2004/4
No.84
1. マニュアルとプロの技

2. 蓄音機ターンテーブル回転チェッカ

3. 床試験室における床衝撃音レベル低減量の測定 4. 第21回ピエゾサロン 5. オーダーメイド補聴器のシェル自動生産システム
      <研究紹介>
 床試験室における床衝撃音レベル低減量の測定

建築音響第二研究室 中 森 俊 介

1.はじめに
 創立60周年記念事業の一環として、2002年2月、本研究所に新音響試験室棟が完成しました。当施設には音響透過損失を測定することを目的とした2組のISO対応型の試験室と、床仕上げ構造の床衝撃音レベル低減量を測定することを目的とした品確法ガイドラインの付則「重量および軽量床衝撃音レベル低減量の測定方法」に基づく2つの床試験室を備えております。ここでは試験の概要および床試験室の諸元とその測定結果の例について紹介致します。

2.マンションにおける床仕上げ構造
 戸建住宅と異なり、ひとつの建築物内で複数の世帯が共存するマンションなどでは、床衝撃音などの住戸間で発生する騒音が重要な問題とされております。居住者は生活音が聞こえることも聞かれることも嫌い、プライバシー確保のために住戸間には高い遮音性能が要求されます。また、最近のマンションではコンクリートの戸境壁、床で囲まれた空間を居住者が購入し、間取り、内装材を自由に設計できるフリープランシステムを採用している住戸が増加しており、上下階、隣戸間の間取りによっては、室の用途に応じて住居ごとに異なった内装が選択されることもあります。建築躯体のコンクリート床の上に施工する"床仕上げ構造"もその中に含まれ、フローリング、カーペット、OAフロア等、多くのケースが考えられます。その際に、床衝撃音遮断性能が明記されていれば、購入者あるいは建築発注者はそれを目安にし、目的に応じた性能の床仕上げ構造を採用することが可能となります。

3.床衝撃音レベル低減量の測定
 測定に用いる軽量・重量各標準衝撃源を写真1に示します。軽量衝撃源とは、スプーン、コップ、ゴルフボールなど軽くて硬い衝撃で「コンコン、カツン」といった音として表現されます。一方、重量衝撃源とは、人の歩行、跳びはねなど重くて柔らかい衝撃で「ドンドン、ドスン」と言い表します。後者の場合、床衝撃音遮断性能が躯体の性能に依存することや、スラブ面積や拘束条件に左右されるため非常に難しい測定となります。

写真1 各標準衝撃源

 JIS A 1418-1, -2は、現場における空間性能としての床衝撃音レベルを測定するための方法を定めた規格です。しかし、建築工事ではコンクリートスラブと床仕上げ構造は別工程であることや、床仕上げそのものの性能を数値や等級で表示する必要性から、実験室における測定方法としてJIS A 1440が軽量衝撃源を対象に"床衝撃音レベル低減量"を求める方法を規定しています。測定方法は長方形で厚さ150o程度のコンクリート床を用い、床仕上げ構造施工前後で床衝撃音レベルの測定を行い、その仕上げ材による改善効果を測定するものです。しかし、JIS A 1440の方法では、実際の施工現場と異なり、床仕上げ構造の周辺補強および壁への固定を伴わない、一般断面のみの試験体で行うことから、現場での性能との乖離が問題となっております。

 また近年、バリアフリーやフリープランにも対応でき、コンクリートスラブ面の不陸や床下配管および配線等への対応がよく、施工も比較的容易であることからマンションなどで使用される床仕上げ構造として、"乾式二重床構造"(写真2)が主流となっています。しかし、構造が複雑なため多くの共振系をもち、施工精度や建築躯体構造の多様性といった要求も絡んでくるとJIS A 1440による測定結果からでは性能の推定はますます難しくなってしまいます。

写真2 乾式二重床(下地施工)

 このような状況に対処するため、品確法ガイドラインの付則では、主としてこの乾式二重床を対象とした測定方法が考案され、すでに多くの床構造について評価が行われております。主な特徴は、
[1] 現場にできる限り近い床周辺部の処理(壁との取り合い)を行うこと(写真3)
[2] 多様な現場に対応でき、材料や施工精度のばらつきを考慮してスラブ厚さの異なる2つの試験室で同様の測定を行うこと
[3] 軽量に加え重量衝撃源についても測定すること

 などです。この測定法ガイドラインに対応した試験室がここで紹介する本研究所に完成した床試験室です。

写真3 周辺部処理の様子

4.試験室の諸元
 床試験室の断面を図1に示します。スラブの面積は20m2(4m×5m)、受音室の容積は60m3(天井高さ3m)、上階の周壁を模した高さ80pのパラペットが立ち上げてあります。スラブ厚さは150oおよび200oで、それ以外の室寸法、壁厚、受音室内総仕上げ等はすべて共通の仕様とした2つの部屋を用います。壁厚が250oのコンクリート壁式構造で、スラブには多くの衝撃が加わることからひび割れ対策としてスラブ内にアンボンド鋼線を施した(写真4)構造となっています。

図1 床試験室断面図
 
写真4 アンボンド鋼線

5.乾式二重床の床衝撃音レベル低減量測定結果例
 測定結果の一例として、当床試験室で測定した乾式二重床の結果について紹介します。表1に示す5種類の乾式二重床構造について測定し、結果の算出は品確法の測定ガイドライン付則に準拠しました。図2に軽量および重量床衝撃音レベル低減量の周波数特性を示します。グラフ縦軸の床衝撃音レベル低減量は、ゼロを基準(試験体施工前)とし、プラスは"改善"、マイナスは"改悪"となることを表しています。

表 測定対象二重床の仕様
 
 
図2 床衝撃音レベル低減量の測定結果例
(上:重量床衝撃源、下:軽量床衝撃源)

 概してスラブ厚150oの試験室での結果より、200oの試験室での結果の低減量が低くなる傾向があります。これは試験室の試験体施工前後でのスラブから下室への衝撃音伝達系の違いが要因と考えられており、今後も実験的検討を進める予定です。

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