2010/10
No.110
1. 巻頭言 2. Low frequency 2010 3. inter-noise2010 4. 音 玩 具
5. 第35回ピエゾサロン 6. 補聴器 リオネット クレア

    <会議報告>
 inter-noise 2010


山 本 貢 平,吉 村 純 一,杉 江  聡,
大久保 朝直,土 肥 哲 也,横 田 考 俊

 第39回国際騒音制御工学会議すなわちinter-noise 2010は、6月13日〜16日にかけて、ポルトガルのリスボンで開催された。会場はリスボン中心部から西に約4 km離れた会議場であった。この会議場は、テージョ川の北側に面しており、長大橋「4月25日橋」の橋脚部近傍に位置している。この橋は、道路と鉄道の併用橋であり、自動車や電車の走行に伴って典型的な構造物音が発生していた。会場入口で、その著しい騒音を体験できたという意味で、騒音の国際会議にふさわしい場所であった。もっとも、橋梁直下にあるホテルに滞在した会議参加者からは不評であったが・・・。当所からは騒音振動研究室の大久保、土肥、横田、建築音響研究室の吉村、杉江の合計6名が出席した。私は空港環境整備協会の山田所長と1日早く現地入りし、12日の午後に開かれたI-INCEの理事会に出席して来年夏に開催予定のinter-noise 2011(大阪)の準備状況説明を補佐した。


写真1 inter-noise2010の会場

 翌13日は、13時よりI-INCE総会に出席した後、夕方17時からは開会式に出席した。開会式は、学生合唱団のコーラス演奏から始まり、実行委員長Jorge Patricio氏およびAntonio Perez-Lopez氏の歓迎の辞に続いて、千葉工大橘教授による基調講演が行われた。橘教授は道路交通騒音問題について世界的視野から講演をされた。その内容が分野を超えて非常に理解しやすいものであったため、拍手が鳴り止まなかった。この後、Welcome Receptionが開かれ、多くの参加者が旧友との再会を楽しんだ。
 会議は翌14日から16日の3日間にわたり、テーマ別に13の会場に分かれて行われた。今回の会議テーマは「Noise and Sustainability」である。また、会議と並行して国際工学アカデミー(CAETS)のフォーラムも3日間にわたって開かれた。このフォーラムの一部に参加してきたが、中国における騒音政策の話が印象的であった。急激な経済成長を迎えた中国は、かつて高度成長期を経験した日本と同じように多くの騒音問題を抱えているようだ。そのため、いち早く欧米の規格や騒音規制制度を取り入れ、問題対処に努めている様子を知ることができた。そのほか、来年の大阪開催を睨み、山田所長と行動を共にして、会議運営の様子や進行状況の確認、来年のinter-noise 2011の広報活動に走り回った。
 最終日の午後には、次回以降のinter-noiseのプログラム内容を検討する会議(FCTP Meeting)が開かれた。大阪のinter-noiseに協力してくれるという人が大勢参加して、特別セッション等の提案もなされた。
 その日の18時からは閉会式が行われた。主催者の発表によると、今回の会議は53カ国から、総数約1200名の参加者があったと報告された。国別でいうと日本が99名、ポルトガル91名、ドイツとスペインが79名、英国64名、米国59名、フランス54名、オランダ53名、スウェーデンとブラジルが42名、デンマーク41名、イタリア40名、韓国38名と続く。日本以外の開催で日本人参加者が最も多い例というのは過去にあっただろうか?  種子島にポルトガル人が漂着して以来の良い関係が、日本人をリスボンに引き寄せたのだろうと理解した。論文総数は844件(内5件は特別招待講演)であり、国別論文数でも日本はスペインの70件と共にトップの座を分けた。また、展示は42社が出展したとの報告があった。 (所長 山本貢平)

 

 「古くて新しい街」と云うのが35年前に研修旅行で訪れたリスボンの私の印象、自身の発表が無いのにポルトガルに引き寄せられた日本人の一人である。表通りはにぎやかだが、一歩裏通りに入ると古風な街路灯や急な坂道と石畳など、上から見下ろせば港をバックに、下から見上げれば歴史の変遷を語りかける古城、路地を特徴付ける建物のFacadeが並び、実に雰囲気のある空間を演出している。一方、会場からも美しい姿を見せる長大橋であるが、35年前といえば関門橋が完成した年、進んだ技術を継承してきた国という記憶が残ったのは無理もない。しかし、そのときの橋上をバスで通過した際の強烈な印象は、風抵抗軽減のためのグレーチングの上を走行する際のすさまじい路面騒音で、今でもその騒音がセッション会場まで侵入し、私の会話了解度を低下させるとは夢にも思わなかった。
 Technical sessionは初日から遮音・吸音関連の発表を聴いて回ったが、プログラムの公表が出発直前で事前の調べが不十分なこともあり、会場を間違えたり、顔見知りの人の発表を聴き逃してしまった。
 戻ってから調べたところ、90人ものセッションオーガナイザーを要し、79のSS (structured session)が構成されており、発表1件のSSが7つもあるなど、セッションテーマの細分化が影響していそう。各会場のタイムスケジュールに合わせてSSを割り振ったせいか、テーマのオーバーラップが多くかつ会場毎のテーマに繋がりが少ない。狭くて立ち見の出るほど混雑した会場、広く閑散とした会場など、公演中でも人の出入りが激しいと感じたのはそのせいか。
 16日までの会期の翌日、会場近くのOPERAホテル及びLNEC(実行委員長 Jorge Patricio氏の所属する建築土木研究所)の会議室において、ISO/TC 43/SC 1, 2のWG会議が開催された。SC 2配下のWG 18, WG 26及びWG 18/AHG 6には鹿島建設の古賀氏と分担して参加した。ISO 140 series及びISO 717 seriesの改訂について審議中のWG 18の会議はLNECで、ISO 354の改定を審議するWG 26は午後にOPERAホテルで開催のため、筆者だけタクシーで約20分の距離を移動した。到着早々会議室を間違えてしまったが、それもそのはず午前中に同様のCENのWGが同じ室で開催されていた。
 同じくSC 1のWGに参加の大久保と共に皆と一日遅れての帰国となったが、薄暗い機中であらためて会議の審議を振り返ると、重要な事項はCENのWGで検討し、ISOのWGではCENメンバーの了解とISOメンバーへの結果報告だけかと、一種の脱力感を感じた。 (建築音響研究室 室長 吉村純一)


写真2 4月25日橋、会場からの眺め

 人が感じる時間の早さというものは不思議なものである。仕事に追われている日常では、一日はあっという間なのに対して、12時間というフライトは非常に長く感じる・・・と出発前は思っていた。しかし、飛行機の中でも発表準備をしなければならなかったおかげで、時間はいつもと同じスピードで過ぎ去っていった。
 私は建築音響に関する測定法や遮音・吸音に関するセッションを中心に聴講したので、ここではその一部を紹介したい。時間といえば、現場測定にかかる時間は重要な意味をもつ。短時間なほど良いが、早くなった分だけ測定精度が低下する可能性が考えられる。しかし、長ければ精度が上がるかというとそうでもない。その一例として、室内に人がいる状態でのインパルス応答(残響時間)計測に関する発表があった。室内にいる人を不快にしないように低い音圧で長い時間かけて測定すると、人の動きや温度の変化によって精度が低下する。この発表では、インパルス応答計測に、MLS法やSwept Sine法を用いた場合について、適切なS/Nと平均化回数について報告していた。
 また、多くの室や部位を対象にする場合、測定の短時間化は重要であり、界壁や外周壁の遮音測定には、ISO 10052の簡易測定法がある。ISO 10052では、室内の空間的かつ時間的な平均音圧レベルの計測に、人が騒音計を持ち、ゆっくりと空間掃引するマニュアルスキャンという方法を用いる。そこで、その掃引の仕方が計測結果に与える影響を検討している発表があった。左右にマイクロホンを振りながら歩行するといった様々な掃引方法の中でも、スウェーデン規格SS 25267に規定される、測定者の周囲を取り巻くような円柱上を掃引する方法などが、空間的に分布する固定測定点の結果に近いという結果を報告していた。
 一方、吸音材料に関しては、MPPに関連したもの数件であまり多くはなく、遮音関係の発表が多かった。遮音材料というよりも、EN 12354に関連したFlanking transmission lossに関するものが多いという印象を受けた。側路伝搬での音響透過が室間の遮音性能を決定する場合も珍しいことではなく、側路伝搬成分の予測法や測定法等は重要な検討事項であることを再認識させられた。
 実は、私の席に設置されている映画や音楽を視聴する機器に不具合があり、帰りの飛行機でもPCを立ち上げてこの原稿を書いている。ワイン片手に映画鑑賞している同僚を横目に、帰り道も心理的な短時間化は成功するのであろうか。 (建築音響研究室 杉江 聡)

 EU Environmental Noise Directiveにともなう騒音低減アクションプランを実行するためなのか、この数年、日本で言うところの先端改良型遮音壁の研究開発が欧州で盛んになりつつある。そこで今回、従来の遮音壁のセッションとは別に“Diffraction-reducing devices on noise barrier top”というセッションを提案し、コーディネータと座長を引き受けた。セッション新設の認知度が低かったためか、3件の先端改良型遮音壁の講演が従来セッションに流れてしまい、結果的に新設セッションには3件しか集まらなかったのは残念だった。ただ、遮音壁に関する12件の半数にあたる6件が先端改良型の話題だったことには手ごたえを感じた。
 私自身は、遮音壁上端に取り付ける吸音体の寸法と回折音低減効果の関係について発表した。質疑の最初に、「屋外の遮音壁は雨風にさらされるが、吸音材はどう取り付けるのか」という質問を受けた。嘲笑的な口調と表情から、「吸音材の効果を検討したところで、屋外に吸音材は置けないだろ?」というニュアンスが感じられた。日本で使われる一般的な構造について説明したところ、別の聴衆から現実的な吸音材の厚さについて質問された。このような質問が出ることから推測すると、遮音壁上端に減音装置を取り付けるという以前に、遮音壁表面を吸音処理することが海外ではまだ一般的ではないのかもしれない。日本ではいわゆる統一型吸音パネルが普及しているため、根本的な立ち位置の違いにこれまで気づかなかった。そういえば2006年のinter-noiseで、米国の建材メーカーの担当者が「屋外遮音壁用吸音パネルを開発した」旨の講演をしていた。非学術的なセールストークに終始する内容だったが、もしかすると、彼らにとっては屋外用吸音パネルに相当の新規性があったのかもしれない。
 先端改良装置に関する議論は、日本では1990年代に済まされた話題がほとんどであった。数値解析で設計した装置の効果が試作実験では思ったほど現れないといった「いつか来た道」を、欧州の研究者はいま歩んでいる。日本ではすっかり下火になってしまった研究分野だが、過去に得られた知見を共有できるよう海外の研究者と交流していきたい。大阪で開催される次回のinter-noiseでは、「いつか来た道」を知る日本の研究者の方々にもご協力いただければ幸いである。 (騒音振動研究室 大久保朝直)


写真3 サン・ジョルジュ城とリスボンの街並

 低周波音に関する発表は複数のセッションに分散しており合計で20件程度であった。前の週にデンマークで行われたLow frequency 2010では低周波音の聴覚閾値などについての研究発表が多く見られたが、inter-noise 2010では低周波領域の航空機騒音や、低周波領域の家屋の遮音性能についての発表が多かった。このうち航空機騒音はスキポール空港について3件の発表があり、実測の結果25, 50 Hz 成分の低周波音が大きいことや、機種や進行方向による低周波音の違いなどが報告された。また、数値計算(PE法)を用いた高さ14 m、幅14 mの防音堤による低周波音の低減効果予測や、低周波領域の航空機騒音コンターマップなどが紹介され、この空港における調査・研究が盛んである印象をうけた。低周波領域の家屋の遮音性能については理論・数値計算による予測や、対策方法の事例などが紹介されていた。私は 3〜20 Hz の超低周波音を屋外で発生させる装置を製作し、実際の家屋における内外音圧レベル差を計測した結果を発表した。ヨーロッパでは軍事演習や大型プラントから発生する超低周波音が問題になっている事例があるそうで、人工の音源を用いて超低周波領域の屋外実験ができるのは興味深いとの感想を頂いた。
 鉄道騒音・振動の発表件数は10件程度で航空機などに比べると少なかった。日本からは鉄道の高所空間の騒音を予測する方法についての発表があった。一方、フランス国鉄は車輪近くに取り付けたマイクで走行時の音を計測し、レール表面の粗さなどを検知してマッピングした事例を報告していた。中国からは350 km/h 高速鉄道から発生する走行音の測定結果や、地下鉄の走行に伴い地上の家屋内で低周波成分を含む固体音が発生する事例が報告された。中国では都市の発展と共に環境問題が発生していることを実感した。 (騒音振動研究室 土肥哲也)

 私が発表を行った屋外における音の長距離伝搬に関するセッションは発表件数が12件と多く、午前・午後を通した非常に長いセッションであった。特別講演ではなかったが、Attenborough氏による地表面インピーダンスモデルに関するレビューがセッションの頭に企画されていたことで、部屋には朝から満席状態に近い多くの聴衆が詰めかけていた。私の発表順はAttenborough氏の直後であったため、多くの聴衆の前で「長距離伝搬に及ぼす地表面ラフネスの影響」について発表を行うことができた。この分野は、国内学会では発表件数が少ないため、いわゆる“顔なじみ”セッションとなることが多いが、ここでは多くの見知らぬ海外のベテラン研究者を前に、新参者として緊張感のある発表をすることとなった。セッション内での質疑では「この若造が」というような質問も受けることとなり緊張感のある20分を過ごすこととなったが、セッション後にはそれらのベテラン研究者の方々と直接ディスカッションをする機会が得られ、これまでの経験に基づく真摯なアドバイスを頂くことができ、非常に実りの多い研究発表となった。  自分の発表以外の時間は、気の向くまま色々な所に顔を出した。風力発電施設からの騒音影響に関するアンケート調査の発表では、「経済的恩恵を受けているか」をパラメータの1つに含めて結果が整理されており、重要な視点と分かりながらも自分たちではなかなか踏み込めない分析がなされている点が印象に残った。
 inter-noise期間中、サッカーのワールドカップが開催された。サッカーの本場ヨーロッパでワールドカップの雰囲気を味わえることを出張前から楽しみにしていた。発表など一通り終わった後、ヨットハーバー沿いのカウンターで現地の人と並びビールを飲みながらサッカー観戦できたことは、今回の出張における印象深い思い出の1つである。(騒音振動研究室 横田考俊)

−先頭へ戻る−