1997/1
No.55
1. 迎 春 2. 陰陽五行と「視る」と「聴く」 3. ISO試験室を訪ねて 4. 精密騒音計(1/3オクターブ実時間分析器付き)NA-27
       <技術報告>
 精密騒音計(1/3オクターブ実時間分析器付き)
     NA−27

リオン株式会社 音測技術部  橋 清 勝

1.はじめに
 騒音測定の現場では騒音計と共に1/1または1/3オクターブ周波数分析器を用いて騒音の周波数情報を得る場合が多い。特に騒音の対策とその評価や構造物の性能評価を目的とする場合はそうである。例えば、建築物の遮音に関する性能評価(室間平均音圧レベル差、床衝撃音レベル等)はJISによって1/1オクターブ周波数分析毎の音の測定結果から性能評価することが規格化されている。また、評価とは別に研究的立場からより詳細な防音・遮音性能を調べるために1/3オクターブ周波数分析もよく行われる。ちなみに、ISOによる建築物の遮音に関する性能評価は1/3オクターブ周波数分析で行うことが原則となっている。
 以上のような状況のもと、古くは騒音計と周波数分析器を現場に持ち込んで測定を行っていたが、近年はバンド切り替え式の1/1または1/3オクターブフィルターを内蔵できる騒音計(NL-14.NL-18等)や1/1オクターブ実時間周波数分析器を内蔵した騒音計(NA-29)の登場で、1台の測定器で騒音計測と周波数分析が可能となった。
 今回報告するNA-27は1/1オクターブに加え1/3オクターブ実時間周波数分析器を備えた新型の精密騒音計であり、1台で騒音の計測・分析全般を行えるハンディータイプ計測器を目指して開発した製品である。

写真 精密騒音計 NA-27型
2.構成
 図1にNA-27の構成ブロック図を示す。入力部増幅器と2系統の独立した周波数ウェイト回路はアナログ回路で実現しているが、以降の周波数分析部、検波部はDSP 1個を用いてディジタル演算で実現している。分析、検波された信号はCPUによりLeg、Lx等の演算が実行され表示される。CPUは他に全体の動作制御や通信制御を行っており、ソフトウェア仕様の規模およびその開発効率と消費電力を照らし合わせ、RI SCタイプの高速32ビットCPUを採用した。この結果、ソフトウェアの全てをC言語で開発でき、さらにCPUの動作速度は最大動作速度の約7割程度に押さえることができた。ディジタル部ハードウェアの電源電圧は消費電力低減を目的に、近年の低電圧駆動技術を採用し、表示部を除き3.3Vである。
図1 NA-27の構成ブロック図
3. 特徴
1) 実時間分析
 NA-27はマイクロホンから出力される音圧信号を16ビットに量子化し、ディジタル演算により逐次分析し結果を表示する。ディジタル演算の速度は音圧信号の変化に比べて十分に高速であるため、分析しようとする信号の欠落は発生しない。これは単発音や間欠音などの非定常音を測定する場合に重要である。ちなみに、オクターブおよび1/Nオクターブフィルターの新しい国際規格であるIEC 1260には実時間分析であることが規格化されている。

2) デュアル測定
 図2にデュアル測定結果を示す。
 NA-27は1入力(マイクロホン)に対して2つの独立した周波数ウェイト回路および実効値検波回路を備えており、それぞれをメインチャンネル、サブチャンネルと呼び区別する。周波数分析はメインチャンネルのみ可能である。この2つのチャンネルは個別に周波数ウエイト、時定数を設定できるので同時に2つの計測を可能にする。例えば重量床衝撃音の測定時にサブチャンネルをA特性、FAST、メインチャンネルをC特性、 FASTに設定すれば各周波数バンド毎の評価値と同時に騒音量(dB(A))を計測できる。
図2 ディアル測定結果(3/1オクターブ両面)
3) 同時測定
 等価騒音レベル(Leq)、間率騒音レベル(Lx:x=1,5,10,50,90,95)、最大騒音レベル(Lmax)、最小騒音レベル(Lmin)、単発騒音暴露レベル(LE)、の計測項目から任意の5種類を選択し同時計測を行うことができる。環境騒音のLeqを測定する場合、Lmax、L5、L50、L95を同時に測定すれば騒音レベルのおおよその度数分布を推定できる。図3に同時測定結果を表示している画面を示す。

図3 同時測定結果
4) 2次演算
 内部メモリーにストアーしたデータの指定されたアドレス範囲に対して、パワー平均、パワー加算および残響時間推定の各演算を実行できる。パワー平均機能は、建築物のある部屋の騒音評価で、多点で計測した測定値の空間平均を行う場合に便利である。パワー加算機能は衝撃音等の単発騒音の評価に便利である。単発騒音の発生から終息までの音圧スペクトルの変化、最大音圧レベルや総エネルギーを測定する場合に、NA-27を用いて短い時間間隔で内部メモリーに瞬時音圧レベルを連続ストアーし、そのスペクトルの時間変化を観察し、総エネルギーを求めることができる。残響時間は内部メモリーにストアされた音圧レベルの減衰過程のデータから最小二乗法により減衰直線を求め推定している。最近の住宅は断熱効果を考え高気密化の傾向にあり居住空間の残響時間が会話明瞭度の観点から話題になることがある。この様な場面でもNA-27は現場において迅速に残響時間を推定できる。図4に残響時間の測定結果の例を示す。
図4 残響時間測定例
5) 光空間通信
 最近の携帯型のパソコンはIrDA方式の光空間通信ポートを備えるものが多い。光空間通信は高速転送が可能である利点と通信ケーブルがいらない利点がある。NA-27はこれらの利点を現場で生かすべく光空間通信を備えた。特に後者は、携帯型パソコンと組みでNA-27を現場で使用する場合にケーブル脱着の手間が無いので便利であるし、機材が減る点でも好ましい。
図5 光通信イメージ
4.フィルター特性
 フィルターは50kHzでサンプリングされた入力信号をDSPによりディジタル演算して実現されている。図6、7に1/1オクターブおよび1/3オクターブフィルターの中心周波数で正規化した周波数特性を示す。ディジタル処理特有の時間間引き処理により他のオクターブ周波数毎のフィルター特性は同じである。1/1オクターブフィルターは12次、1/3オクターブフィルターは6次のバターワースフィルターで構成されている。特に1/1オクターブフィルターの次数は、ナイキスト周波数近辺でのフィルター特性の歪みと、フィルターの中心周波数の両側での特性の対称性を考慮して12次とした。
図6 1/1オクターブフィルター特性
図7 1/3オクターブフィルター特性

5.仕様
1) 適用規格
 騒音計規格
  計量法・精密騒音計JIS C 1505-1988
  IEC 651:1979 TYPE1
  IEC 804:1985 type1
 フィルター規格
  1/1オクターブJIS C 1513 II型
  1/3オクターブJIS C 1513 III型
  IEC 1260:995 CLASS 1
  ANSI S1.11 TYPE 1D

2) マイクロホン
 1/2インチエレクトレットマイクロホンUC-53A
3) 測定範囲
 計量法 28dB(A)〜130dB(A), 20Hz〜12.5kHz
4) 周波数補正回路
 A特性、C特性、平坦(FLAT)特性
5) 実効値回路動特性
 真の実効値回路
  SLOW, FAST, 35ms, 10ms
6) 分析バンド幅
 1/1オクターブ、1/3オクターブ
7) 測定機能
 瞬時値、等価騒音レベル、単発騒音暴露レベル、
 最大騒音レベル、最小騒 音レベル、時間率騒音レベル
8 ) 内蔵データメモリー
 1/3オクターブ分析データ 2000データ記憶
9) 通信
 RS-232-C 赤外線光空間通信
10) 電源
 単2乾電池4本(アルカリ:8時間連続使用可)
 ACアダプター NC-94
11) 寸法、重量
約358(長さ)×100(幅)×50(厚さ)mm 約800g(電池含む)

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