2007/7
No.97
1. 低周波音という名の“お化け” 2. FDTD法とPE法を組み合わせた効率的な屋外音響伝搬解析 3. 珍品 ルミエール蓄音機

4. 第28回ピエゾサロン

  5. 精密騒音計(1/3オクターブ分析機能付)NA-28オプションプログラム
 
 第28回ピエゾサロン

顧 問  深 田 栄 一

 2007年2月21日に小林理研で第28回ピエゾサロンが開催された。電気通信大学の鎌倉友男教授が「非線形音響の基礎と応用」と題して講演された。非線形音響学の位置づけから始まり、小歴史、基礎から応用までを展望して良くまとめられた講演であった。

 音圧レベル(SPL)で、120 dBまでは従来の音響学、120 dBから170 dBまでは非線形音響学、170 dB以上は衝撃波(高次の非線形)に分類される。

 微小振幅の音波は正弦波の形を変えずに伝搬するが、音圧が大きい場合や振動数が高い場合には、ある距離伝搬すると波形に歪みが起こる。非線形音波では、図1のように、瞬時音速cfは通常の音速coと粒子速度uに比例する項の和で表せる。βは非線形係数である。有限振幅音波の理論式で、あるパラメータσが1になると、衝撃波が発生する(文献参照)。音源から衝撃波が形成されるまでの距離xs は周波数fと音圧poに反比例する。
図1 波形歪みの発生

 図2は衝撃波が形成される過程のモデル的説明である。背の高い(振幅の大きい)人の瞬時速度が背の低い人よりも早いので、ある程度の距離を歩くと、ぶつかってしまい、行列の形が乱れてしまうのである。
図2 波形歪み発生のモデル的説明

 図3は水中に2.3 MHzの超音波を発信し、音源の傍と20 cmはなれた距離で測定した波形を示す。水圧が高いと非線形が早く起こる。
図3 水中超音波での非線形の発生

 図4は2.25 MHzの診断用超音波のパルス波形である。600 oの距離で、パルス波形に変化が見られ、そのスペクトルには多くの高周波成分が現れている。高周波ほどビームが鋭く、サイドロープが抑圧されている。この現象は、超音波診断装置でハーモニックイメージングとして応用されている。
図4 パルス波形の伝搬による変化

パラメトリックアレイ
 パラメトリックアレイと呼ばれる指向性を持つスピーカは非線形音響学の応用の好例である。その原理は、周波数の異なる二つの超音波を同時に同方向に送波し、その差周波数成分を利用するのである。

 周波数f1とf2の音波(一次波)を同時に送波すると、f1−f2のビート周波数をもつ振幅変調波(二次波)が発生する。一次波は音源からの距離とともに、球面波として早く減衰する。しかし、二次波の音源は、一次波の非線形相互作用により、音源から離れた距離で次々と作られていくので、減衰が遅くまた指向性をもつ。したがって、二次波のf1−f2に可聴周波数の変調を行えば、可聴音を良い指向性を持って遠方まで送波することができる。

 図5は1 kHzの音を送波した場合の音圧分布の比較である。また図6は実用されているパラメトリックスピーカの一例を示す。道路の交差点で、視覚障害者の人にこのスピーカで放送すると、指向性がよいために、歩く方向の間違いが起こらないという実験結果が示された。今後多くの分野で応用が期待されている。
図5 通常のスピーカとパラメトリックスピーカから1 kHzの音を流したときの比較

図6 パラメトリックスピーカ(左) とスピーカを用いた実験をされる鎌倉先生(右)

 実際にパラメトリックスピーカを持参していただき、スピーカの方向によって音の聞こえが違う実験や、音響流によってたばこの煙が動く様子が紹介された。すでに製品が、日本科学未来館での展示案内や清水寺の見物案内など多方面で実用されている。多くの質問や討論があり、有意義な講演であった。豊富な内容であり、この小文はその一部のみを紹介した。図はすべて講演から引用したものである。

文献
鎌倉友男:非線形音響学の基礎, 1996, 愛智出版

 

−先頭へ戻る−