1995/10
No.50
1. キーネーシスからエネルゲイアへ 2. ノルウェーの旅 3. インターノイズ95に参加して 4. オーダーメイド補聴器
スーパーミニカナールHI-50K
        <会議報告>
 ノルウェーの旅

所 長 山 田 一 郎

 6月にノルウェーを訪れ(ヴォス、トロンハイム)、鉄道騒音ワークショップと国際音響学会議に参加した。ここではその旅の感想と会議概要を簡単に述べる。

湖畔半のまちヴォス
 6月21日、コペンハーゲンを経由してノルウェーのべルゲンヘ飛び、そこから列車で最初の目的地ヴォスヘ向かう。荒涼とした極北の風景を想像したが、滑走路を目指して降下する機窓に映ったのは緑のリアス式海岸と其処此処に点在する瀟洒な家だった。夜となり、曇天であるにもかかわらず、辺りは明るかった。白夜である。ベルゲンはノルウェー第二の都会だが夜10時を過ぎたせいか駅は閑散としていた。切符を買おうとうろついていると声を掛けてきた青年がいる。ヴォスヘ行くのかと聞く。インターノイズで見かけた気がして自分と同じく鉄道騒音のワークショップに行くと思ったのだという。オランダ人で知らない人だったが、不慣れな列車の旅に連れができて心強かった。夜なのに一向に暗くならない中、川か海か分からないが沿って走り、切り立った崖もある。騒音も振動も問題にはなりそうになかった。深夜11時過ぎヴォスに到着。列車から降り立ったホームはそのまま外へ通じており、前には湖が静かに横たわっていた。案内板を見ると彼の宿は左手、小生は右手。明日またと別れを告げて歩き出したが、宿は駅舎の隣だった。ルームキーを受け取り、湖水に面したモーテルの一室に入る。静まり返った湖面の向こう側になだらかな山々が見える。麓の方には家が点在するが上の方は雪で白い。

鉄道騒音ワークショップ(5-IWRN)ヘの参加
 6月22日、最初の会議5-IWRNの1日目が始まる。日本を発つ前読んだ本に「こんな小さな町にもパークと名の付くホテルがある」とあった。それが会場である。朝7時過ぎに会場ヘポスター貼りに行く。本当は前夜のうちに貼るよう指示されていたものだ。8時半に参加の登録、9時には講演が始まった。昨晩の懇親パーティの効果か打ち解けた雰囲気のなか、活発な議論がどんどん展開する。ついていくのに一苦労だった。日本の参加は小生の他に神戸製鋼(田中・岩井氏)、鉄道総研(善田・櫛田氏)の計5人だった。

 6月23日、第2日目。この日は振動・固体音と環境影響の予測方法等の講演と議論が行われた。各国の予測方法を比較する講演で日本の予測方法として紹介された手順の音源の位置がおかしいという指摘があり、我々が説明を求められる情況となった。詳しい事情が分からず皆で説明したものの大変だった。この日の会議は夕方の5時で終わり、夜はバスと船を乗り継いでのフィヨルド見物だった。夕方6時に出発、夜11時過ぎ帰着。ナールオイからアウランドヘフィヨルドを船旅。壮大な風景はいくら言葉を連ねてもうまく表現できないので止める。なお、この日はノルウェーのミッドサマーのお祭りで、人々が火を燃やすのを見た。伝統の衣装を着て焚き火をして祝う習わしなのである。冬の半年暗い日が続く国で夏を迎える人々の喜びの大きさを感じた。会議場のすぐそばに1277年建立のヴォス教会があり、子供たちのブラスバンドの演奏もあった。ちなみにヴォスは湖畔の小さな町だが、第二次世界大戦でこの教会以外の全てがドイツ軍に破壊されている。

 6月24日、最終日の会議は1時間早くに始まった。この日は発生源対策や行政対策の戦略をテーマに講演と議論が行われた。夕方、総括があり、研究が進んでいるはずなのに日本からの情報が少な過ぎると指摘された。振り返ると「日本の状況や経験を説明すればいいな」と思う場面がしばしばあり、言葉の障壁を乗り越え、積極的に寄与すべきだと感じた。昼休みにフィヨルド上空を遊覧飛行した。氷河か水溜まりが青く輝いているのが印象に残った。

歴史と港の都会トロンハイム
 6月25日、ヴォスを離れ、トロンハイムヘ向かう。トロンハイムはノルウェー中部の中心都市で、中世には首都だったこともある。ベルゲンが周辺地域と合併したために、今はノルウェー第三の都市に後退したそうだ。夕方、会議への参加登録に出掛けてカナダの研究者らと会い、食事をした。日本から来たんじゃ分からないかも知れないがノルウェーは物価が高過ぎるとこぼされた。

第15回国際音響学会議(ICA95)への参加
 会議会場となったノルウェー工科大学のキャンパスは小高い丘の上にあり、ライラックが咲く中、市街と海が一望できた。会講中の天候は晴れたり曇ったりで、時に冷たい雨に見舞われた。 開会式だけは市の中心部にあるコンサートホールにおいて6月26日午前に行われた。管楽器の掛け合いで始まり、GriegのHolberg組曲演奏、バイオリンソロによる民族音楽の披露等がある中、組織委員長や市長の挨拶があった。二人の司会が交互に英独仏三か国語を操って行った説明は本当に見事であった。その後、子供達のマーチングバンドを先頭に会議場まで堂々のパレードとなった。古い跳ね橋や昔の面影を残す市街地を抜けて行われた行進は楽しかった。彼方の丘に白い建物があり、ノルウェーの国旗がたなびいていた。この日の午後にはP.V.BruelとJz L.Flanaganによる基調講演があった。耳の時定数と聴力障害、計算機の応用による音響学の発展という話題だった。夜も音響学の将来を討議する円卓会議やコンサートがあった。

 6月27〜30日に掛けて本会議が開催された。毎日午前前半に4件の全体講演があり、その後8つの会場に分かれて招待および投稿の講演発表があった。ポスターセッションもあり、一日ずつホールに展示されていた。何故かDr.P.Bruelのポスターが特別扱いで会議中ずっと展示されていた。連日夜遅くまで特別講演会や演奏会が続いた(コンピュータによる音楽の話と実演、オルガンコンサート、オーケストラと音響学の話と演奏)ことやハイキング等の懇親行事が毎日あったこと、16件もの全体講演があったことを思うとプログラムがあまりにも盛りだくさん過ぎたと思う。そのせいか、口頭発表からポスターに処されたことが現地に来て分かり慌てた人もいたし、全てのセッションに特別のテーマが掲げられていたが、必ずしも内容的にまとまりは見られなかった。白夜で暗くならないとは言え、連日、夜の8時、9時に開演する催しがあっては余程タフでないとこなせない。

 会議の最終日、全セッションが終了した後、別の施設までバスを仕立てて出向き、バンケットが開催された。シャンパンを味わった後、テーブルについて魚料理等を楽しんだ。スウェーデンのコンサルタントの隣りに座り、バカンスの過ごし方等を聞いて楽しんだ。宴たけなわの頃、次回の会議のアナウンスがあった。1998年6月20〜28日にシアトルで米国音響学会の研究発表会とジョイントで開かれるということである。全ての行事が終わり、宿に帰ると深夜だったが、相変わらずの白夜のなか、若者達が「スオミ、スオミ‥」と路上で騒いで未明までうるさかった。

 翌7月1日眠れないまま早朝に起床、用意を済ませてチェックアウト。ちょうど居合わせたカナダN.R.C.のDr.Wongに挨拶したら、彼も帰国の途につくところで、親切に彼の呼んだタクシーにバス乗り場まで同乗させてくれた。その後オスロの空港で別れるまで飛行機の中でいろいろ話を伺い、楽しかった。

第5回鉄道騒音ワークショップの概要(5-IWRN)
(1)鉄道や軌道システムに係わる騒音振動問題を議論することを目的に6月21〜24日にヴォスで開催された。会議はノルウェー国有鉄道が主催し、KILDE Akustikk a/sが事務局を務めた。参加は11ケ国66名である。事務局が参加を絞ったからである。

(2)発表件数は招待講演6、一般講演33、ポスター13だった。初日は登録と開会式、歓迎行事だけだったが、前回会議から10年近く経っており、翌日から三日間にわたって熱心に討議が重ねられた。

(3)会議は6つのセッションに分けて開かれた;(1)影響評価方法、(2)空気伝搬音の発生と伝搬、(3)振動と固体伝搬音の発生と伝搬、(4)環境影響の予測と測定の方法、(5)騒音・振動の低減、(6)騒音・振動への戦略とワークショップの総括。セッション毎にセッションリーダーと記録者が用意され、講演後に討論をして最後にまとめが述べられた。鉄道を専門とする人たちの集まりのため、どのセッションでも非常に活発に質疑応答が行われた。

第15回国際音響学会議(ICA95)の概要
(1)ICA95は6月26日〜30日ノルウェー第三の都市トロンハイムにあるノルウェー工科大学で開催された。事務局が発表した名簿では37ケ国、670名の参加があった。日本は97名で、主催国ノルウェーの82名を抜いて一位だった。以下、仏、米、独、スェーデン、英、デンマーク、ポーランドと続く。ノルウェー音響学会は会員が百数十名であり、半数近く参加した勘定になる。

(2)27日〜30日の会議では全体講演16件、円卓会議2件、一般講演401件、ポスター167件があった。27日には騒音の健康への影響に関する円卓会議、音響教育に関する円卓会議があった。一般の講演では騒音の主観評価、振動および設備診断のセッションがあった。28日には住民反応と社会調査のワークショップ、一般講演ではFEMやBEMの数値計算・騒音源・室内音響と拡散・音響教育のハードとソフト・振動騒音の可視化・音響インテンシティ等のセッションがあった。29日はタイヤ/道路騒音に関するワークショップ、音響材料・音響測定と信号処理等のセッションがあった。30日はバーチャルリアリティ・室内音場予測・高速気流の騒音低減・屋外騒音制御の全体講演があった。一般講演では地面上の音響伝搬・交通機関とVibroacoustics・室内音響 ニソフト・空力騒音・騒音制御と測定等のセッションがあった。

-先頭へ戻る-