2004/4
No.84
1. マニュアルとプロの技

2. 蓄音機ターンテーブル回転チェッカ

3. 床試験室における床衝撃音レベル低減量の測定 4. 第21回ピエゾサロン 5. オーダーメイド補聴器のシェル自動生産システム
       <骨董品シリーズ その51>
 蓄音機ターンテーブル回転チェッカ

理事長 山 下 充 康

 蓄音機では音盤を適切な速度で回転させなければならない。SP盤では1分間に78回の回転数であることが規定されている。回転がこれより遅いと再生音が低音にシフトし、回転が速いと高音にシフトすることになる。手巻きでぜんまいを巻き上げていた蓄音機ではぜんまいが緩むと回転が不安定になって落ち着かない音を聞かせたものであった。

 ターンテーブルが手巻きのぜんまい式から電動モータ式に変わった時点でもターンテーブルを規定の速さで回転させるためには大層な苦労が必要であった。レコード愛好家にとってターンテーブルの回転むらは厳禁である。

 図1はポータブル蓄音機に組み込まれている回転安定装置である。短冊状の板バネとオモリから造られていて板バネの長さを変えることによって回転数を微調整することができる装置である。回転安定装置(スタビライザ)は機械式時計で言えば振り子やテンプ(天桴)と同様な役割をしている。

図1 
蓄音機に仕込まれている板バネとオモリで構成されている回転制御装置(スタビライザ)

 オルゴールのムーヴメントにも簡単な回転安定装置を見ることができる。これは図2に示すように小さな風車で、ムーヴメントに耳を押し当てると風車が回転する蜂の羽音のような音がブーンと聞こえる。この小さな風車はオルゴールの回転を適切に保つための重要な装置である。

図2 
オルゴールのムーヴメントに仕込まれている風車型スタビライザ

 赤く塗られた厚紙の箱に納められた不思議な道具を手に入れた(図3参照)。紙箱の古めかしさと78回転用であるところから推察するに数十年以前に造られた物であろう。

図3 回転テスタの外観と赤い厚紙の外箱

 箱には[INSTANTANEOUS SPEED TESTER]、H.M.V.(ラッパに犬のマーク:His Master's Voice)と記されている。これはターンテーブル回転速度テスタである。表面が黒く塗装されていて材質は定かでないが鉄製であろうかずしりと重い。

 底面の一端に開けられた穴をターンテーブルの軸の突起に差し込む。上部の小孔から金色の小さな円盤がとび出している(図4参照)。ターンテーブルが回転を始めると金色の円盤は孔の中に沈み込む。ターンテーブルの回転速度を調整すると金色の円盤が孔をピタリと塞ぐ位置になる(図5参照)。この時、ターンテーブルはちょうど1分間に78回転で回転していることになる。

図4 
蓄音機のターンテーブルに置かれたH.M.V.回転テスタ
 
図5 
規定の回転速度になるとテスタの頂上部の小穴に金色のディスクがぴたりと納まる

 この「スピードテスタ」はターンテーブルの中央から径方向に働く遠心力を検知することによって回転の速さを可視化する道具で、機械的に作動するテスタである。

 ターンテーブルの回転の速さを確認する道具で最も一般的であったのは同心円状に白黒の縞状の帯が刻まれた円盤であった。電灯線の送電周波数の50Hzまたは60Hzで点灯された光の下でこの円盤を回転させると白黒の縞模様がストロボスコープ効果を現す。回転が適切な速度になると円盤の縞模様が静止して見える。縞模様の描かれた円盤は厚紙やアルミニューム板で作られていてして極めて簡易な道具である。

 この縞模様の円盤は蓄音機を買った時点で数枚が付けられていたが市中のレコード店でもサービス品として無料で手に入れることができたものである。

 ターンテーブルの中にはあらかじめリブの外周に回転速度チェックのための縞模様が刻まれている機種があった(図6参照)。

 ストロボスコープの効果を利用した回転速度チェッカは交流送電による点滅のある光源が不可欠である。電気式蓄音機(電蓄と呼ばれていた)ではターンテーブルの傍らに小さな電球が点されていたものである。この電球の放つ点滅光は縞模様円盤による回転速度チェックのための光源であった。

図6 
四列になっているのは45回転(EP盤版用)と33回転(LP盤用)のストロボスコープで送電周波数50Hzと60に対応

 太陽光や灯油ランプなどの光の様に点滅のない光源では回転する円盤に描かれた縞模様が静止して見えるようなことはない。

 ここで紹介させていただいた機械的な「スピードテスタ」は光源に左右されることがない。点滅光源のない屋外などで使用する機会の多いポータブル蓄音機の回転速度をチェックするのに使われたものであろう。

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