1993/7
No.41
1. 満州・夏・父兄参観日 2. ISO2631の動向−全身暴露振動の評価− 3. 津村節子著
茜色の戦記(新潮社)
4. 計測震度計 SM-13
        <技術報告>
 計測震度計 SM-13

 

リオン株式会社 音測技術部1G 中 村 一 彦

1.はじめに
 日本は地震国であるといわれるように、最近では釧路沖地震や伊豆半島の群発地震などが発生しています。釧路では震度6、伊豆では震度4などと震度という尺度をよく耳にしますが、地震(専門的には地震動)による揺れの大きさを表す尺度として、震度と加速度(Gal)があり、一般的には震度で表されています。一方震源の規模を表す尺度としてマグニチュードが使われています。気象庁より発表される震度は、気象庁観測所の観測官の体感によって決められています。我々が感じた震度と気象庁発表の震度に食い違いが発生することが稀にありますが、それは発表される震度が広い地域を代表する一点の震度であり、さらに揺れの感じ方には個人差があるためです。気象庁では、迅速に正確な震度を発表する必要があり、地震動の強さを計器を用いて観測することにし、計測震度計を考案しました。

 リオンではこれまで、感震器より得られる加速度信号を用いて、(1)最大加速度を表示する最大加速度表示計、(2)加速度波形を記録する強震計、(3)設定した加速度(設定加速度レベル)を超える地震動を感知した時に警報を発する制御用地震計、(4)多点観測に用いる多チヤンネル地震計などを製品化してきました。これらは全て地震動の強さを加速度で表したもので、中には震度を表示するタイプもありましたが、これは得られた加速度をそのまま震度に対応させたものであり計測震度とは異なるものです。
 このたび気象庁の考案に基づく計測震度計を開発いたしましたので報告します。
写真1 計測震度計SM-13
 
写真2 震度表示器SZ-86
(オプション)
2.構 成
 計測震度計は図1に示すように、(1)検出部(感震器)、(2)処理部、(3)記録部、(4)入出力部、(5)表示部、(6)電源部から構成され、感震器からの加速度信号をディジタル信号に変換し、震度、最大加速度、および卓越周期(最も大きなエネルギーを有する揺れの周期)などを求める各種の演算処理を行うと同時に結果の保存や表示をし、通信回線を介してデータ伝送までも行います。
図1 計測震度計 構成図
 各部の概要を以下に示します。
2-1.検出部(感震器)
 検出部は、地震動の加速度を電気信号に変換します。
 この検出部には、正常に動作していることが確認できるようにテスト機能を備えています。
2-2.処理部
 処理部は、検出部より得られたアナログ信号をディジタル信号に変換し、DSPを用いて震度、および速度を算出し、地震であるか否かの判定をします。算出した震度、速度、最大加速度、および卓越周期などを記録部、出力部、および表示部に出力します。また、停電、復電、電源電圧の異常、および感震器ケーブルの断線などの異常検出を常時行っています。さらに、時計を内蔵しており、システム全体はこの時計に同期して動作しています。A/D変換器には遮断周波数10Hz(-3dB)のフィルタを内蔵した16ビットのものを使用し、50Hzの標本化周波数で標本化しています。処理部の構成を図2に示します。
図2 処理部構成図
2-3.記録部
 記録部は、処理部より得られた起動時刻、震度、速度、最大加速度、卓越周期、および加速度波形などのデータを電池でバックアップされたメモリーに記憶します。
2-4.入出力部
 入出力部は、処理部より得られた震度データなどをシリアルインタフェースを用いて自動的に送信したり、時刻や起動震度などを設定したり読み出したり、様々なデータ交換が可能です。また、プリンターを内蔵しており、震度データや設定状態の印字が可能です。
2-5.表示部
 表示部は、処理部より得られた時刻、震度、最大加速度、卓越周期、記録番号、起動震度を高輝度LED表示器を用いて表示します。また、スイッチの操作により、過去の地震動データ(起動時刻や震度など)の読み出しや起動震度など内部処理に必要なパラメータの設定が可能です。
2-6.電源部

 電源部は、各部に必要な電力を供給します。また、通常はAC100Vで動作しますが、不慮の停電に備え蓄電池を内蔵しています。さらに電源ラインから入り込む雑音や雷によるサインに対する保護対策がなされています。

3.計測震度とは
 計測震度とは、地震動の加速度信号に周期補正(周波数重み付け、図3参照)を施し、補正後の加速度信号の内の最大値を河角広氏が提案した式(イ)に代入し震度Iを求めます。処理の詳細な説明は煩雑になるため別の機会に譲り、ここでは割愛させていただきます。

   
 ここで、aは最大加速度(Gal)を表します。
 結果は、四捨五入して整数化します。ただし、5.5以上の場合は全てI=6とします。
図3 周期補正特性
4.開発の過程
 計測震度計の開発にあたって注意した点と他の計測器にはない地震計特有の機能について述べます。
4-1.構造
 構造として以下の二つのタイプを考え、比較しました。
 (1)検出部と処理部などとが別々の筐体に収められている分離型
  長所・システムの細分化により各部の小型、軽量化が可能である。
     ・処理部などをラックヘ収納可能である。
     ・検出部の設置場所に自由度がある。
  短所・検出部と処理部などを結ぶケーブルの断線の恐れがある。
     ・検出部と処理部などを結ぶケーブルヘのノイズの混入や誘導雷による破壊の恐れがある。
  (2)検出部と処理部などが一つの管体に収められている一体型
  長所・検出部と処理部などを結ぶケーブルの断線の恐れが非常に少ない。    
     ・検出部と処理部などを結ぶケーブルヘのノイズの混入や誘導雷による破壊の恐れがない。
  短所・設置場所が限定される場合がある。
 リオンでは、上記二つのタイプの長所と短所を検討の上、計測震度計において最も必要なのは、如何なる状況においても信頼性の高いデータを観測し、出力することであるという観点から(2)の一体化タイプを採用し、堅牢な構造にして大地震時にも測定可能なようにしました。
4-2.動作点検および異常検出
 計測震度計は、故障によって、地震がないのに震度出力を行うことや、実際より大きな震度を出力するといった誤動作をして社会に混乱を起こさないために、各種の異常検出を行っています。例えば、各回路に供給される電源を常時監視し、誤動作の防止や機器の安全性に注意しています。また、正確な震度を算出するために、正常に動作しているか杏かを確認できるように感震器を含めた総合動作チェック機能があります。
4-3.電源部
 地震計は、振動計や分析器などと異なり、電源事情の悪い地域や落雷の多い地域など様々な所に設置されるため特別な配慮がなされています。例えば、ノイズカットトランスを使用することで、電源ラインより混入するノイズを除去するだけでなく、落雷に対しても誤動作や故障を生じないようにしています。また、落雷や地震によって発生する停電時にも動作可能なように蓄電池を内蔵し、2時間の停電補償能力を備えています。蓄電池の寿命は通常3年ですが、使用方法によって縮むため、性能を劣化させないような充電回路を採用し、過放電防止検出回路(電池容量が低下した場合放電を中止する)を内蔵しています。これらの処理を怠ると蓄電池の寿命を縮めるだけでなく、過充電による電池の破壊や過放電による電池性能の低下により停電補償時間までも短縮され地震時に動作不能になる恐れがあります。

4-4.処理部
 地震動に含まれる周波数成分は比較的低い部分が多く、処理はそれ程高速である必要はないと考えられますが、体感に合わせるための補正手段を、フーリエ変換とその逆変換といったディジタル信号処理に委ねることを考えると、通常のマイクロプロセッサでは容易でありません。そこでディジタル信号処理の部分はそのために開発されたLSI(DSP)を採用し、装置全体の制御を司るマイクロプロセッサを助ける構成としました。その結果、一秒毎に震度を算出し、起動時に内部で処理された震度を使用することが可能となり、計測震度計としての必要かつ十分な機能と性能とが実現できました。

5.保守点検
 地震は、何時発生するか予測が困難で、その上無人観測を行うことが多いだけに、常に最良な状態に観測体制を整えておく必要があります。その状態を維持し、地震発生時に正確な展度を得るために、地震動感知時の動作、停電時の動作、時刻の校正、蓄電池の使用年数や容量の確認、感震器を含めた総合動作チェックなどの保守点検が定期的(最低一年に一回)に必要になります。

6.おわりに
 この計測震度計は、主に気象庁で使用されていますが、今後は各地方自治体などでも使用されることが予想され、高密度な震度観測網の構築が可能になると考えられます。
 また今後の動向として、現在震度を整数で表していますが、同じ震度で表される揺れの範囲が大きく、(イ)式を見ても解るように震度の増大に比例してこの傾向は顕著になります。そのため小数点以下第一位までの震度の発表が要求されることも考えられます。それによって制御用地震計の分野にもこの計測震度が進出し、制御用震度計なるものが現れることも考えられます。

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