2004/4
No.84
1. マニュアルとプロの技

2. 蓄音機ターンテーブル回転チェッカ

3. 床試験室における床衝撃音レベル低減量の測定 4. 第21回ピエゾサロン 5. オーダーメイド補聴器のシェル自動生産システム
       <技術報告>
 オーダーメイド補聴器のシェル自動生産システム
     リオネット夢耳工房(ゆめじこうぼう)

リオン株式会社 生産技術部 臼 井 義 哉

1.はじめに
 リオネット補聴器はコンピュータ支援による設計(CAD)とコンピュータ支援による製造(CAM)を世界に先駆けて実践してきましたが、オーダーメイド補聴器ではその実現を課題として残してきました。
 近年、普及が目覚しいオーダーメイド補聴器では聴力に対応した増幅特性や機能調整はデジタル化によりコンピュータ支援が完成していますが、外耳道形状への対応は手作り工程が多く、製品の普及に伴って、オーダー生産の効率や品質安定性向上のためにコンピュータ支援による設計製造システム(CAD/CAM)の実現が急務となり、このたびオーダーメイド補聴器の生産自動化のカギである外耳道形状を形成するシェルの生産をCAD/CAM化することに成功しました。
 このオーダーメイド補聴器シェル自動生産システムは「リオネット夢耳工房」と名づけられ、採取した耳型から形状を三次元データ化することで、三次元設計された補聴器ユニットと合わせて個々人の補聴器を三次元CAD上で設計することが可能となり、結果としてより安定した製品の小型化が実現できました。
 なお、本研究に関する基本技術は、リオン所有の特許4件によるものです。

2.「リオネット夢耳工房」の概要

(1) 従来の製造手法の問題点

オーダーメイド補聴器は、個々人の耳の形に合わせる必要から手作り工程が多く、従来の製造手法(図1)では次のような問題点がありました。

 [1] 全て手作業かつ複雑な工程に起因する、シェルの精度の問題。

 [2] 作業者の技量によって製品完成サイズに個人差がでやすい。

 [3] お客様の耳の形状データの蓄積・保存・再利用ができなかった。

 これらの問題点を解決する手段として、CAD/CAM化の研究が行なわれました。

(2) リオネット夢耳工房 主要プロセス装置
 「リオネット夢耳工房」は、販売店で採取した耳型(図2)を三次元データ化する「耳型三次元測定装置」、三次元データ化された耳型で補聴器のシェルをモデリングする「三次元CAD」、シェルを製造する「光造形装置」の3つの主要装置(図2)で構成されます。

図2 「リオネット夢耳工房」の主要な構成装置

 「耳型三次元測定装置」は、レーザ走査で耳型からの反射光を2台のカメラが捕らえる(図3)ことで、点群と呼ばれる三次元位置情報にデータ化し、この点群データから面データに変換して耳型形状データを生成します(図4)。
図3 「耳型三次元測定装置」概略
 
図4 耳型形状データ生成の流れ

 「三次元CAD」では、測定から生成された耳型形状データとあらかじめ三次元設計された補聴器ユニットデータを用いて、部品の最適レイアウトをしながら、補聴器のシェルデータを作成します(図5)。 シェルデータは「光造形装置」用に、0.1oピッチの断面スライスデータに変換されます。
図5 補聴器のシェルデータ

 「光造形装置」では、紫外線硬化型樹脂の液槽内のエレベータを液面から0.1o沈め、スライスデータにしたがって紫外線レーザが照射された部分だけ樹脂が硬化します。つぎにエレベータをさらに0.1o沈め、次のスライスデータで紫外線レーザが照射され樹脂が硬化します。このように0.1oピッチで形状が積層されて、シェルを造形していきます。

 使用している紫外線硬化型樹脂は医療用具材料の生物学的試験の規格ISO 10993に基づいて行われる生体適合性試験により安全性を確認したものを使用しています。図6に「リオネット夢耳工房」で製造されたオーダーメイド補聴の装用状態を示します。

図6 装用状態
3.「リオネット夢耳工房」による利点
 シェル自動生産システムにより、従来の問題点に対する解決が、次のような利点に生まれ変わりました。
(1) 高精度三次元測定により、外耳道形状の忠実再生と安定した精度が実現。これにより個々人の耳への適合度が向上した。
(2) 個人の耳型形状データを用いた三次元CADレイアウト機能が実現。これにより製品形状の最適化と小型化が実現した。
(3) 耳型形状の電子保存(データベース化)が実現。これにより、再購入時(買換、予備、紛失)の耳型再採取が不要とともに、同一形状の再現が可能になった。

4.モニター調査結果について
 
リオネット「夢耳工房」製品の優位性確認のため、「夢耳工房」で生産される製品と従来製品との違いについてモニター調査を行いました。
(1) ユーザーモニター調査について
 モニター対象:補聴器装用者 13名15耳
 
聴力:聴力レベル 41.2dB 〜 68.8dB
 
年齢:62才 〜 81才 女性4名 男性9名

 方法:夢耳工房で表面仕上げが異なる二種類のモニター製品をそれぞれ製作して交互に試用していただき、現行品も含めて評価を行なう。

おもな調査項目:
 [1] 形状の適合性 ハウリング限界利得、装着感
 [2] サイズの評価 製作者および使用者の評価
 [3] 聞こえの評価 使用者の評価

(2) 形状の適合度の向上について
 15耳(表面仕上の異なる2種30台)によるハウリング限界利得の測定の結果、従来シェルに比べて夢耳シェルではハウリング限界利得が平均で「3.6dB」向上した。特に、従来シェルで限界利得の低い群(30dB以下)においては平均で「6.7dB」向上した。このことは、ハウリング限界利得が装用閾値を制限していた場合には、装用閾値の向上が望める。

(3) モニターの皆様の感想
・補聴器をつけているのを忘れるぐらい良かった。
・出し入れが楽になった。
・出っ張ら無くなった。
・違和感が無くなった。昼寝ができた。
・ハウリングをしなくなった。
・長時間使用していても疲れない。
・音が良くなった。
・音がとおって聞こえる。音が良く入ってくる。
・響かなくなり電話ができるようになった。

(4) モニター結果 まとめ
 リオネット夢耳工房が目指した利点は以下の通り。
 
[1] 耳への適合度の向上
 [2] 製品形状の最適化と小型化
 [3] 同一形状の再現

 モニター調査により、[1]はハウリング限界利得の向上により、[2]はサイズと出し入れ・装用感の評価により、[3]は仕上げの異なる二種類の夢耳シェルの平均限界利得がほぼ同一であった結果からそれぞれ確認され、従来シェルの製品と比較して夢耳工房製品の優位性が大きいことが立証されました。

5. おわりに
 「リオネット夢耳工房」は人体形状の一部である耳の形状を三次元測定してラピッドプロトタイピングにより造形してオーダーメイドの製品をCAD/CAM生産する極めて先進的なシステムです。
 このような生産システムの流れは世界の主流になることはあきらかであり、世界のオーダーメイド補聴器の歴史が大きく変わろうとしています。
 近年、造形装置も、より小型・安価で高精度な、インクジェットタイプが急速に普及してきました。今のところまだ樹脂の強度の問題で実用的ではありませんが、今の光造形法にこだわり続けずに、今後もこのような新しい技術の可能性を探求していかなければなりません。
 また、非接触方式によってお客様の耳から直接データを高精度に採取する技術も構築していきたいと考えております。この技術が完成すれば、お客様により満足度の高い製品を、よりいっそう早くお届けすることが出来るものと考えております。

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