2010/10
No.1101. 巻頭言 2. Low frequency 2010 3. inter-noise2010 4. 音 玩 具
5. 第35回ピエゾサロン 6. 補聴器 リオネット クレア
風景に溶け込めない音
騒音振動研究室 落 合 博 明
先日金沢を訪れた際、バスの車窓から眺める街並みは、ところどころにビルはあるものの、黒い瓦屋根に土色の外壁の建物などが点在し、古都の風情を残す佇まいであった。これまでの日本の街並みは、金沢に限らず、概ね似通った色彩で構成されていたように記憶している。
近年、建物外壁の色彩が街並みと調和しないことで問題になっている。2006年には、千鳥ヶ淵に近いイタリア文化会館の窓回りの赤い色が「景観を壊す」として東京都を巻き込んだ景観論争になった。2009年には、東京、吉祥寺に建つ赤と白の横縞の外壁を持つ建物を巡って近隣住民が「景観を害する」と主張して裁判を起こしている。
町を歩くと赤・黄・ピンク・青・緑・紫といった色の壁面を持った建物がときどき見受けられる。このような原色に近い色の建物は、タヒチや南イタリアなどの海辺のリゾート地やジャマイカやアフリカなどの南の国ではポップでおしゃれに映るかもしれないが、日本では変に目立ち過ぎて周りの風景と調和しないように思える。 国内の自治体のなかには、都市内景観の統一を図るため、景観色のガイドラインを決めているところもある。これらの自治体では概ねアースカラーに近い、幾分くすんだ色を推奨している。
音についてはどうかというと、以前は大きい音による騒音苦情が多かったが、近頃は音圧レベルが小さくても耳につく騒音による苦情が増えている。苦情の発生状況が変化した要因として、生活スタイルの変化、精神的なストレスの増加、建物の遮音性能の向上などが考えられる。
窓などの遮音性能向上に伴って、室内の暗騒音レベルが低減している。郊外の住宅地などでは、深夜、室内は驚くほど静かであり、小さな音でも聞き取れる。例えば、冷蔵庫のコンプレッサ音(数100 Hz)や、ブラウン管テレビの走査線の音(15 kHz程度)など特定の周波数が卓越した音が耳につく。ビジネスホテルなどにおいても備え付けの小型冷蔵庫の音が気になって眠れないことがあるが、音がうるさければコンセントを抜けばよい。しかし、外部から侵入する音はこちらの意のままにならないことから、騒音問題に発展することも多い。
近年話題となっている隣戸の空調室外機の稼動音や風車音のうち、苦情が発生している地域で得られた測定データを見ると、各々100〜200 Hz付近、160〜200 Hz付近の特定の周波数が卓越している場合も見受けられる。特定の周波数が卓越している純音性の音は耳につきやすい。このような音が唸ったり不規則に変動したりして聞こえると、さらに不快感が増幅されることもある。音についても目立ち過ぎてはいけないのである。
現在、純音性成分を含む騒音をいかに評価するかについて、国際的にも議論がなされているところである。今後の動向に注目したい。