2007/7
No.97
1. 低周波音という名の“お化け” 2. FDTD法とPE法を組み合わせた効率的な屋外音響伝搬解析 3. 珍品 ルミエール蓄音機

4. 第28回ピエゾサロン

  5. 精密騒音計(1/3オクターブ分析機能付)NA-28オプションプログラム
 
 FDTD法とPE法を組み合わせた効率的な屋外音響伝搬解析

騒音振動第二研究室  横 田 考 俊

まえがき
 近年の目覚ましいコンピュータハードウェアの進歩により、音の波動性を考慮した各種の数値解析手法が屋外音響伝搬解析に適用されるようになってきている。それらの手法の中でFDTD法(Finite difference time domain method)は、コンピュータメモリの制約から比較的短距離の伝搬計算に限られるが、遮音壁の減音効果や半地下道路からの騒音放射等、複雑な形状を有する音場の解析に適用されてきている[1,2]。またPE法(Parabolic equation method)[3]は、凹凸のある地形や障壁等を含む音場の解析には不向きであるが、気象の影響を考慮できる手法として、主に長距離伝搬の予測手法として研究が進められている[4]。このように各数値解析手法には対象とする問題に対して得手/不得手があり、それぞれ解析可能な問題に焦点を絞り検討が行われている。この様な状況の中、各手法の特徴を生かし複数の解析手法を組み合わせることで、それぞれの手法では解析が困難な問題について検討することを可能にできるならば非常に有効である。ここでは、上記FDTD法とPE法を組み合わせて用いる[5,6]ことにより、屋外における音の長距離伝搬について効率的に解析する方法を紹介する。

計算手法の概要
 騒音対策の基本として、防音壁や防音提などの複雑な構造物は音源近傍に設置されることが多い。一方、気象の影響によって騒音伝搬量が変化する現象は、一般的には音源から離れた位置で生じる。これらのことを踏まえ、本研究では図1に示す様な音場を解析することができる手法の開発を目的としている。ここで、解析手法に求められる条件は次項目に整理することができる。

1) 音源近傍については複雑な形状の音場を解析できる。
2) 音源から離れた遠方では、任意の気象条件を設定することができる。

 この2つの条件を満たすため、本研究ではFDTD法とPE法を組み合わせる。計算手順の概要を以下に示す。

1) 対象音場を2つのエリアに分割する
  対象とする音場を図1中破線で示すように、音源近傍の複雑な形状を有する音場(Area-1)と遠方の平坦もしくは緩やかな地形で構成される音場(Area-2)に分割する。

2) Area-1をFDTD法により解析
  音源点からパルスが放射された条件についてFDTD法により伝搬解析を行い、Area-2との境界上全グリット点におけるインパルス応答を算出する。

3) 境界上における音圧の空間分布を算出
  各点において得られたインパルス応答をFFT分析し、周波数毎に境界上の音圧分布を求める。

4) Area-2をPE法により解析
  各周波数について得られた境界上の音圧分布を初期条件とし、Area-2についてPE法により伝搬解析を行い、受音点における周波数応答関数を算出する。

 このようにFDTD法とPE法を組み合わせて用いることで、FDTD法のみではコンピュータメモリおよび計算時間の制限のため解析することのできなかった遠方点までの屋外音響伝搬が解析可能になるとともに、気象の影響を考慮することができ、また任意の周波数特性を有する地表面の影響を考慮することが可能となる。
図1 想定する音場の概要

 

堀割/半地下構造からの音響伝搬特性
 FDTD-PE法による計算例として、図2および図3に示す堀割/半地下構造からの放射音に対する風の影響について2次元音場解析を行った。なおArea-2における気象条件として、無風および地表面から2 mの高さにおいて風速2m/s、4m/sの順風(音源から受音点方向の風)および逆風をそれぞれ設定した。
図2 検討対象音場
図3 検討を行った2種類の道路構造の詳細

 

 図4に無風条件の受音点R8について、対象音場全体をFDTD法のみで解析を行った結果とFDTD-PE法によって得られた解析結果を示す。FDTD-PE法による計算結果は、FDTD法のみの結果と非常に良い対応が見られる。
図4 FDTD法とFDTD-PE法の比較

 

 図5に風の影響による各受音点における音圧レベルの変化について1 kHz帯域の結果を示す。なお各受音点、無風条件における音圧レベルを0 dBとしている。風の影響により、受音点が遠くなるほど音圧レベルが変化する様子が見られ、無風に比べて順風の場合に音圧レベルが高く、逆風の場合に低くなるという経験的に知られている現象がシミュレートされている。このように音源近傍が非常に複雑な形状を有する場合にも、気象の影響を考慮し、遠方点への伝搬量を解析することが可能である。
図5 風の影響による伝搬量の変化

 

まとめ
 今回、FDTD法とPE法という異なる特徴を持つ数値解析手法を組み合わせることにより、各手法では解析が困難な問題について検討を行うことができることを示した。今後は本手法の特徴を生かし、様々な応用的な問題について検討を行っていきたいと考えている。

[1] 坂本他 騒音制御工学会講論集 141-144 (2000,9)
[2] Sakamoto et al, Proc. Inter-Noise 2001 2375-2380
[3] K.E.Gilbert et al, p630-637, J.A.S.A.85(2) 1989
[4] 大島他 音講論集 781-782 (2001,10)
[5] Yokota et al, p177-179, AST 27 (3), (2006)
[6] Yokota et al, Proc. Inter-Noise 2006 (CD-ROM), (2006, 12)

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