1997/1
No.55
1. 迎 春 2. 陰陽五行と「視る」と「聴く」 3. ISO試験室を訪ねて 4. 精密騒音計(1/3オクターブ実時間分析器付き)NA-27
 
 迎 春

平成9年元旦

理事長  下 充 康

 謹んで新年のお慶びを申し上げます。

 小林理学研究所は樹木の生い茂る小高い台地に立地しております。建物を取り囲む樹木の中には歳を経て立ち枯れ寸前の巨木もあれば小鳥が種子を運び来でもしたのか発芽したての若木まで様々な種類の植物を見ることができます。

 来訪されるお客様の中には、新宿副都心からJRで30分ほどの距離にこのように豊かな自然環境に触れることのできる地域が残存していることに驚嘆される方々も少なくありません。

 窓の外に展開する雑木林が見せる表情は四季折々に変化して我々の目を楽しませてくれます。手付かずのままで残されてきたこの雑木林は、年々減少の傾向をたどる武蔵野の原風景をとどめる貴重な自然資源として、将来的にも健全な姿で保全したいものと考えております。

 ところで、丁度100年前の1897年(明治30年)、「森林法」が制定されております。これは「森林の有する保安的な機能と産業的、経済的機能とを十分に発揮させることを意図した森林行政の基本根拠を規定する法典」ですが、他方において環境行政の歴史の上では自然環境の保全に関連する初めての法律に位置付けられるものと考えることが出来ます。

 環境の保全については、騒音や振動に関する研究を通じてその大切さを強く感じるところでありますが、環境問題は今や地球を取り巻くオゾン層の保護をも視野に入れた地球規模にまで広がりを見せています。

 顧みれば、高度成長期と言われる昭和30年代に公害問題が深刻化し、昭和40年代には公害対策と自然保護行政の整備強化が進められて「公害対策基本法が制定(42年8月)」され、「環境庁が設置(46年7月)」されています。その後、急速な都市化が進む中で生活型の公害問題が注目され、好ましい生活空間の保全が日常的な話題にのぼり、「恵み豊かな環境を将来の世代に受け継いでいくために、これまでの社会経済システムやライフスタイルを根本から見直し、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会を構築する」ことを目指して「環境基本法の制定(平成5年11月)」をみました。

 「恵み豊かな環境を将来の世代に受け継いでいく」ことは今日の我々に課せられた大きな責務であり、それを実現するためには人の「知恵」こそが不可欠なものだと思います。

 様々な情報が縦横に飛び交う社会にあって、知識の吸収に追われ物事の本質を見失いがちな今日。老子に日く「少則得、多則惑」。

 おりしもドイツのK.F.ブラウンが陰極線管を発明したのも100年前の1897年。パソコンのブラウン管ディスプレイには世界中から眩暈を覚えるほどの膨大な情報が手軽に映し出される昨今です。「知識」に埋もれてしまって人々は「知恵」を絞ることを忘れてしまってはいるのではありますまいか。青空に翻る四色の歪んだ窓枠が映し出されるディスプレイに導かれて未知の世界を彷徨するたびに何かしら落ち着かない気分に囚われます。

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