1991/4
No.32
1. 騒音問題と土地利用
2. 炭素型送話器(カーボン・マイクロホン) 3. 斜め入射吸音率で得られた吸音パネルの特性 4. インピーダンスオージオメーターRS-32
        <研究紹介>
 斜め入射吸音率で得られた吸音パネルの特性

騒音振動第三研究室 木 村 和 則

1.吸音率とは
 ある面に音が入射した時の入射パワーに対して、反射されなかった音のパワーの割合を吸収率という。一般に吸音率というと残響室法吸音率(ランダム入射吸音率)を指す。残響室法吸音率とは、材料面に対してすべての方向から等しい確率で音が入射するときの吸音率を指し、室内音響のような用途に用いられる吸音材については残響室法吸音率を用いて評価するのが妥当である。しかし、吸音率は音の入射角度によって変わる。音の入射条件としてはランダム入射以外に2種類が考えられ、それぞれに対応する吸音率が与えられている。音が垂直に入射したときの吸音率を垂直入射吸音率、材料面の法線に対してある角度で入射したときの吸音率を斜め入射吸音率という。したがって、吸音材を評価する方法も用途によって3種類のなかから選択する必要がある。例えば、高架道路裏面反射音の吸音対策に用いられている裏面吸音板である。裏面吸音板に用いられている吸音材はグラスウール50mm厚から100mm厚である。グラスウール50mm厚単体の残響室法吸音率は、道路交通騒音における主要周波数帯域である500Hz付近では1.0以上を示している(図3参照)。つまり、入射した音は全て吸音してしまうことである。しかし、入射した音は全て吸音してしまうということである。しかし、このグラスウールを用いた裏面吸音板を現場に設置しても高架裏面吸音板からの反射音を聴くことができる。つまり、音の到来方向がきまっている高架道路用裏面反射板の評価は残響室法吸音率では不十分であり、現場での騒音性状と類似した斜め入射吸音率を用いて評価することが妥当であると考える。そこで、斜め入射吸音率の測定を試みた。

2.斜め入射吸音率の測定方法
 残響室法吸音率および垂直入射率の測定方法はJISで規定されている。しかし、斜め入射吸音率についてはJISでの規定がない。そこで今回は、信号圧縮法および複素音響インテンシティー法を用いて測定を実施した。
2.1 信号圧縮法
 信号圧縮法とは、通称、青島パルスといわれる試験信号を音源に用いる測定方法である。図1に試験信号を示す。また、図2に試験信号を後処理し圧縮したパルス信号を示す。青島パルスを用いることにより、スイープ信号に近い波形をスピーカーから放射して反射音を収録し、後処理により継続時間の短いパルス的な信号の波形が得られる。
 信号圧縮法には、次に示す特徴がある。
  a)ノイズの多い環境下においてS/Nを大幅に改善できる。
  b)インパルス応答が時間的に分離できる幾つかの成分からなるときにはその各成分についてのスペクトルなどを調べることができる。
 これらのことより、斜め入射吸音率を計算する過程において、得られたパルス波形の中から試料からの反射音だけを抽出し分析することが容易になる。

図1 測定に用いた試験信号
 
図2 後処理により得られたパルス信号

2.2 複素音響インテンシティー法
 音響インテンシティーすなわち音の強さとは、"ある点において、音波の進行方向に垂直な単位面積を単位時間に通過する音響エネルギー"と定義されている。音響インテンシティー法を用いることにより、音響的パワーの流れの方向を知ることができる。複素音響インテンシティー法は、この方法を複素数領域に拡張し、斜め入射吸音率を得る方法である。
 複素音響インテンシティー法を用いて斜め入射吸音率を測定する場合には、音の入射角と同じ角度で反射することが前提となっている。つまり、試料が鏡面反射することがこの測定方法を使用できる前提となっており、測定することができる試料は制限される。

3.斜め入射吸音率の測定結果の検証
 垂直入射吸音率を用いて斜め入射吸音率の測定結果の検証を行ってみた。垂直入射吸音率の測定は、JIS‐A‐1404に定める定在波法によって実施した。垂直入射吸音率は、斜め入射吸音率の0°と音の入射方向は一致している。そのために、垂直入射吸音率と斜め入射吸音率の0°の測定結果が一致する必要がある。調査は、グラスウール50mm厚、32kg/m3を用いた。調査結果を図3に示す。調査より、垂直入射吸音率と斜め入射吸音率(入射角度0°)とはほぼ一致した値が得られた。

図3  各種吸音率の測定結果
(尚、斜め入射吸音率は入射角度0°の結果)
測定資料:グラスウール50mm厚、32kg/m
3
 
図4  斜め入射吸音率の測定結果
測定資料:吸音パネル(グラスウール100mm厚、
       エクスパンドメタル [開孔率:70%]

 ここで、同じグラスウールを用いて残響室法吸音率の測定を実施した。この調査結果からわかるように、残響室法吸音率と他の吸音率とでは大きな差がみられる。これは前にも述べたように、音の入射条件の違いによる差であると考えられる。また、残響室法吸音率では、中心部の吸音率よりも周辺の吸音率が大きくなるという周辺効果による吸音率の上昇も考えられる。

4.斜め入射吸音率の測定例
 信号圧縮法を用いて、グラスウール100mm厚(背後空気層なし)の吸音パネルの斜め入射吸音率の調査を行った。調査は表面材の異なる2種類の遮音板を用いて実施した。図4および図5に、0°から60°までの15°間隔で得られた斜め入射吸音率の平均値および最大値、最小値を示す。エクスパンドメタル(開孔率70%)の方がパンチングメタル(開孔率30%)より道路交通騒音の主要周波数である500Hz〜1kHzで良い吸音率を示している。つまり、斜め入射吸音率を用いた評価では、表面材の開孔率が大きな吸音パネルの方が大きな吸音効果があることがわかる。

図5 
斜め入射吸音率の測定結果
測定資料:吸音パネル(グラスウール100mm厚、
       パンチングメタル [ 開孔率:30% ]

5.まとめ
 斜め入射吸音率を用いて吸音パネルの評価を試みた。その結果、斜め入射吸音率は開孔率が大きいほうが吸音率が良いことが判明した。
 また、入射条件の異なる3種類の吸音率測定を実施してみた。この結果、残響室法吸音率は、垂直入射吸音率および斜め入射吸音率と比べて異なった吸音率を示した。

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