1984/3 No.4
1. 震動計測の標準と基準

2. 日本における航空機騒音問題

3. 母と子の教室 4. 屋根材料の雨音実験 5. 光散乱式粒子計数装置について 6. 欧州音響研究所訪問記
       <研究紹介>
 屋根材料の雨音実験

騒音振動研究室長 山 下 充 康

 雨が屋根に当ってその音が室内で問題となるというのは終戦直後のトタン葺きのバラック住宅でもないかぎり一般の住宅では殆んど気になることはありません。ところが、体育館や講堂のように屋根の面積が非常に広い大型の建物では雨音が室内で問題となる場合があります。室内側へ放射される雨音を低減するために様々な屋根材料の開発が進められています。しかし雨音に関する材料の性能評価の方法、測定方法は一般化されたものがありません。
 ここでは屋根材料の雨音を評価するための某礎的な実験を紹介したいと思います。
 大規模な多目的ホールを建設するのだが二種類の屋根材料のうち、雨音の小さい方を選びたい。ついては材料を試験して選定するように、という依頼がありました。当所では、材料については吸音率や透過損失等の音響性能試験を日常行っていますが雨音試験の設備はありません。依頼主の要求に適確に応えるにはどうすれば良いか―。試験方法について実際に水滴を落下させて材料に当てる方法、水滴のかわりにスチールボールを落下させる方法など多くの意見を出し合い討議をくり返しました。その結果、材料に負荷をかけることなく多点打撃を加える方法として図1に示すような装置を作製しました。
図1 打撃装置の概要

 屋根材料の試料を上下逆にして水平に設置して、下側からハンマーで打撃する方法です。ハンマーは円筒状のガイドに沿って真上にはね上げられ、材料に当るとはね返される、またはね上げられるという動作を繰り返します。下からはね上げる方式のためにハンマーが材料を押さえつけるような動作にはならず、ピアノのハンマーが弦をはじくのに似た動作で材料を打撃します。はたしてこのような打撃方法で雨粒による打撃がシュミレートされているのかについては十分な確認をしていませんが、少くとも従来のタッピングマシンのように材料をハンマーが押さえつける方式とは違う加振力が与えられます。ハンマーは6ケづつ2列ににべられており1コ1コが時間的に少しずつずれてはね上げられるので、材料には全体的に見ると不規則な連続打撃が加えられたようになります。打撃装置の全様を図2に示しました。
図2 打撃装置の全様

 なお打撃部のハンマーは金属と木の2種類を交換使用することができ、またハンマーの長さを変えることによって打撃の条件が変化するように工夫しています。
 試験材料は90p×90pの正方形で、これを私どもの遮音測定用残響室の上下開口部にとりつけて実験を行いました。試料と打撃装置のとりつけ方法を図3に、残響室の諸元を表1に示しました。
図3 試料および打撃装置のとりつけ方法
 
表1 残響質緒元

 放射音の観測は上側の残響室に騒音計をセットして行いました。また材料が打撃されたことによってどのような振動を生じるかを観測するために打撃面と反対側、つまり屋根材料の裏側に加速度型の振動ピックアップを取りつけました。
 打撃装置で材料を加振して残響室内に置かれたマイクロホンによって得られた音圧レベルをもとに音響パワーレベルを求めました。オクターブバンドで得られたパワーレベルを図4に示しました。試験材料A,Bの他に厚さ4m/mのスレート板で行った実験結果です。金属ハンマーと木ハンマーとではパワーレベルに差が見られました。同じ打撃条件ではスレート板、材料A、材料Bの順でパワーレベルが低くなっています。材料にとりつけた振動ピックアップによって観測された加速度レベルを図5に示しました。パワーレベルの結果と同様に、ハンマーの種類や試験材料によって振動性状の周波数特性が異ります。

図4 打撃加振による音響パワーレベル
 
図5 打撃加振による震動加速度レベル

 ところで水滴が落下して材料を打撃したときに材料の裏側にどのような音が放射されるかを見出すのが実験の目的ですが、水滴を落下させた際の音はとても小さな音で、直接これを測定することができません。とくに材料A、Bは厚さ10cm以上の堅牢な材料で水滴落下によって放射される音は測定が困難でした。しかし材料の振動について注目すると、水滴の落下によっても十分に振動を計測することができます。屋根材料の室内側に該当する面に振動ピックアップをとりつけて水滴をシャワーのように落下させた条件で得たデータを図6に示しました。

図6 水滴落下による震動加速度レベル

 シャワーの放水口の高さは材料表面から1.5mと5mの2条件です。ちなみに5mの高さからの水滴落下速度は約9m/秒、水滴の大きさは直径が約5oで丁度豪雨時の雨粒の挙動に似ています。
 水滴の落下高さによる振動性状の差はあまり顕著には見られませんが、材料による差は明確に観測されました。
 ハンマーによる残響室内の実験で得られた振動加速度レベルとパワーレベルの値(図4、図5)から図7を作成しました。振動加速度レベル(Val)と音響パワーレベル(PWL)との間には一義的な関係を見出すことができます。すなわち
   PWL=0.7Val+31.1(dB)
        (相関計数r=0.95)
 このようにして得られたパワーレベルと振動加速度レベルとの関係を利用して水滴落下実験で得られた結果(図6)から水滴落下音のパワーレベルを推定したのが図8です。比較的放射音が小さいのは材料Bということになります。

図7 音響パワーレベルと振動加速度レベルの関係
 
図8 音響パワーレベル推定値

 このようにして間接的な方法ですが降雨時の雨音に対する材料評価を試みてみました。雨音に対する材料の性能評価と言っても、この種の実験には統一されたものがあるわけではなく、ここに述べた手法も模擬的なハンマー打撃と水滴落下を組合せた実験で、いくつかの問題が残されています。例えばタッピングマシンの加振条件とここで用いた打撃装置による加振条件とでは材料の振動波形が大変異るのですが、ハンマー打撃と雨滴との加振条件の相異については十分な検討をしておりません。

 雨粒が当ったくらいでは殆んど音が放射されないような堅牢な材料に対して振動を計測することによって音を推定する実験的手法とその実験のために試作した打撃装置を紹介しました。なおこの研究は音響材料研究室で推進したものです。

−先頭へ戻る−