2005/1
No.87
1. 巻頭言

2. Low frequency 2004

3. プラニメータ(面積計測器) 4. 第23回ピエゾサロン 5. リオネット新製品 デジタリアンS/new JOYTON
       <会議報告>       
 Low Frequency 2004

騒音振動第三研究室 土 肥 哲 也

  低周波音や低周波振動に関する国際学会"International Meeting on Low Frequency Noise and Vibration and its Control (Low Frequency)"が2004年8月30日〜9月1日の3日間、オランダのマーストリヒトで行われた。当所からの参加は私1人であった。

国際会議 "Low Frequency"とは
 この会議は1973年から開催されている国際会議で、近年はイギリスのDr. Geoff Leventhall(写真1)が中心となりおよそ2年に1回のペースで開催されている。今回の会議は11回目にあたる。研究発表の内容は低周波に関する幅広い分野を含んでおり、低周波音の人的影響や物的影響、低周波振動の人的影響、低周波音の計測手法や実験設備の紹介、各国の低周波に関する基準や対策事例など多岐にわたる。今年度の発表では、特に低周波音の人的影響についての発表が多く目についた。

写真1 Dr.Geoff Leventhall(右)と筆者(左)

会議の雰囲気
 毎年盛大に行われているInter-noiseとは対照的にアットホームな雰囲気の中、単一セッションで約40件の発表が行われた。3日間毎日同じ顔を見ているので、会議終了時には参加者ほぼ全員の顔が覚えられ、何人かとは親睦を深めることができた。
 参加者は約50人で、主催国のオランダ、日本、イギリスからの発表で過半数を占めていた(表1)。日本からの発表件数が多かった理由として、この会議の直前まで同じヨーロッパのチェコ共和国でInter-nosie2004が行われていたことが挙げられるが、この会議のためのみに日本から来た人も半数程度おり、世界的に見ても低周波音や低周波振動に関する日本の関心の高さが感じられた。また、研究者以外にも低周波に関心を持つ一般の方が会議に参加し、熱心に発表を聞いている姿が見かけられた。

表1 国別の参加者

マーストリヒト
 会議が行われたマーストリヒトはオランダ最南端の町で、日本からの国際便が発着するスキポール空港から電車で2時間30分程度かかるが、ベルギーのブリュッセルやドイツのケルンまでは車で1時間ほどしかかからない。「マーストリヒト」といえば、2002年に実現した通貨ユーロの導入を決定したマーストリヒト条約(1992年締結)が有名であるが、実はこの町は2000年以上も昔にローマ人によって建てられ、歴史的建造物が多いことでも有名である(写真2)。研究発表はマーストリヒト中心部から車で15分程度のVan der Valke Hotelの中にある綺麗な会議室で行われた(写真3)。

写真2 マーストリヒトの風景
 
写真3 ホテル内の発表会場

私の発表
 私は低周波音による建具のがたつき実験結果について発表した。トンネル微気圧波やトンネル発破音などに見られる衝撃性を持つ低周波音により建具ががたつく場合、従来がたつき閾値の要因と考えられていた低周波音の周波数特性以外に、音の波形や位相と言った要因ががたつき閾値に寄与していることについて発表した。発表後に、実験を行った建具の数や、何故位相により建具のがたつき閾値が変わるのかなどの質問を受けた。

印象に残った発表内容
 オランダと言えば風車とチューリップが有名であるが、オランダ人やデンマーク人が発表した風車から発生する低周波音についての研究がいかにもヨーロッパにおける低周波音らしく印象的であった。

 その内の2点ほどを簡単に紹介すると、オランダのFrits van den Berg氏は風力発電用の風車から出る低周波音についての実測例を紹介しており、風車の音源はブレードの先端から発生する音以外に、回転するブレードが、風車を支える支柱の前を横切る際に低周波音が発生することを指摘していた。つまり、風車から発生する低周波音には回転するブレードから出る定常的な音以外に、ブレードの数と回転速度で決まる数Hz程度の間欠的な音が存在する訳である。

 また、デンマークのJakobsen氏は風車から発生する低周波音を精度良く計測する方法について紹介していた。風車が回っている時は当然風が吹いているため、風雑音により低周波音の計測は難しいとされているが、Jakobsen氏はマイクロフォンを地中に設けた穴の中に設置することと、10m程度離れた2つのマイクロフォン信号の相関を取ることで計測精度を高めていた。

 最後に低周波音を対象とした聴感実験装置の報告を紹介する。デンマークのPedersen氏は、実験室内の向かい合う1組の面に各々20個のスピーカを設置し、片面のスピーカから放射した音が反対側の面で反射するタイミングでその反射面に設置したスピーカから逆位相の音を放射して実験室内の反射音を相殺する方法を提案していた。実際には合計40個のスピーカを信号処理により独立して制御するが、結果として部屋内のモードがなくなり、250Hz以下の周波数特性が平坦になるという報告である。

日本からの発表
 私は今回初めてLow Frequencyに参加したが、日本からは山田伸志先生(山梨大)をはじめ犬飼幸男氏(産総研)、塩田正純氏(飛島建設)等が昔からこの会議に参加されている。中でも犬飼氏は低周波音による感覚閾値に関連する3件の発表を行い、これに対して被験者実験結果を統計的にまとめる際の指標90%の妥当性について激しい議論が交わされた。また、環境省の齋藤輝彦氏は、先日環境省が発表した「低周波音問題対応の手引書」についての報告を行い、海外の研究者から高い評価を受けると共に早く英語版を出して欲しいとの要望を受けていた。

次回は日本開催?
 会議の終わりにLeventhall氏が「日本は低周波音について多くの研究が行われていると共に、活発な議論があり非常に有意義です」と語ると同時に、次回の日本開催についてもその可能性があることを示唆していた。

 日本では100Hz以下の音を低周波音と定義しているが、海外では国によりその定義が異なる。定義が異なるのは国により低周波音の事例や捉え方が異なるからであり、今回の会議は各国の低周波音の事情を知ることができ非常に有意義だった。

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