1995/10
No.501. キーネーシスからエネルゲイアへ 2. ノルウェーの旅 3. インターノイズ95に参加して 4. オーダーメイド補聴器
スーパーミニカナールHI-50K<技術報告>
オーダーメイド補聴器
スーパーミニカナールHI-50Kリオン株式会社 聴能技術部第1G 西 野 安 男、原 博 一
1.はじめに
近年アメリカでは、ディープカナル(一般にCIC=Completely-in-the-canalと呼ばれています)補聴器が注目を集めています。
米国の1994年(1月〜9月)の補聴器販売台数は120万台で約80%がIn The Earタイプで4.8%がディープカナル補聴器です。米国補聴器市場は1992年より数%ずつ販売台数が低下しているため業界は1993年に発売されたこの補聴器に期待をよせています。1)このディープカナルは、補聴器の操作面が外耳道入口まで入り、先端は外耳道の奥(第2カーブと呼ばれる先まで)に入るため小型で目立たなくなるという最大の特徴を持ちます。さらに性能面では、補聴器のマイクが外耳道口に入るため耳の集音効果により高音域が強調され、先端が外耳道の奥に入るため鼓膜と補聴器の間の容積が減少して特に高音域の音圧が上昇します。また、自声のこもり感が減少するのも特徴の一つとなっているためです。このようにディープカナルは、種々の利点を持っていますが、耳の奥深くまで耳型を採取しなければならないと言った安全性の問題があります。このために深い耳型を安全、確実に採取するための技術が必要になります。
FDA(米国厚生省・食品医薬品局)では、ディープカナルを扱うに当たり教育訓練を推奨しています。
当社では、このようなディープカナルの利点をできるだけ生かし、安全性を考慮して外耳道の奥まで耳型採取をしなくとも良いスーパーミニカナール(HI-50K)を開発しました。
写真 スーパーミニカナール HI-502.スーパーミニカナールHI-50Kの仕様
1) 主要構成部品
主な部品構成は、ディープカナル補聴器と同じです。(図1参照)
図1 主要構成部品電気的なフィルターを採用するとトリマーが必要になりスペース効率が悪いため音響回路による高域調整を付けました。(図2、3参照)
図2・3 周波数レスポンス
(マイクカバーによる周波数特性の変化)2) 適応聴力範囲
軽、中等度難聴。(図4参照)3) 性能一覧(図5参照)
図4 適応聴力範囲
この範囲の中から使用者の聴力により自動フィッティングにより特性が選択されます。3.スーパーミニカナールの利点
図5 HI-50K 性能一覧
1) 補聴器が小型で目立たない。
大きさの違いは、外耳道に入る補聴器の位置で決まります。まずフェイスプレートの位置が外耳道入り口から約1mm手前に位置し、先端は外耳道の骨部に達しています。
2) 補聴器が外耳道の骨部まで押さえることにより自声のこもり感が減少します。
こもり感は、補聴器が外耳道の軟骨部から骨部を押さえることにより減少しますが、骨部は皮膚組織が薄く補聴器が当たると痛み、炎症を起こしやすいので補聴器にテーパーを付けます。このためこもり感の解消効果は少なくなります。(図6参照)
「こもり」
「イー」を発音した時の外耳道内に生じた音圧
(口許から50cmで70dBのとき)3) 補聴器が外耳道に入るため高音域が強調される。
測定用マネキン右耳装用した時の0゜、90゜入射による比較を示します。(図7参照)
図7 各補聴器のマイクまでの利得(上:0°、下:90°)4) 補聴器が外耳道の奥に入るため鼓膜との容積が減少することによる音圧上昇。
実耳にて測定したカナル補聴器を基準として示します。(図8参照)
図8 カナルを基準とした外耳道内音圧5) 風雑音(風切り音)の低減
測定用マネキンの頭部を風洞の前に置き3m/secの風にて測定。(図9参照)4.モニターを実施
図9 各補聴器の風雑音の指向特性
耳型採形、補聴器製作上の問題点、補聴器装用によりその有効性、問題点を確認するために実施しました。
1) 期間、実施場所、人数
平成6年10月〜12月16日まで、リオン補聴相談室(東京、大阪)、リオネット補聴器相談室にて14名15耳で行われました。
平均聴力 37.5〜71.3dBHL
平均 48.9dBHL
2) モニターの結果
総合評価としてスーパーミニカナールは、目立たずとても良い。聞こえもおおむね良好でした。耳型採取、補聴器作製上の問題点を検討、平成7年2月20日受注開始しました。
3) モニターの意見のまとめ
(1)小さくて目立たずとても良い。
(2)耳へのだし入れが楽で良い。
(3)風切り音は従来の補聴器よりかなり良い。
(4)電話の使用については使いやすい、一部の被験者で軽くだがハウリングした人がいたが、全般的にハウリングしにくく使いやすい。
(5)こもり感については、こもり感が発生したがシェルで対応できた。
などの意見がありました。5.安全性の維持
スーパーミニカナールHI-50Kは耳型採取を「その人の第2カーブの方向がわかる」までとし、奥まで採取しないようにしました。
また、「スーパーミニカナール講習会」を実施、その中で耳型採取技術等をブラッシュアップしています。受講終了者がスーパーミニカナールを扱えます。6.まとめ
スーパーミニカナールは、トランスジューサーなどの部品の小型化により実現されました。補聴器本体の大部分が外耳道に入ってしまい、フェイスプレートは外耳道入口手前に位置します。このため、補聴器は前方からはもちろん横からも耳珠に隠れて見ることが出来ないようになり、目立たない補聴器を提供できるようになりました。7.文献
1) THE HEARING JOURNAL 1994.12
2) 外耳道の計測
奥村妙子、野村恭也 1988 耳喉頭頸
3) 補聴器装用時の自分の声のこもりの解析
松浦生一、五味耿兵、朝比奈紀彦、岡本途也
4) Killion MC, Wilber LA and Gudmundsen GI:
Zwislocki was right,Hear Instrum 1:4,1988