1997/1
No.55
1. 迎 春 2. 陰陽五行と「視る」と「聴く」 3. ISO試験室を訪ねて 4. 精密騒音計(1/3オクターブ実時間分析器付き)NA-27
 
 陰陽五行と「現る」と「聴く」

所 長  田 一 郎

 年頭にあたり、謹んでお祝い申しあげます。旧年中は皆様から多大なご支援を賜り、厚くお礼申しあげます。おかげさまで順調に業務を遂行することができました。
 本年も所員一丸となって頑張る所存でございますので、よろしくお引き立てのほどお願い申しあげます。

 今年は丑年です。十二獣を割り当てた十二支が歴史的資料に初めて現れるのは後漢(西暦25〜220年)だそうです[1]が、十二支の考え方はさらに古く、五つの惑星、木星・火星・土星・金星・水星のうち最も尊いとされた木星(歳星)の運行に基づいて作られたものだそうです。木星が概ね12年で天を一周することによるようです。ただし、運行の向きが太陽や月と逆のため、それと逆向きに軌道を辿る架空の星を考え、その天空の位置に付けた名前が子丑寅卯辰巳午未申酉戊亥の十二支です。この十二支に陰陽五行思想による十千(甲乙丙丁戊己庚辛壬癸)を組み合わせて六十年周期で数えるのが六十花甲子です。干は幹、支は枝を意味しており、木の幹と技を組み合わせて考えていることになります。六十花甲子は甲子に始まり、癸亥に終わります。今年はその第十四番目、丁丑の年にあたります。十干も十二支も、本来は万物の栄枯盛衰の推移を表しているそうで、丁は草木の形態が充実した状態、丑は紐で、絡むこと、芽が種の中でまだ伸び得ぬ状態のことだそうです。

 さて、十干は陰陽五行の木火土金水の五気に陽と陰である兄弟を組み合わせたものです。例えば、木の兄が甲、木の弟が乙、従って丁は火の弟ということになります。同じ火でも、兄(陽)である丙は灼熱の太陽ですが、弟(陰)の丁はロウソクの炎になります。十二支の丑は陰の水で水滴や小川の水になります。火は天に上がり、水は下へ降りるものです。

 陰陽五行説は自然や人間に関する森羅万象に陰陽を見る考え方であり、色々なものが陰陽五行に割り当てられています。例えば方位は南が火、北が水です。土には真ん中が割り当てられています。色では青赤黄白黒が木火土金水となります。

 ここで人の声について見ると、笑が火、呻が水です。人のふるまいについて見ると、視が火、聴か水、言が金です(金はものを言うでしょうか)。漸く、表題のところにたどり着きました。今年は丁丑、視と聴の年です。陰の気ですから、二十一世紀へ向けて形を整え、伸び拡がっていく準備段階というところかもしれませんが、張り切って行きたいものです。なお、真ん中である土にはそれぞれ思と歌とが割り当てられています。人間の真ん中であるお腹で思い、歌うというところでしょう。

 陰陽五行などと新年早々随分古くさいことを、しかも受け売りばかり、書きました。すこしは新しい話題にも触れなければならないということで、受け売りついでに、最近読んだ雑誌の記事から視ると聴くを結ぶ話題を一つご紹介したいと思います。日震学Helioseismilogyという言葉をご存じでしょうか。太陽の内部構造や活動のダイナミックスを調べる天文学の研究分野の一つです。最初に雑誌記事[2]のタイトルでこの用語を見たときは随分違和感を覚えましたが、記事を読んでから考えると自然な造語に思えます。地震の伝わり方で地球の構造が調べられていることはご存じの通りですが、日震学はそれと同じように太陽の内部を伝わる粗密波、つまり、音に関する観測と考察により太陽の内部構造などを調べる学問なのです。ごく最近まで直接的方法でそのような研究をすることはおよそ不可能のことと思われていたのですが、それを可能にしたのが日震学ということです。1960年に太陽表面が、毎秒数百メートルの速度振幅で、周期5分の振動をしていることが発見され、その解析から、太陽内部を伝わる音波がその原因であることが分かり、それをきっかけに日震学が発達したわけです。まさに、視ることから聴くことへの展開です。

 正月早々雑駁な話を書いてしまいました。本業の話に戻って筆をおくことにいたします。「理学の基礎と応用を研究し、社会に貢献する」という当所の基本を忘れず、新しい年・新しい世紀に向けて、所員一丸となって進みます。ご支援、ご鞭撻を賜りたく、よろしくお願いいたします。

参考資料
[1] 吉野裕子、ダルマの民族学 - 陰陽五行から解く-、岩波新書
[2] ジョン・ハーベイ、日震学のもたらした驚きと謎、パリティ 丸善、   1996年9月号

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