2007/7
No.97
1. 低周波音という名の“お化け” 2. FDTD法とPE法を組み合わせた効率的な屋外音響伝搬解析 3. 珍品 ルミエール蓄音機 4. 第28回ピエゾサロン
  5. 精密騒音計(1/3オクターブ分析機能付)NA-28オプションプログラム
 
 低周波音という名の“お化け”

騒音振動第二研究室 室長  落 合 博 明

  夏になると、講談などで怪談話がしばしばとりあげられる。講談師は聴衆の反応を推し量りながら、低い声に強弱をつけつつ、ゆったりとした口調で話しはじめる。会場は照明が落とされ、講談師の顔を斜め下側から明かりで照らす。講談師の顔だけが闇の中にぽっかりと浮かび、光と影で顔の陰影が強調され、あたかもそこにエイリアンがいるかのようにさえ思える。さらに、笛や太鼓などの効果音を巧みに使って、聴衆の恐怖心をあおりたてる。聴衆はいつしか話と場の雰囲気に引き込まれ、背筋にぞくぞくっとしたものを感じる。噺を聞くことで暑さを忘れようという日本ならではの夏の娯楽である。

 音の世界でも、怪談まがいの話はよく登場する。そのひとつが「不思議音」と呼ばれる音であり、もうひとつが「低周波音」である。いずれも手品と同じで、種明かしをされれば「な〜んだ」と納得してしまうのだが、一般に周知されていないために誤解を生じることがある。マスコミ的にはとても面白い話題であるので、オカルトまがいに取りあげられることも多く、誤解に拍車がかかっている。

 不思議音の例としては、熱収縮に伴う音がある。家の中で“ピシッ”といった音が突然発生し、怪奇現象ではないかと騒がれた。最近の住宅は、様々な建材が用いられている。昼間太陽の熱で暖められて建材が膨張し、夜になると気温が下がることにより収縮する。熱による収縮の特性は建材の種類により異なるので、両者の接合部などでズレが生じ、このような音が発生するのである。

 低周波音では、堰の放流に伴う現象が話題になったことがある。ある山間の村で川沿いの民家の襖やガラス戸が、ある日突然カタカタと震えだした。このような現象は決まって大雨が降ったあとになると発生し、何ヶ月も続いたという。村人の中には、お化けの仕業かあるいは何かのたたりではないかと言い出す人もいた。いろいろと調べたものの原因がわからなかったが、暫くしてやっと判明した。近くの堰が放流する際、落下する水膜の厚さが薄いと不安定な状態となって水膜が振動し、水膜がスピーカのような役目をして大きな低周波音が発生する。発生した低周波音が近くの民家まで伝わって建具を揺らしていたのである。この時発生した低周波音が人の耳に聞こえにくい20ヘルツ以下の周波数の音であったことから、怪奇現象のように思われたのであった。

 低周波音に関する苦情の中には、戸や窓がガタガタするといった苦情とともに、不快感や体の不調に関する苦情もある。しかし、“お化け”の正体が必ずしも低周波音であるとは限らない。苦情が発生した場合には、音の特性や現象の発生状況、音の大きさの変化と建具のがたつきや不快感の発生状況との対応関係等を詳細に調べることが問題解明への近道である。  環境省では、低周波音によると思われる苦情が自治体に寄せられた場合の対応方法を示した「低周波音問題対応の手引書」を平成16年6月に公表した。手引書を活用することにより、低周波音問題が解決することが期待される。

−先頭へ戻る−