1990/1
No.27
1. 温故知新 2. NCB曲線(Balanced Noise Criterion Curves)の応用 3. 蝋管式蓄音機 Edison Standard Phonograph 1903 4. 音響測定器に関する規格の動向 5. ディジアナ表示で小型軽量な新世代の振動レベル計VM-51
       <技術報告>
 ディジアナ表示で小型軽量な新世代の振動レベル計VM-51

リオン株式会社 音測技術部 宮 崎 伸 二

1. はじめに
 VM-51は、軽量法、JIS C 1510に適合する振動レベル計で、軽量法による形式承認番号は、第W891号です。  
 VM-51は、当社従来製品VM-12B、VM-14B、VM-16の3機種の統合発展型の新製品です。
 VM-51は、人体の振動感覚を加味した鉛直、水平方向の振動レベルのほかに、物理量である振動加速度レベルを測定することができます。また、別売の座席振動用ピックアップPV-62およびチャージアンプXF-65Aを併用すると、座席振動の測定を行なうことができます。
 地面の振動は、主として道路交通、鉄道、工場機械、建設作業等によって発生し、建物の基礎部を経て床を励振するので、わずかな振動であっても居住者の生活および精密作業に影響を及ぼすことが多く、近年、振動に敏感な機器が増えてきたため、いままで問題にならなかった微小な振動を測定評価しなければならない状況も発生しています。
 従来、公害振動では鉛直振動だけが、規制の対象とされ計測されてきましたが、近年いろいろな形で問題になることの多い建物内の振動では、鉛直振動の評価だけでは不十分であり、水平振動に対しても十分な注意を払う必要があります。
 建物内の振動については、IS0およびANSIにおいて評価方法の規定があります。この評価にも振動レベル計が利用できます。(JISとISOとでは、基準加速度が異なるので注意が必要です。JISでは、基準加速度は、10-5m/s2で、ISOでは10-6m/s2です。JISに較べてISOでは、測定値が20dB大きくなります。)
 このような状況のなかで、今日の要請である
(1)小型軽量化
(2)ディジタル化
(3)高精度化
 に応える新世代の振動レベル計VM-51の概要を紹介します。

2. 振動レベル、振動加速度レベルの表記について
 従来、振動レベル(Vibration Level)を『VL』、振動加速度レベル(Vibration Acceleration Level)を『VAL』と略記記号で表記することが通例となっていました。
 しかし、国内外の規格等では略記号で表記する例はなく、量記号で表記することが一般的になっています。
 振動レベルの量記号については規定はありませんが〔JIS B 4900手持動力工具の工具振動レベル測定方法〕の解説には述べられています。この解説では、レベルを示すLに振動を示すvを添字として付け、加速度はαを付記して量記号とするとしています。
 従って、VM-51では国内外の表記に関する規定を考慮して、振動レベルを『LV』、振動加速度レベルを『LVA』と表記し、本稿でも同じ記号を用います。

3. VM-51の特長
 VM-51は、いたずらに多機能を求めるのでなく、充実した基本性能(広い測定範囲、真の実効値検波回路、3方向同時交流出力)と、使いやすさ(小型・軽量、長時間の電池動作)を主要課題として設計された振動レベル計です。
 図1に外観写真、図2にブロック図、図3に最低測定レンジにおける自己雑音レベルの1/3オクターブ分析値を示します。

図1 振動レベル計 VM-51型
図2 振動レベル計(VM-51)ブロック図
 
図3 自己雑音の1/3オクターブ分析

 以下にVM-51の特長を述べます。
(1) 特許による3方向型ピックアップ、防滴構造
 せん断型大出力圧電式加速度ピックアップと前置増幅器を3組内蔵しています。せん断型圧電式ピックアップは、小型軽量、高感度、パイロ雑音が非常に小さいという特長があり、低周波、低加速度レベルの測定に適しています。取り扱いが容易なことも圧電型加速度ピックアップの長所です。ピックアップの設置については、10度程度の傾きでは測定値にはほとんど影響がなく特別の配慮は不用です。
 前置増幅器を内蔵していることにより、ピックアップと本体との間を100mまで延長して測定することができます。
 また防滴構造(JIS C 0920)であるため測定途中の雨や悪条件の現場での測定も可能です。
(2) 振動規制法による測定方法に対応
 振動規制法に定められた"指示値が不規則かつ大幅に変動する場合"の測定のために5秒おきに点灯するインジケータ、また"指示値が周期的又は間欠的に変動する場合"の測定のために最大レベルホールド機能を持っています。
(3) スイッチの操作だけで、3方向の測定
 VM-51は、指示計器、実効値検波回路は1組ですが、増幅器は3組内蔵しているので、スイッチの操作だけで3方向(水平2方向+垂直)の振動を測定することができます。また、ピックアップが3方向型なので、測定方向を変えてもピックアップの再設置は不用です。
(4) 30dB幅のワイドレンジ・メータとディジタル表示
 VM-51は、ワイドレンジ型メータ(30dB幅のdB等間隔目盛)とオーバーロード表示機能の採用により、大幅に変動する振動についても正確かつ容易に読み取ることができ、また変動のようすがわかります。
 オーバーロード表示は、X,Y,Zそれぞれ独立に検出し、発光ダイオードの点灯で知らせます。オーバーロード表示が点灯するのは、メータのフルスケールから+15dB以上です。
 ディジタル表示は、メータ内に配置された液晶ディスプレイによります。表示内容は、1秒又は2.5秒ごとの瞬時値や最大値のほかに、振動方向(X,Y,Z)、オーバーロード、電池電圧、レベルレンジ、ファンクション、5秒インジケータ等です。これによりメータから目を離すことなしに各スイッチの設定状態を把握することができます。
 液晶ディスプレイは、バックライト付なので暗い場所・夜間の測定においても鮮明な表示で読み取りが容易です。従来の液晶ディスプレイの欠点(すこし暗くなるだけで読めなくなる)を克服しました。図4に液晶ディスプレイの表示内容を示します。

図4 液晶ディスプレイの表示内容

(5) 3方向同時交流出力
 交流出力は、3方向の信号が同時に出力されているため、データレコーダ、レベルレコーダを併用すると3方向同時測定ができます。このような測定では、VM-51は3チャンネル振動レベル計として機能します。
 鉛直振動だけでなく水平振動も測定する機会の増えている今日、3方向同時のデータが得られることは、大きなメリットです。
 VM-51は、3方向同時交流出力を持っているので、レベル合成器XE-82を用いることにより、ISOで提案されている同時に起こる複数の振動のベクトル合成による評価を行なうことができます。
 交流出力のダイナミックレンジは、75dBです。上限は、メータのフルスケールから+15dB、下限はメーターフルスケールから−60dBです。
(6) プリンタの接続が可能
 オプションのプリンタCP-10(電池動作可)を接続すれば、5秒毎の瞬時値が印字できます。測定値だけでなくファンクション、振動方向(X,Y,Z)、オーバー・アンダー表示、最大値ホールド表示が印字されます。印字例を図5に示します。

図5 プリンタによる印字例

(7) RS-232Cインタフェース内臓
 測定値はインタフェース経由でコンピュータに読み込むことができます。また、コンピュータからのリモート・コントロールで、レンジやファンクションの切換えができるので自動計測・無人計測が可能です。ハンドヘルド・コンピュータを併用すれば、現場でデータ処理まで行なうことができます。Lx演算の例を図6に示します。

図6 自動計測および
データ処理(Lx演算)例
(8) 真の実効値検波
 実効値検波回路は、真の実効値(True RMS)を検出します。このため大きな波高率(クレストファクタ)をもつ波形や単位値バースト信号に対しても高い精度で実効値変換を行なうことができます。実効値検波特性の違いについてVM-51(真の実効値)とVM-14B(当社従来製品)を比較し、図7、図8に示します。
図7 実効値検波回路の応答(単一バースト信号)
 
図8 実効値検波回路の応答(クレストファクター)

(9) 広い測定範囲
 VM-51の測定範囲は、30〜120dBです。微小振動である30dBからの測定ができるので、精密機器の許容振動の評価に使用することもできます。
(10) 小型・軽量
 チップ部品、表面実装部品を使用した高密度実装の採用により、VM-51は画期的に軽量小型化されました。  
 1チャンネル振動レベル計として、VM-14Bと比べると、VM-51は、重量比で38%、体積比で44%しかなく、従来製品の1/2以下の大きさです。
 3チャンネル振動レベル計として、VM-16と比べると、VM-51は、重量比で14%、体積比で9%で、従来製品の1/7〜1/10の大きさです。
(11) 長時間の電池動作
 VM-51は、単二形乾電池4本で動作します。電池動作の連続使用時間は、マンガン乾電池にて約20時間、アルカリ乾電池では約36時間です。また、オプションのACアダプタを使用すれば交流100Vで動作させることができます。
 VM-51は、電池電圧を4点バーグラフで液晶ディスプレイに常時表示しているので、測定を中断することなく電池電圧チェックを行なうことができます。この機能は、電池動作での長時間測定に非常に有効です。

4. まとめ
 多様な測定目的、環境あるいは振動の性質に対応できるように、多くの機能を持った振動レベル計VM-51型を紹介しました。更に豊富な周辺機器により、本器の性能をシステムアップすることができます。
 本器の開発にあたって、小林理学研究所の多くの方々の助言を頂きました。  ここに深謝いたします。

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