1994/1
No.47
1. 理事長就任にあたって 2. 環境騒音をはかる-気象の影響、測定の時間や期間について- 3. インターノイズ94報告 4. 小型高性能積分形騒音計NL-05, NL-15
        <会議報告>
 インターノイズ'94報告

物理研究室 鈴 木  肇

会場となったパシフィコ横浜

 1994年のインターノイズは8月29日〜31日の3日間にわたって75年の日本開催(仙台)以来19年ぶりに横浜で行われた。会場となったのはJR桜木町駅から横浜港方向に徒歩12分、みなとみらい21地区内にあるパシフィコ横浜であった。ここは、会議センター、ホテル、国立大ホール、展示ホールからなる世界最大級のコンベンションセンターとして国際的な催し物の多くに利用されている。辺りには潮の香りが漂い、ホテル、美術館、ランドマークタワー、停泊した日本丸などが集まり、近代的なウォーターフロントの雰囲気を大いに味わえる。

 もちろんインターノイズは、国内外から優秀な研究者が参加する由緒ある国際会議であり、研究者の端くれとして参加する私もこの程度の認識はあった。しかし、今回のインターノイズが日本国内、しかも自宅から普段より少しばかり早起きをして出かければ済むということで、都内で行われる国内学会、研究会に参加するような気持ちでしかなかった。日々の忙しさにかまけて緊張感が足りなかったのかもしれない。前日から行われていたレジストレーションも当日の朝でいいだろうと考え、その朝も遅れない程度の時間に出かけていった。

 5分遅れで会場に到着すると、悪運が強いというかほとんどの人は既に受付を済ませていてレジストレーションの受付には誰も並んでいなかった。これがまた私の緊張感のなさに拍車を掛けてしまった。受付を済ませて会場内に入っていくと、まず英語のアナウンスによるオープニングセレモニーが、続いて、大阪大学の難波先生による発表が始まった。薄暗い会場の中で中央のステージが照らし出された光景は、国際会議の雰囲気を充分過ぎるほどに醸し出していた。発表を聞いていると先程の気持ちはどこへやら、しだいに何か特別な場所にいるような緊張感に包まれていく自分を感じた。この会期中に様々な講演を聞くことで、これからの騒音、振動に関する研究の将来がどのように移り変わっていくのか少しでも感じ取ろうという気持ちが湧いてきた。それから、今回のテーマである"Noise-Quantity and Quality"の意味をあれこれと考えつつテクニカルセッション会場へと足早に向かった。

 小林理研からは航空機騒音の分野で山田騒音振動第一研究室室長、牧野研究員、振動センサおよび評価の分野で横田騒音振動第二研究室室長、平尾研究員、鉄道騒音の分野で加来騒音振動第三研究室室長、広江研究員、気流音の分野で金沢物理研究室室長、遮音の分野で吉村研究員、道路の遮音壁の分野で松本研究員の総勢9名が発表者として参加した。皆、英語でのプレゼンテーションに練習を積み重ねてきており、その成果は充分発揮されていたと思う。ただ、多くの日本人参加者の発表を聞いた感想として、自分のことを棚にあげて言えば、英語での発表はなんとかできたとしても自分の気持ちを相手に伝える説得力や質問に対する英語による充分な回答が非常に良かったとは言い難いものがあった。こういった事には、やはり場馴れというか経験の積み重ねが必要で、それが自信につながるのだと実感した。そういった意味で、声が大きく堂々として、伝えたいことの情熱がこちらに伝わってくるような発表には勉強させられる点が多かった。

 テクニカルセッションは全部で44開かれており、私の印象では、鉄道、自動車、航空機の騒音防止に関する発表が非常に盛況で、会場によっては立ち見が多かったり、発表が始まってからも次々に人が流れ込んできたりと大変あわただしかった。対照的に、三日目に私が行った"数値解析とモデリング(4)"のセッションでは最初の5〜6人から徐々に減っていき、次の発表までにこの人がいなくなったら私が質問をしなくてはならないとドキドキしていたら、それが現実となってしまい覚悟えを決めていたら講演取消で胸を撫で下ろすひと幕もあった。講演取消が多いのを不思議がっていたところ、その後に分かったことであるが、特に海外の発表者には、会場で発表することよりもインターノイズの講演論文集上に発表することで良しと考える人もいるのだ(高額の渡航費のためか?)と聞いてなるほどと思った。

 私が興味を持った発表は"物理現象"セッションのコロナ効果による可聴騒音(AN:Audible Noise)の予測や、"信号処理と騒音診断"セッションのマイクロホンアレイを用いた計測についてであった。コロナ効果に関する発表では、ポーランドにおいて送電線から発生する騒音を送電圧をパラメーターに、雨量と騒音について実験値とシミュレーション結果の比較を行い、臨界電圧や音圧レベルの予測を行っていた。このコロナ効果による可聴騒音−コロナハム音−を私も直接聞いた経験を持つが、降雨の状況下では暗騒音が大きく注意して聞かないとそれとは分からないほどであった事を思い出した。国内でも同様の研究がなされており、海外の状況と比較できて大変興味深かった。

 マイクロホンアレイに関する発表では、私も同様の研究をテーマにしており見覚えのあるグラフが講演論文集に載っていたため英語でのスピーチにも抵抗なく内容に溶け込めていくような気がした。特に、対象とする音源により、幾つのマイクロホンをどのよおうな配置で構成するのか、そして、得られた信号を適切に処理するためにシステム全体をどのような構成にするのかといったことは非常に重要な課題である。この発表では、8個のマイクロホンからの信号を高速フーリエ変換し、その後、位相補正を施し、全マイクロホン出力について周波数スペクトルの加算値を求めるまでの過程での信号処理の方法に大変興味を持って聞くことができた。

 前回ベルギーで開催されたインターノイズ93では日本からの論文発表数が14%、今回は文末に示す表にあるように44%であった。今回は開催国ということもあると思うが、日本からの発表が多いのは相変わらずのようである。

 各セッションを通して、幾つかの発表は非常に興味深く聞くことができたが、それと共に英語を充分理解できない歯がゆさも大いに味わった。自分自身の研究に対する知識の少なさに加えて言葉の壁があっては、そう簡単には理解できないことが良く分かり、やはり、日頃から知識も経験も積み重ねなければならないと改めて実感した。

 会議中は往復5時間もの道のりによる疲労に加え、日中は缶詰状態のため、横浜を散策するといったお楽しみは全くなかった。しかし、私にとっては、初めてのインターノイズであり、参加者の6割以上が日本人ではあったが少しは国際的な雰囲気も味わえて有意義な日々を過ごすことができた。

 95年はアメリカのニューポートビーチ、96年はイギリスのリバプールで開催される。より多くの研究者が参加し、活発な討論が行われるよう期待すると共に、今回の反省を元に自分自身を磨き、次回は発表者として参加することを決心した。


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