2004/4
No.84
1. マニュアルとプロの技

2. 蓄音機ターンテーブル回転チェッカ

3. 床試験室における床衝撃音レベル低減量の測定 4. 第21回ピエゾサロン 5. オーダーメイド補聴器のシェル自動生産システム
 
 第21回ピエゾサロン

顧 問 深 田 栄 一

 平成15年10月16日に小林理研会議室で第21回のピエゾサロンが開催された。米国のSmart Material Corp.の社長Thomas P. Daue氏“Smart Materials -Piezoelectric Fibers and Fiber Composites”の題で講演された。Daue氏はドイツのベルリン工科大学で電気工学とコンピュータ科学を修めた後、1983年以来三つのハイテクベンチャー企業を起こし、1994年に米国に移住し、2002年に四つ目の会社として、Smart Materialを設立した。ドイツのFraunhofer研究所や米国のNASAの研究者などとの共同研究の結果を企業化したのである。

Smart Material Corp. Thomas P.Daue社長 講演

 Smart Materialは圧電物質など新しい機能をもつ材料を総称する魅力的な名前である。圧電セラミックPZTは高い機械電気結合係数を持つが、大面積の加工は難しい。圧電高分子PVDFは大面積の加工は容易であるが、機械電気変換効率が低い。PZTの粉末を高分子で接着した複合体が中間の性能を持つ材料として使われてきた。

 Daue氏は新しいsmart material として、PZTの繊維や中空の管を作ることに成功した。さらに、この繊維をエポキシなどの高分子で接着して、広い面状の圧電素子モジュールを開発することに成功した。

 Smart Materialの例としては、圧電材料、磁歪材料、形状記憶合金、電磁レオロジー液体、電気活性高分子(人工筋肉)などがある。これらの材料による1999年の世界の市場は合わせると1Bill. USDに達するが、その内圧電材料が750Mill. USDを占め、年率約12%で成長している。

PZT繊維
 PZT粉末とセルロースと溶媒の混合物を紡糸機のノズルから引き出し、凝固させて繊維状に成型する。径40−800μm、長さ5−20cmである。中空の管状繊維も作られ、直径400−800μm、壁厚150μmである。圧電率d33はバルクの値の0.55ぐらいである。中空の繊維は光ファイバーのスイッチや小型モーターに使われている。

1−3ファイバ複合体
 PZT繊維をエポキシ樹脂で固めて、円板や角板に成型する。1-3の意味は、複合構造の中で、PZTは一次元で貫通しているが、エポキシ樹脂は三次元で連続していることを示す。加工が容易なために任意の形に成型できる。水中聴音機ソナー(40−500kHz)、超音波非破壊試験機(200kHz−6MHz)をはじめとして、空中超音波や医用超音波診断装置などに用いられる。直径20μmの円筒状複合体を等間隔で林立させ、各円筒の縦固有振動数をスキャンして測ることにより、指紋の検出器を作ることができた。

マクロファイバ複合体(MFC)
 平行線状の電極を並べたポリイミドの平板、エポキシ接着層、矩形断面のPZTファイバを平行に並べた平板、エポキシ層、電極ポリイミド板を合わせて接着した薄い平板モジュールをMFCと呼ぶ。可撓性と耐久性のあるアクチュエータおよびセンサとして有用である。応用分野は多い。たとえば、振動や騒音の防止、構造制御、自動検査と遠隔通信、音の発信、ひずみ検出などがある。具体的には、自動車では、ドライブ軸の振動制御、車体の騒音防止、エンジン騒音の低減、平面スピーカ、タイヤ圧の監視などがある。航空機では、翼の振動制御、ヘリコプタの回転羽根の制御、尾翼の構造制御、機体の健康診断。建築物では、建物や橋梁の健康診断、軽量構造のレーザ加工の自動化などがある。

Macro-Fiber-Composite (MFC)アクチュエータの構成
MFCアクチュエータ (約90×60×0.25mm3

NASA Active Vibration Suppression (AVS) System
 航空機の尾翼の突端にMFC圧電複合モジュールと回路を埋め込み振動制御を行った実験では、長期間にわたる機械的疲労の寿命が2倍に延長された。現在は主に戦闘機などの軍事用に開発されているが、民間航空機にも広く応用が可能である。

テニスのラケット
 ラケットで球を打ったときの衝撃振動を減衰させることが出来る。ラケットの腕の内部にMFCモジュールを設置し、振動エネルギーを電気エネルギーに変換し、回路内の抵抗で熱エネルギーとして消費する。回路のインダクタンスを適当に選べば、ラケットの固有振動に対応する振動数で回路が共鳴して、消費エネルギーを最大にすることが出来る。電池の要らないことがこの方法の利点である。約30%の振動の減衰が得られており、腱鞘炎の防止に有効であるといわれている。

Magnetic Resonance Tomographの騒音制御
 核磁気共鳴を用いた診断装置(MRI)では低周波の強い音が出るのが悩みである。磁石の円筒のなかにMFCモジュールを多数設置することにより、固有振動での音の振幅が20dBほど減衰することが測定されている。

自動車の騒音制御
 車体の屋根や壁面の振動制御がまずあげられる。ドライブシャフトにMFCを接着して振動制御する技術がソフトウエアの開発を含めて進んでいる。

Autonomous Sensing and Telemetry
 MFCは微小な振動やショックにより電気エネルギーを得ることが出来る。面積2cm2のMFCを曲げると50μWの電気出力が得られる。これを利用して868MHzのラジオ波を発信し、約30mの距離までシグナルを送ることが出来る。したがって電池を使わない遠隔送信が可能である。

Health Monitoring
 MFCを用いて機械の健康診断をすることができる。たとえば、タイヤの圧力、航空機の機体、建築物や橋梁、船や工作機械、靴などの振動の常時観測などである。

 Daue氏の講演は共同の研究開発者であるFraunhofer研究所のDr. Schonecker, NASAのDr. Wilkieその他の方々への謝辞で終わった。圧電PZTファイバの作成とそれを用いた平面圧電モジュールの開発は大変興味深かったが、それにも増して、応用分野の多彩なことに感銘を受けた。一つの新しいセンサの開発がこれほど広範囲の発展性をもつことはすばらしい。基礎研究の開発が実用に役立ち、ベンチャー事業が成功することを期待したい。Smart Material Corp.日本事務所の愛川文雄氏が通訳をしていただいたことに感謝する。

-先頭に戻る-