1991/4
No.32
1. 騒音問題と土地利用
2. 炭素型送話器(カーボン・マイクロホン) 3. 斜め入射吸音率で得られた吸音パネルの特性 4. インピーダンスオージオメーターRS-32
        <技術報告>
 インピーダンスオージオメーターRS‐32

リオン株式会社 聴能技術部 4G 杉 本 正 巳

1.はじめに
 聴覚の検査法としては、オージオメーターを用いた純音域値検査がよく知られています。これは、簡単にいえばどの程度小さな音を聞くことができるかを調べる検査です。聴覚検査の方法には、その他様々な検査法がありますが、その中にインピーダンスオージオメトリーと総称される検査法があります。

 インピーダンスオージオメトリーは、中耳の音響インピーダンスの測定を応用した検査方法で、大きく分けて、チンパノメトリー、耳小骨筋反射検査(レフレックス検査)、の2種類の検査法から成り立っています。チンパノメトリーは、鼓膜や耳小骨の可動性や中耳腔の状態を調べるもので、具体的には中耳伝音障害の鑑別診断に用いられます。耳小骨筋反射検査は、他覚的聴力検査としての難聴の鑑別診断のほか、顔面神経麻痺などの検査法としても利用されます。

写真 インピーダンスオージオメータ RS-32

2.耳の構造と機能
 音の伝わり方の模式図を図1に、耳の構造図を図2に示します。外耳道を伝搬してきた音は、鼓膜にあたり、一部は反射され、一部は吸収されて機械振動に変換され耳小骨を通じ内耳に伝えられます。内耳に伝えられた機械振動は内耳リンパ液を振動させ、この振動が有毛細胞で電気信号に変換され、聴神経を経由して脳に伝えられます。

図1 音の伝わり方の模式図
図2 耳の構造図

 鼓膜は、外耳道と中耳腔との境界に張られており、外耳道と中耳腔の圧力に差があると、鼓膜の可動性は低下します。耳管は中耳控と上咽頭をつなぐ管で、常には閉じていますが、中耳腔圧の調整をする機能を持っています。
 耳小骨は、つち骨、きぬた骨、あぶみ骨からなり、つち骨には鼓膜張筋、あぶみ骨にはあぶみ骨筋がつながっています。一般に音響刺激に対しては、あぶみ骨筋が収縮し、耳小骨連鎖のインピーダンスを増加させ、過大な音が内耳に伝わらないようにします。これを音響性耳小骨筋反射と呼びます。この反射経路を図3に示します。図3からもわかるように、片方の耳への刺激であっても音響性耳小骨筋反射は両方の耳に起こります。

図3 耳小骨筋反射の反射経路

3.装置の構造と性能
 インピーダンスオージオメーターRS-32は、図4のブロックダイアグラムにしめすように、マイクロホン、イヤホンを組み込んだプローブ、音響インピーダンスを測定するインピーダンス部、外耳道圧力をコントロールする圧力コントロール部、耳小骨反射検査用の音刺激部、マイクロプロセッサを中心とした測定・表示コントロール部、波形モニター、プリンターから構成されています。

図4 ブロックダイヤグラム

 中耳の音響インピーダンスは、外耳道に挿入されたプローブから放射したプローブ音と鼓膜からの反射音との比から求めます。プローブ音の周波数は、耳小骨の質量の影響を無視でき、また1mlの容積の音響インピーダンスが1kΩとなる、226Hzとしています。プローブ音発生器で発生したプローブ音信号は、プローブ音レベル調整器、パワーアンプを通してプローブ内のイヤホンに供給されます。鼓膜からの反射音はプローブ内のマイクロホンで電気信号に変換されマイクアンプで増幅された後フィルターに入力されます。フィルターは、中心周波数226Hzのバンドパスフィルターで、耳小骨筋反射検査の際の刺激音及び外来騒音をカットします。フィルター出力は整流され比較器で一定電圧と比較しその出力でプローブ音レベル調整器をコントロールし、外耳道内のプローブ音が常に85dBSPLになるようにしています。したがって、中耳の音響インピーダンスはプローブ音レベル調整器のコントロール電圧に反映されます。音響インピーダンスの表現は、メーカーにより異なりますが、一般には、音響インピーダンスを大気の容積で置き換えた等価容積表示が用いられており、本器も等価容量(ml)にて表示しています。

 圧力コントロール部は、加圧、減圧用の2個の電磁ポンプ、半導体圧力センサーよりなり、ビニールチューブにより、プローブを介して外耳道の圧力をコントロールします。圧力可変範囲は、大気圧に対し+200daPa〜-400dapaです。

 音刺激部は、刺激音発生器、刺激音レベル可変器、パワーアンプよりなり、500Hz、1000Hz、及び2000Hzの純音を出力します。この出力は、出力切り替え器により、プローブ内の同側刺激音用イヤホン、またはプローブを挿入していない耳(対側耳)の刺激用受話器に供給されます。刺激音の出力レベルは、同側刺激音は、80、90、100、110dBSPL、対側刺激音は、80、90、110dBHLです。

4.検査
 本器は、検査項目ごとに独立した、チンパノメトリー、レフレックス、チンパノ/レフレックスの検査項目選択スイッチがあり、スイッチ一つで検査を開始する準備が整います。検査の開始方法は、自動/手動が選択できます。自動を選択した場合、プローブを耳に挿入するだけで検査が開始されます。手動を選択した場合は、プローブを挿入しスタートスイッチを押すことにより検査がスタートします。正確な結果を得たい場合は手動スタートを、簡便に多くの検査を行いたい場合は自動スタートを用います。

 チンパノメトリーは、圧力を変化させながら圧力に対する中耳音響インピーダンスの変化を測定する検査で、グラフ化された検査結果をチンパノグラムと呼びます。 チンパノグラムは、音響インピーダンスを等価容積で現した場合、一般には上に凸の山形となります。最も大きな等価容積と+200daPaの際の等価容積との差をスタティックコンプライアンスと呼びます。チンパノグラムは、スタティックコンプライアンスと、ピークの位置で型分けされています。ピークの位置が、0daPa近辺(-100daPa以上)、スタティクコンプライアンスが概ね0.2〜1.0mlのものをA型、ピーク位置が著しく陰圧側ものをC型、ピークの無いものはB型と呼びます。正常耳はA型を示します。C型は、中耳腔が陰圧になっていることを表し、一定時間持続した耳管閉塞症等が疑われます。B型は、鼓膜そのものの動きが悪い場合と、中耳に障害がある場合が考えられますが、後者の場合浸出性中耳炎や鼓室硬化症等が疑われます。

 レフレックス検査は、刺激音を加えたときの音響性耳小骨筋反射による中耳音響インピーダンスの変化を測定するものです。検査は鼓膜の可動性の最も良い所で行ないますので、本器では、チンパノグラム上のピーク圧に外耳道圧力を自動的に調整します。その上で、指定された刺激音を80dBから10dBステップで与え、刺激期間と非刺激期間の等価容積の差を表示します。インピーダンスが上がるということは、等価容積が小さくなることですから、測定結果の表示では、反射反応は下向きに表示されます。

 本器のレフレックス検査は、顔面神経麻痺、難聴の種類の鑑別等の診断に利用することができます。

図5 チンパノグラムの一例
図6 レフレックス検査結果の一例

5.おわりに
 以上、インピーダンスオージオメーターRS-32について報告いたしました。インピーダンスオージオメーターは中耳の疾患を他覚的に検査でき、有用な診断情報を得ることができる検査機器としてかなり普及しています。しかし、チンパノグラムから得られる情報だけでは、まだ不十分なものがあり、今後さらに多くの情報を提供できる検査方法の研究開発が求められています。

 なお、インピーダンスオージオメーターRS-32は、現在のところ薬事法未承認品であり、販売、譲渡できないことを付記いたします。

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