1996/7
No.53
1. 残したい"日本の音風景100選" 2. スリッパが怖い 3. [The Rattle夜警用警報器] 4. 1/2インチ高温度用マイクロホン UC-63L2
       <技術報告
 
1/2インチ高温度用マイクロホン UC−63L2

リオン株式会社 研究開発部 本 間  章

1.開発の背景
 ロシアの原子力発電所の安全性向上に係わる支援を、西側各国が協力して行なっていくことが先のG7先進7カ国蔵相会議にて決まりました。その一環として、日本(科学技術庁)は、マイクロホンによる漏洩検知システムを旧ソ連型炉(RBMK:黒鉛減速沸騰軽水冷却型炉)ヘ適用するための技術支援を進めています。
 マイクロホンによる漏洩検知システムは、原子炉冷却系配管室にマイクロホンを複数個設置し、冷却水が漏洩した際の音の変化により漏洩を検知しようとするものです。リオン(株)では、この支援プロジェクトの推進事業体である(株)ペスコ殿から、このシステムを請け負っている(株)日立製作所殿より、本検出システムの重要なセンサとなる高温度用(300℃)マイクロホンの製作を受注し、開発を行ないました。

2.構成
 マイクロホンカートリッジからプリアンプまでの等価回路を図1に、外観を写真1に示します。

写真1 外 観
 
図1 等価回路
 1/2インチ高温度用マイクロホンを開発するに当たっての大きな課題は、
 1.300℃で使用可能な1/2インチマイクロホンカートリッジの開発
 2.マイクロホンとプリアンプを30m分離するための耐熱ケーブルの開発
 3.300℃での感度、周波数特性を測定するためのアクチュエータの開発
 4.高放射線下で使用可能なプリアンプの開発
 でした。
 高温度用のマイクロホンカートリッジは、300℃でも安定な性能が得られるように、振動膜を従来よりも厚さを厚くし、さらに、振動膜をレーザー溶接で固定しました。また、バイアス電圧が放電して振動膜が万が一破損するような事故が発生しないように、バイアス電圧を従来の+200ボルトから+150ボルトに下げて使用します。
 300℃の雰囲気中で使用するマイクロホンと室温で使用しなければならないプリアンプをどうしてもケーブルで分離する必要がありますが、マイクロホンとプリアンプを分離することにより、感度の低下とノイズの増加が発生し、S/Nが悪くなります。感度の低下とノイズの増加を小さくするために、耐熱ケーブルを芯線、内シールド、外シールドの一芯二重シールド線の構造にし、内シールドを中和電極として使用します。さらに、芯線−内シールド間の静電容量を70pF/m以下になるようにしました。また、据え付け時の取り扱いが容易になるように曲げ自由度を高くし、300℃でも絶縁抵抗が劣化しないようにするために絶縁体としてセラミックフェルトを使用し、さらに、芯線、内シールド、外シールドの各層にポリイミドテープを巻き付けて耐湿性の向上を図っています。
 周波数特性の測定に使用する従来のアクチュエータでは、300℃での感度、周波数特性のができないために、新たに、高温度用アクチュエータを開発し、それを使用して、室温、300℃での測定を行なうようにしました。アクチュエータは、振動膜に接近して設置される穴あき板で構成されたもので、DC成糧電圧とAC信号を穴あき板に加えることにより、亀場によって生じた圧力が振動膜に音波によっておこる圧力と等価な運動を生じさせるものです。
 プリアンプは高放射線下でも使用可能なようにするために、出来るだけトランジスタ等の素子数を少なくなる構成にするようにして対処し、マイクロホンと耐熱ケーブルの絶縁抵抗が100MΩまで低下しても性能が損なわれることがないように、プリアンプの入力抵抗を200MΩまで下げています。また、プリアンプから騒音計ユニットまでの間を200mケーブルで延長できるように、プリアンプにバッファーを内蔵しています。

3.性能
 以上の検討、対策を行なった結果、次の性能を得ることが可能となりました。

 1.感度
   室温のとき −41dB V/Pa(at 16kHz)
   300℃のとき −50dB V/Pa(at16kHz)
 2.周波数特性
    図2参照

図2 感度・周波数特性
 3.周波数範囲
    1kHz〜31.5kHz
 4.自己雑音レベル
    室温のとき(at 16kHz) 45dB SPL
    300℃のとき(at 16kHz)52dBSPL
    図3参照
図3 自己雑音レベル
 5.指向特性
    室温のとき(at 16kHz)入射角0°−90°−8.3dB
    300℃のとき(at 16kHz)入射角0°−90°−5.4dB
    図4参照
図4 指向特性

 6.使用温度範囲
    受音部 室温〜300℃
    延長部 室温〜300℃
    プリアンプ 室温〜70℃
 7.使用温度範囲
    受音部 結露しないこと
    プリアンプ  20〜75%RH
 8.耐熱ケープル長さ
    30m
 9.耐震性
    3G(5〜33Hz)
 10.耐放射線牲
    累積照射線量は受音部のマイクロホンからプリアンプまで
    1×

4.おわりに
 現在、1/2インチ高温度用マイクロホンUC‐63L2は、ロシア国内にあるニキエット研究所等での確認試験を終え、本年夏にレニングラード原子力発電所に設置し、試験に供する予定です。
 さらに、今後、一般用の高温度用マイクロホンとして、火力発電所、ゴミ焼却炉、大型自動車のエンジン部の測定等への幅の広い応用が可能です。

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