2001/4
No.72
1. 音を制すは人をも制す 2. 第11回ピエゾサロンの紹介 3. 砂時計式キッチンタイマー 4. ロッセル塩結晶の生い立ちと圧電気 5. オージオメータ AA-79/79S
       <技術報告>
 オージオメータ AA−79/79S

リオン株式会社 聴能技術部 野 中 隆 司

1.はじめに
 平成12年8月に、オージオメータのJIS規格がIEC規格との整合化というかたちで改正されたことにより、オージオメータの機能や性能に関する規定が大幅に拡張され厳格なものになった。AA-79/79Sは、この新JIS規格に規定されたタイプ3の要求事項を満たす、開業医や総合病院向けに開発されたオールインワンタイプのオージオメータである。

 AA-79は、聴力検査として一般的によく行われる標準純音聴力検査の他、域値上検査、自記オージオメトリー、語音検査といった検査に対応している。

 AA-79Sは、AA-79の機能に加え、語音検査用の音源(57-S、67-S語表)を内蔵している。

 共通の性能としては、6.5インチの高解像度カラーLCDと、8ドット/mmのサーマルプリンタにより、検査条件や検査結果の表示や印字が可能である。また、RS-232-C出力により、検査結果をパソコン等へ転送することもできる(図1)。

図1 オージオメータAA-79S 全体図

2.構造と性能
 図2に、AA-79/79Sのブロックダイヤグラムを示す。

 制御部はCPU、ROM、RAM、各種ドライバIC等から成り、さらにAA-79Sの場合には語音データを書き込んだ語音ROMが加わる。語音ROMには、日本聴覚医学会が定める57-S語表と67-S語表の単音節語音及び数字語音の他、被検者に検査の方法や進行状況を伝える案内音声がメモリーされている。

 検査音ならびにマスキングノイズは、いずれもDSPで生成されるため、優れた周波数特性を示し、また掛算器回路により、リニアリティー精度の高い出力音を実現している。

図2 ブロックダイアグラム

3.開発コンセプト
 本器の開発に当たって、特に以下のような点を重要視した。

 (1) 自動聴検アルゴリズムの改良

 当社のオージオメータの大きな特長の1つに、自動聴力検査機能(プラトー法自動マスキング)があげられる。これは、オージオメータが被検者の応答の有無を監視しながら、自動的に検査音のレベルやマスキングレベルを切り替えて、その被検者の聴力レベル(域値)を測定する機能である。この機能は各オージオメータに搭載され、少しずつ改良が加えられてきたが、今回全面的に改良を行い、今までよりもより早く、より正確に検査が行えるようになった。

 (2) デザインの一新

 本器の開発コンセプトの1つに、外形デザインの一新があげられる。当社医測製品のデザインは11年ほど前に発売されたオージオメータを基本デザインとして、オージオメータやその他の製品に数多く使用してきたが、最近の病院内の内装イメージに合うように、今回のデザイン変更となった。

 本器は、従来器種に比べて全体的に丸みを帯びた形状とソフトな色合いを採用し、明るく清潔なデザインとした。各部に曲面があるため、スイッチ類の配置やダイアル板の形状等にもそれなりの工夫が必要となったが、決してデザインに縛られるだけでなく、操作性の向上も同時に検討されたデザインとなっている。今後しばらくは、このデザインが当社医測製品の基本デザインとなる。

 (3) 他社製品に対抗できる価格競争力の向上

 前モデルのAA-97は発売から7年ほど経過し、他社が同様の製品を安い価格で販売してきたことから、価格競争力が落ちてきた。このため、現在の機能は下げずに販売価格を低く設定しても、現行以上の利益が確保出来ることを目指した。

 原価低減の具体的な策の1つとして、モールドケースの使用及び他器種とのケースの共通化があげられる。本器の本体ケースは、大きく前面、背面、下面(操作面)、及びシャーシの4つのパーツから成っているが、このうち前面と背面のケースについては、同時期に開発を開始したインピーダンスオージオメータと共通の部品を使用した。従来製品は数量の関係で低発砲ウレタン樹脂を用いたケースを使用していたが、共通化によりABS樹脂のモールドケースを使用することを可能にし、原価低減を実現した。また、ケース素材がウレタン樹脂ケースではないため、部品品質の向上にも成果を上げると考える。 低価格モデルであるAA-79でも、高価な高解像度のカラーLCDを搭載しながら、定価はこれまでの製品より10%以上低く設定しているにも関わらず、従来品と同等の利益率を確保した。

4.その他の新機能
 AA-79/79Sで新たに追加された新機能の内、2つを紹介する。

(1) 次周波数ボタン機能

 検査周波数を切り替える際、従来器種では操作パネルに周波数の数だけ並んだ周波数ボタンの中から、検査を行う周波数に対応したボタンを選んで押す必要があった。本器では、この周波数ボタンに加えて、新たに1つのボタンで周波数を切り替えることができる「次周波数ボタン」を装備した。

 本器は、11周波数の気導検査と10周波数の骨導検査に対応しているが、通常はこのうちのオクターブ周波数についてのみ検査が行われる場合が多い(気導:7周波数、骨導:5周波数)。また、検査を行う順序も一般的に決まっている。次周波数ボタンは、このオクターブ周波数を一般的な検査順序で切り替えるボタンである。

 この次周波数ボタンにより、検者は各周波数ボタンを選択して押す煩わしさがなくなり、1つのボタンで検査周波数を効率的に切り替えることができるようになった。また、次周波数ボタンを操作部手前の域値確定ボタンのそばに配置したことにより、検者は右手で域値の確定入力操作と周波数の切り替えを、左手でレベルダイアルを操作するというように、最小限の動作で検査を行うことが可能である。聴力検査は一人20分ないし30分近く掛かる検査であり、検者の負担低減は大きいと考える。

(2) 応答時の画面フラッシュ機能

 聴力検査を手動で行う場合、検者はレベルダイアルを操作して検査音レベルを切り替えつつ、同時に被検者の応答の有無を監視して、応答が得られたときの検査音レベルを読み取らなければならない。このため、どのオージオメータもレベルダイアルの近くに被検者応答ランプを配置している。この場合、視線はレベルダイアル付近になる。さらに、本器のようにLCD表示器を搭載した器種では、オージオグラム画面上でも検査音レベルや周波数、被検者の応答の状態等が確認できるよう、画面にこれらの情報を表すシンボルが表示されている。

 しかし、従来器種では周波数やレベルを表す域値シンボルがオージオグラム上にあるのに対し、被検者応答シンボルはLCD表示器の隅に表示されていた(図3)。このため、域値シンボルを注視した状態で被検者応答シンボルの状態を確認するには視線を移動させる必要があった。

 本器では、オージオグラム上の域値シンボルと画面の隅にある被検者応答シンボルの表示に加え、応答に同期してオージオグラム画面の背景色そのものを変える(見た目には点滅しているように見える)機能を搭載した。これにより、検者はオージオグラム上の域値シンボルを注視しながら、被検者の応答を確認することができるようになった(本機能は、特許出願中である)。

図3 オージオグラム画面

5.おわりに
 オージオメータAA-79/79Sは、より高い価格競争力を持った製品にすると同時に、他社の同価格帯の製品にない性能やデザインと操作性の向上に重点を置いて設計を行い、昨年12月に発売となった。しかし、本器に対してユーザーが評価を下すのはこれからであり、我々の製品が市場にどのように受け入れられるか、不安でもあり楽しみでもある。

 最後に本製品を開発するに当たり、共同設計課である生産技術部第1グループならびに当社の関係各課のご協力に対し、紙面をお借りして謝意を表します。

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