1996/7
No.53
1. 残したい"日本の音風景100選" 2. スリッパが怖い 3. [The Rattle夜警用警報器] 4. 1/2インチ高温度用マイクロホン UC-63L2
       <骨董品シリーズ その27
 [The Rattle−夜警用警報器]

理事長 山 下 充 康

 或る古い銅版画で、そこに描かれた街の夜警が携帯している奇妙な道具が何なのかが長年の気掛かりだった。この春、偶然にその実物を手に入れることができた。

 骨董品店の限で埃に埋もれていて、店の亭主はこれが何かを知らず、またこんなガラクタに買い手がつくとは夢にも思っていない様子であった。

 [Police&Watch Rattle / circa 1840]と書かれた小さなカードが貼られている。書かれた文字の字体は古めかしくて、西洋骨董の雰囲気が強い。

 堅い短冊のような木の板の一端が木製の頑丈なフレームに固定されていて、板の他端を2個の六枚歯の星型ギアがはじくようになっている。短冊状の板を固定するネジ釘以外は総ての部品に木が使われている。

 ハンドルを握ってフレームを振り回すと星型ギアが回転してバリバリバリと音をたてる。マシンガンを思わせる強烈な音で、思わず耳を覆いたくなる。

 〔Rattle]:いわゆる「ガラガラ」である。(Rattle−snakeはガラガラ蛇のこと。)旧版のオクスフォードの辞書では、「騒々しい音声、賑かな物音、喧騒、願閙、ガチャガチャ。ガラガラ鳴る物。相手を威嚇したり周囲に異変を知らせるための警報器で、夜警や番人が携帯していた」と説明されている。

 貼り付けられているカードの記述を信じれば、150年前の品物ということになる。ハンドルの表面や歯車の部分は滑らかに擦れていて、これが十分に使い込まれた器具であることを感じさせる。こんな物がどうした経緯で骨董品店にたどり着いたのかを知ることはできないが、意外な珍品を発見したものである。

 因みに下図は15〜16世紀のフランスとチェコのRattleで、ニューヨークのメトロポリタン博物館に展示されているもの(同館の展示品カタログから引用)である。発音メカニズムはどのRattleも同じで、ギアを回転させて板の端を連続的にはじく構造になっている。

 R.シュトラウスの交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」の中でキリキリキリという奇妙な音が聞かれる。特徴的な音なので直ぐにそれと気付くが、これは小形のRattleがオーケストラの楽器として使われているものである。類似の器具は宗教儀式や民族舞踏の際の鳴り物としても古くから各地に存在したらしい。小形のRattleの音はキツツキが木に孔を掘る音や釣糸を巻き取るリールの音に似ている。

 欧米ではキリキリキリというこの種の音が好まれるのか、横断歩道で耳にする盲人用のシグナルサウンドにこの音が使われている。無機的な音で無愛想のようだけれど「キリキリキリ」の方が電子合成音の「とおりゃんせ」や「カッコーカッコー」よりも耳障りでない。諸兄諸氏におかれては如何であろうか。

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