のばらつきが大きくなります。そのため、試料空気流を包み込んでいる清浄空気(シースエア)による空気動力学的な圧力で試料空気流の径をインレットの吹き出し口より細く絞ってレーザ光と交差させています。このような光学的、流体力学的改良により粒子に照射される光のエネルギー密度が上がり、KC-01Aタイプの最小可測粒径である0.3μmに対して、1/500以下の散乱断面積の粒径0.11μmを、KC-01Aの60%の試料空気量で計測が可能となっています。

図3 KC-14タイプのセンサー概略図

 現在、エアロゾルを計測する装置は次の2つの点で主に性能が評価されています。その1つは可測粒径で光散乱法の場合は特に最小可測粒径が重要視されます。もう1つは単位時間あたりにサンプリングされる試料空気の量です。しかしこの2つは独立した要素でなく互いに密接に関係しています。光散乱式の測定器では可測粒径を小さくするためには粒子に照射される光のエネルギー密度を上げることが必要となります。照射光源の出力を大きくしたり、あるいは照射光の波長を短くすることでもエネルギー密度は上がりますが、それぞれ実際の測定器として大きさや集光系の材質などで限界があります。したがって光線を絞ることでエネルギー密度を上げることが必要となります。一方試料空気流の径は光線の径より細くすることが必要で、流量を一定量に保つためには流速を増さなくてはなりません。しかし、流速が音速に近づくにつれ抵抗も大きくなり、吸引ポンプの能力等により限界があります。このため最小可測粒径を小さくするためには単位時間あたりの試料空気量を減らすことが必要条件となります。現在、粒径0.1μm付近を最小可測粒径とする時、実用上の試料空気の最大吸引量は約5cc/秒といわれています。

 お わ り に
 測定を必要とするエアロゾルの粒径が0.1μm以下のより小さい範囲に向かうことが十分に予測されます。現在この領域を測定するには分解能や取り扱いの難しさなどいくつか問題もありますが、数種の方法が考えられています。具体的には粒子を強制帯電させその電気移動度より粒径に変換する方法、粒子を核として水、アルコール等を凝集させて成長した粒子を光散乱法により計測するなどの方法があげられます。又、連続X線やレーザ光などの高エネルギーを粒子に照射して、その構成分子を励起させ、放出されるエネルギーを光や音波として分析することで粒子を形成している物質の定性、定量分析を行なう方法も、粒子の発生原因を探るうえで注目されてきています。
  エアロゾルの挙動から制御・除去までその関心は年々高まっています。それにつれて広い粒径範囲を同一方法で信頼できる試料空気量をサンプリングして、絶対粒径に対応した個数からその成分までの同時計測が、将来必要となってくると思われます。

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