2007/7
No.97
1. 低周波音という名の“お化け” 2. FDTD法とPE法を組み合わせた効率的な屋外音響伝搬解析 3. 珍品 ルミエール蓄音機

4. 第28回ピエゾサロン

  5. 精密騒音計(1/3オクターブ分析機能付)NA-28オプションプログラム
      <骨董品シリーズ その63> 
 珍品 ルミエール蓄音機

理事長  山 下 充 康
図1 HMV460型 卓上蓄音機 (1924年 英国製)

 アメリカの発明家、Thomas A. Edisonが音の波形を錫箔を巻いた円筒に刻み込んで記録する方法を発明したのが1877年。蓄音機が本格的に普及し始めたのは1900年代の初期のころであった。エジソンのワックスドラム式蓄音機については1990年1月号No.27の「骨董品シリーズ」で詳しく紹介した。この蓄音機は蝋管に記録された音を大音響で再生することが出来ることも手伝って小林理研の「音響科学博物館」の展示品の中でも人気を呼んでいるところである。

 

 音響科学博物館には豆腐屋のラッパ、ほら貝、各種集音器のラッパから蓄音機のホーンまで、大小様々なホーンが展示されている。これらについては「骨董品シリーズ」の1994年7月号 No.45「骨董品展示室の喇叭(ラッパ)たち」で紹介した。

 レコード針の先端の微かな震えのエネルギーを空気中に音として放射するにはラッパ(いわゆるホーン)が不可欠である。そんなことから音響再生装置や音響信号放射装置にはホーンが付き物ということになる。

 今回の骨董品シリーズに登場させるのは蓄音機の珍品、「ルミエールの円盤蓄音機」である。商品の説明文にいわく「"No soundbox, No tonearm, No horn"(サウンドボックスなし、ピックアップアームなし、ホーンなし)」。

 

 蓄音機に付き物の大きなホーンがない。レコード盤の音溝を辿る針を取り付けるサウンドボックス(本誌1998年10月No.62「サウンドボックスと竹のレコード針」参照)が無いというのが売りらしい。映画の創始者としても知られるフランスのルイ・ルミエールの発明品で、入手したのはHMV460型(1924年製)の卓上蓄音機である(図1)。ホーンの代わりに直径36 cmの団扇太鼓のような振動板が音を放射する。団扇状の振動板は紙で造られていて金メッキを施されている。キャビネットはオーク材で重厚な雰囲気を漂わせているが振動板は所詮紙製だから極めて傷つきやすい。団扇状の振動板の中央から竹ヒゴが真下に延びていてその先端に畜針が取り付けられている(図3)。レコード盤の音溝からの振動は団扇の中央に伝えられる。音を好ましい状態で放射するのに苦心したのであろう、放射状に折り皺がつけられている。この機構はサウンドボックスを大きくしたようなもので、形状といい、レコード盤の音溝から取り出す信号処理のメカニズムといい、普通のサウンドボックスと基本的に変わるものではない(図4)。この蓄音機に旧いSPレコード盤をセットして試聴したが見事な音を聞かせてくれた。ターンテーブルの回転速度を表示する小窓と回転速度を調整する摘みが備えられている(図5)。
図2 振動板に刻まれたルイ・ルミエールのサイン
図3 振動板背面
蓄針からの振動は中央下部の竹ヒゴ(サウンドボックスは金属棒)を介して振動板に伝達され、音を発生させる

 

図4 一般的なサウンドボックス
図5 回転速度表示窓と調整摘み

 

 レコード針を入れる小さなポットを始め金属部分はすべて金メッキで仕上げられていて、当時のレコード愛好家たちの美意識への拘りを感じ取ることが出来る。キャビネットの蓋を閉じる際には金色の振動板を倒す(図6)。倒す際にも振動板を傷つけないように黒く塗られた摘み部分だけに指を触れて注意深く畳み下ろさなければならない。
図6 格納状態

 

 音を放射するためにホーンにとらわれることなく寸法の大きい振動板を利用した蓄音機はその特異な姿から、音響科学博物館の中央に展示されている。金色に輝く振動板に触れることを嫌って「Don't Touch!!」の大きなパネルを添付させていただいた次第である。

 

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