1983/12 No.3
1. 騒音の評価と等価騒音レベル

2. 軽量遮音パネルの開発

3. 合わせガラスのダンピング特性とコインシデンス 4. 透明強誘電体セラミックの特性と応用 5. 騒音・振動解析装置 SA-73
    
 騒音の評価と等価騒音レベル

理事長 五 十 嵐 寿 一

1. 等価騒音レベル設定の経緯
 等価騒音レベル・Leqが作業及び環境騒音を代表する物理量として国際規格に採用され、JIS騒音レベル測定方法の改訂に際してこれを含めることになった。騒音の評価量は人間の主観的な判断に合致した評価量でなければならないが、音は弱強、音質(周波数成分の違い)時間変化の様子(タイムパターン)について多種多様である。一方、評価は人間の心理的な判断によるが、音の有用性、親近感などの経験に基づく要素のほか、時として利害関係にも関係があるので、これらを単に物理量として表現することにも困難がある。
 人間の聴感に対応させることについては、統計的に測定された聴感の周波数特性を計器に組込むことによって音の大小を表現することとし、A特性の周波数重みをつけることによって指示騒音計が開発され騒音レベル測定方法が確立した。しかし、騒音計は短時間の音の大小は表示することができるが、時間的に変化する音を簡単に一つの数値で表現するためには、各種の音に対する人間の反応を統計的に検討する必要がある。
 道路交通騒音のように不規則に変動する騒音については、約30年前に中央値(現在のL50)が提案され長時間の評価量として使われてきているが、当時騒音計の指示値をもとに何とか一定時間の平均値を算出できないかということで提案された統計量で、一定の条件の下では確かに有効な(やや複雑な計算を必要とするが)方法である。この場合、90%レンジ(現在のL5、,
L95)も同時に提案され、変動の幅も表示することになったが、この変動幅を評価に反映することについては必ずしも十分であったとは言えない。また間欠的な音に適用することが出来ないので、衝撃騒音や航空機騒音などについては、ピークレベルの平均値と発生の回数を併記することになっていた。
 一方、国際的には、1950年代の後半からISOにおいて騒音評価の審議が始っているが、この場合は定常騒音、不規則変動騒音、間欠騒音及び衝撃騒音を含めて統一された物理量で表示する方向で審議が進められ、これが現在等価騒音レベルの形にまとめられることになった。騒音評価量として必要な条件をあげると
 (1). 人間の判断との相関がよいこと、とくに騒音の長期間にわたる蓄積効果も評価出来ること。
 (2). 各種の騒音について統一的に適用出来ること。
 (3). 単一の数字で表現出来ること。
 (4). 標準化された測定器で測定出来ること。
 (5). 各種条件のもとで予測可能であること。
 各種騒音に対する人間の判断については、実験室における比較測定、社会調査等によって等価騒音レベルが他の評価量に比べて勝れていることはすでに議論の余地はないものといえる。ただし、衝撃騒音についてはその特殊性もあって評価の方法はまだ確立されていないが、単独の衝撃騒音については騒音暴露レベル(全エネルギー量)衝撃騒音が他の騒音と複合する場合は等価騒音レベルによって評価を行うことが国際的に合意されていて、当分の間等価騒音レベルに衝撃音の補正を行う方向である。等価騒音レベルは騒音のエネルギー量(一般にA特性の重みをもった)であって、各種騒音に適用出来るばかりではなく、音源に関するデータ、周囲条件を考慮して一義的に予測可能であることも大きな特徴である。
 現在、エネルギーを積分して平均表示する計器も開発され、近く国際規格(IEC)として発効されることになっている。等価騒音レベルはまた従来の騒音計の出力をサンプリング処理することによって算出も可能であるばかりではなく、L50と同様な方法で手計算によっても求めることができる。

2. 等価騒音レベルと基準値の関係
 現在、騒音に関しては環境基準、規制基準等が制定され、騒音対策が実施されているが、道路交通騒音についてはL50、鉄道騒音についてはピークレベルの平均値、航空機騒音についてはWECPNLとそれぞれ異った評価量が用いられている。また騒音規制法においては、工場、建設作業等に伴う騒音について、間欠的な場合はピークレベルの平均値、不規則に変動する場合は90%レンジの上端値(L5)をもって評価値としている。
 これらの評価量によって長年行政が行われ、騒音対策上大きな効果をあげてきていることもあって、等価騒音レベルが統一されたよりよい評価量であるからといって、今後評価方法を変更することについては多くの困難が予想される。一つには評価方法に伴って基準値、規制値が関係するからで、道路騒音についてL50、55dBAは変動幅によってLeq、55〜60dBAになる。したがって簡単に数値をスライドすることが困難なことと、従来の数値との整合性の問題が残る。しかし交通量が少ない場合のL50による評価の矛盾はもともと不規則に変動する場合に適用すべきL50を間欠騒音として取扱う場合に用いたために生じた問題で今後の検討課題である。
 新幹線のピークレベルの平均値による評価は、騒音レベルと継続時間がほぼ一定でかつ運行回数が東海道新幹線程度を前提にして簡単のためにピークレベルで規定した経緯もあるので、これを鉄道騒音全般に適用するには基準値の変更等基本的な問題がある。
 航空機騒音のWECPNLは国各がまちまちに使っていた評価量を統一する目的でISO及びICAOによって提案されたものであるが、我が国で用いられているWECPNLは継続時間を10秒とし、(WECPNL-13)を時間帯の重みをいれたLeqと読み替れば等価騒音そのものと言ってよい。
 しかし、現在基準値または規制値として使われている評価量は一定の条件において妥当な評価量であって必ずしも等価騒音レベルに変更する必要はないと言ってよい。
 一方、各種騒音が複合する場合の評価及び音源性状を前提とした予測などを行うにあたって、等価騒音レベルは極めて合理的な概念であることを強調しておきたい。したがって、将来新たに測定方法を定める場合は勿論、環境の予測等に当っては等価騒音レベルを基本とし、必要があれば、L50あるいはピークレベルと回数という形に変換することは可能である。

3. 等価騒音レベル測定における問題点
 等価騒音レベルが評価量として妥当であり、予測にあたって合理的な物理量であるとしても、実際の測定にあたってどのようにすべきかという問題がある。原理的には騒音エネルギーを積分して時間平均することになるので、一定時間(たとえば1時間又は24時間)毎に読みだせば測定結果が得られるが、特定の音(たとえば航空機騒音)だけを積分するためには、航空機騒音を識別してそれ以外の音は除外するようにしなければならない。しかし、これは自動測定するために必要なことで、等価騒音レベルとしての問題ではない。また、等価騒音レベルは必ずしも厳密な積分による必要はなく、適当な間隔でサンプリングを行って求めることができる。ただし、この場合、騒音の変動周期に比べて十分短いサンプリング間隔で測定を行う必要がある。とくに衝撃騒音は継続時間が短いので間隔を十分短くとる必要があるが、騒音計の時定数を(SLOW)にしておけば0.1秒間隔程度のサンプリングで十分衝撃音のエネルギーを算出することができる。この場合はむしろ騒音計のダイナミックレンジが十分とれていることが重要である。
 つぎに、一日24時間の等価騒音レベルを測定するに当って、測定時間を短縮して1時間、あるいは2時間ごとに何分測定すればよいかという問題がある。しかし、これも等価騒音レベル固有の問題ではなく、1日の間の騒音の変動を代表させるためにどのような時間帯に何分間測定すればよいかという統計上の問題で、変動パターンの周期性を考慮して測定時間を設定する必要がある。いずれにしても騒音の特性を十分把握して、測定すべき対象を明確にする必要がある。
 騒音に関する評価は始めに述べたように騒音以外の要因にも左右され個人差もあるので、等価騒音レベルという物理量が必ずしも最良の指標ではないにしても、これを基礎として騒音対策を進めることが最も効率のよい方法であると考えられる。一方、作業騒音の評価についてISOでは作業能率等の観点から改めて検討しようとする動きがある。作業騒音は一般騒音に比べて騒音レベルも大きいので、作業騒音の評価に関するデータが蓄積されることによって、一般環境騒音の評価についてもうすこしはっきりした結論が得られるかもしれない。

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