2010/10
No.110
1. 巻頭言 2. Low frequency 2010 3. inter-noise2010 4. 音 玩 具
5. 第35回ピエゾサロン 6. 補聴器 リオネット クレア

    <骨董品シリーズ その76>
 音 玩 具

理事長  山 下 充 康

 音響計測技術には直接の関連は無いが、いつの間にか沢山の音玩具が集まってしまった。今回は集められた様々な音玩具を取り上げることとした。
 人は音が好きらしい。音を発てることも音を聴くことも心地好い。とはいえ、駅のコンコースなどで訳もなく甲高い叫び声を上げてはしゃぎ回っている幼児に出会うと腹立たしさを感じる。親にはこの声が取り立てて煩わしく感じられないのであろうが周囲の人々には迷惑な叫び声であって、ただ喧しいだけである。欧米の高級レストランで犬は店内に同行できるが幼児はお断りと言うのを見かけることがある。犬などのペットならば無駄吠えをしないように躾けられている。幼児は躾けにくいらしい。国内でも「幼児入場禁止」の高級旅館が増えてきた。人は音に対してきわめて我侭な反応を示す。騒音問題の複雑さはこんなところに根差しているのかもしれない。  幼児、小児用の玩具にあっては音の出るアイテムが好まれている。百貨店の玩具のコーナーは幼児の嬌声と玩具の音が渦巻いて喧騒の極みである。
 「音響科学博物館」の一画に音を放射することを目的に造られた様々な「音玩具」が集められ展示されている(図1)。


図1 音玩具コーナーに集まったアイテムたち


 音玩具の種類は多いが、これらの玩具を区分けすると次の様になるのではなかろうか。

擬音グループ: 蝉の声やら小鳥の声、鳩笛、鶯笛などの擬音玩具。

意外性グループ: 雷鳴筒やレインスティク、糸電話のように音の発生メカニズムに意外性が感じら れる玩具。

楽器グループ: 実際の楽器を模して幼児用にディフォルメされた玩具

 限られた文字数の中でこれらの音玩具について個々に言及するのは困難なので一部の珍しいと感じたアイテムを紹介することにした。

雷鳴筒:厚紙で作られた直径が10 cmほどの円筒の片側にプラスティックの円盤が取り付けられ、円盤の中央から30 cmほどの長さのコイルスプリングがぶら下がっている。この筒を持って上下左右に揺するとコイルスプリングが振動してゴロゴロと雷鳴のような低い音が響き渡る。ただそれだけのアイテムであるが、インドネシアの小さな村の土産店でゴロゴロという音に誘われて購入した。雑踏の賑わいの中でも腹の底に響くようなゴロゴロには驚かされたことであった。
 これに似た厚紙の筒をドイツミュンヘンに在るドイツ博物館のミュージアムショップで購入した。雷鳴筒と同じような寸法の紙筒であるが、こちらの方はプラスティックの皿が筒の両側に取り付けられていて、この二枚のプラスティックの皿がコイルスプリングで繋がれている。これをどう使うのかは不明であるが、紙筒の両側と側面に直径2 cmほどの円形の孔がある。この穴に耳をあてがうとコイルスプリングの振動が働いて到来する人声や周囲の音が奇妙な響きを伴って聞こえる。残響室の中で聴く音に似ている(図2)。


図2 左:雷鳴筒とドイツ博物館で求めた紙筒 右:紙筒の内部


 バネではないが糸の片端が振動幕に繋がれていて、糸の他の端を振動させると糸を伝わる振動が振動幕から放射されるという音玩具がある。糸の振動を幕から放射するというのは糸電話のメカニズムと同様であるが、この音が蝉の鳴き声に似ているということで振動幕を張った竹が蝉の形に加工されている。糸に与える振動は竹ひごの先端に塗られた松脂で、振り回すとこの部分にくくりつけられた糸を伝わり回転しながらミンミンと鳴る。竹でなく、プラスティックで作られた一回り大きなアイテムを中国の田舎町で求めた。放射される音は蝉ではなく蛙のようにゲコゲコと鳴る(図3)。

レインスティック:南米チリの土産物にレインスティックという玩具がある。サボテンの幹を利用して空洞になった幹の中にサボテンの種や小さな貝殻を入れたもので、サボテンの棘を表面から内部に向けて逆に刺してある。空洞になっている幹の内部には棘の先端が突き出していて、筒を傾けるとサボテンの種や貝殻が棘に当たってシャラシャラと鳴る。雨が降って来た時の音あるいはせせらぎの音に似ていることから「レインスティック」と呼ばれている。これも意外性に驚嘆させられる音玩具のひとつであろう(図4)。何に使うものなのかは不可解で、ただ音を楽しむアイテムらしい。

図3 ミンミンとゲコゲコ


図4 レインスティックとサボテンの棘

 これらの音玩具は音を立てるだけのアイテムで、何かの役に立つわけではないが、個々に興味深いものが感じられる。人は基本的に音を好むようである。これらの音が楽器に発展し、やがて音楽へと展開するのであろう。
 今回は何の役にも立たないけれど、不思議に面白い「音玩具」を取り上げた。

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