1984/3 No.4
1. 震動計測の標準と基準

2. 日本における航空機騒音問題

3. 母と子の教室 4. 屋根材料の雨音実験 5. 光散乱式粒子計数装置について 6. 欧州音響研究所訪問記
   
 振動計測の標準と基準

所 長 時 田 保 夫

 我々が物指を使って長さを測ったり、時計で時間を測定する時に、その計られた量が、ある基準をもとにしているものであることは、暗黙のうちに了解し合っている。我が国では、メートル法に従って国際的にも確立された計量基準のもとに、実用的な単位が使われており、我々も安心して計測値を扱っている。
 さて、我々の周囲には、計測しなければならない振動や、計測したい振動がたくさんある。例えば、地震、公害振動と呼ばれる地面振動、機械の振動、建物や構造物の振動など枚挙にいとまがない程である。振動の大きさを表わす場合には、変位、速度や加速度などの振幅と振動数を示す必要があり、このことは昔から振動量の基本と考えられている。
 現在、振動を測る場合には、振動体に取り付けた振動ピックアップの出力を観測して、その振動量を知るのが最も一般的な計測方法である。従って、そのピックアップの感度(電気出力/振動量)が正確に判ったものでなければ、電気出力が正確に判っても振動の絶対値を示すことにはならない。異なる振動物体があって、どちらの振動が大きいかを判断するために、一つの振動ピックアップを交互に取りつけて出力を比較し、大小を判断することは容易であるが、その振動の絶対値まで知りたい場合には、感度が判っていなければできないことである。従って振動計測をする場合に、絶対感度はすべての場合に必要なものではないが、計量にかかわる場合には、精度のよい絶対感度が必要になる。

 日本の振動標準
 振動計として市販されているものは、地震計や機械振動測定用、振動レベル計など多数の機種がある。それぞれの機種で必要とする周波数範囲での標準が確立されていることが望ましいが、現在、振動計量の国家標準は振動レベル計の周波数帯域に限り供給されているにすぎない。前述のように、振動は、長さと、振動数が正確に測定されれば振動量の絶対値は得られ、長さと時間の基準はそれぞれ有効数字9桁の標準波長と10桁の標準周波数で定義されていて、国家標準も工業技術院計量研究所で設定している。
 実用段階では、標準となり得る振動基準器を国が供給するようにしており、これは、単位振動加速度当りのピックアップ出力電圧という電圧感度の形で供給されるから、使用者側は電圧の計量標準を持って、はじめて振動計量の標準が確保されることになる。現在、基準サーボ式ピックアップと、基準圧電式ピックアップが、振動基準器となっているが、そのピックアップの検定精度がどの程度で計測されるものであるかが、最も重要なことである。
 現在の測定精度がどの程度まで到達しているかは定かではないが、法的には、基準器公差は表わす量の5%と定められており、相互校正法又は光波干渉法でこの精度は確保されている。

 Rouod Robine Test
 1982年5月に、ISO/TC108 (国際標準化機構、機械振動と衝撃の部会)の会議が東京で開かれ、各国から振動にたずさわる研究者やメーカーの代表が多数集まって討議が行なわれた。その時、米国基準局(National Bureau of Standard)のSerbyn氏から、現在、振動ピックアップメーカーから振動ピックアップの提供を受けて、各国又は各機関での感度試験の持廻りテストを企画しており、日本のメーカーからのピックアップ提供と、持廻りテストヘの参加の要請があった。我が国からの会議参加委員を中心に、この件について討議をした結果、前向きで進めることになり、リオン鰍ヘ基準ピックアップの提供をすることになった。
 現在、国際的にも作業は進んでおり、標準ピックアップは、Endevco, B&K, Kisler, Rionなど7社から提供され、12ヶ国が参加して感度校正のRound Robine Testが1985年春頃まで行なわれる予定である。
 振動校正法
 現在行なわれている振動ピックアップの絶対校正法は大別すれば、相互校正法と光波干渉法であるが、小林理研とリオン鰍ニは協同で、ISOがDP5347/DAD1として出しているレーザー干渉法による校正方法に適合する設備を作り上げている。ちなみに、ISOで示している適用範囲や、装置に要求されている精度は、次のようなもので、努力のしがいのある目標といえるであろう。

周波数範囲  20〜2000Hz
ダイナミックレンジ 10〜1000m/ S2(周波数に関係する)
目標精度  設定条件(100又は10m/S2、160又は80Hz)で、読み値の±0.5%

 この値を得るためには、発振器やメータの精度や安定度は、最大0.01%という数値が出されている。
 dB表示の問題点
 我が国の振動レベル計は、振動の絶対値をdBで表示するように、日本工業規格でとりきめた振動計測器である。そのdB表示の基準値は10-5m/S2を使用しているが、現在ISOが採用している振動加速度の基準は、ISO1683で10-6m/S2とされている。従って、同じ振動量を測定しても、JISの規格品と、ISOの規格品とでは、20dBの差がでてしまうので、dB表示の場合には基準値を明確にすることが是非とも必要である。これは、JISの制定を考えている頃、ISOがDPとして出した基準値が10-5であったために、それをいち早く採用したために起った問題である。すべてが万国共通とは云わないまでも、騒音や振動に関することは、国際的に通じ合う基準や計測器でやって行けるように、努力したいものである。

−先頭へ戻る−