1990/1
No.27
1. 温故知新 2. NCB曲線(Balanced Noise Criterion Curves)の応用 3. 蝋管式蓄音機 Edison Standard Phonograph 1903 4. 音響測定器に関する規格の動向 5. ディジアナ表示で小型軽量な新世代の振動レベル計VM-51
      
 NCB曲線(Balanced Noise Criterion Curves)の応用

理事長 五 十 嵐 寿 一

はしがき
 前号に新刊書としてL.L.Beranekの'Noise and Vibration Control'(1988)を紹介し、その中でNCB曲線の提案について触れたが(1)、最近J.A.S.A. (米国音響学会誌)(2)及びNoise Control Eng.(3)にその詳細な論文が発表されたので、新しい評価曲線に至る経過とその適用方法について述べる。

1. 概 要
 各種の騒音について、その周波数スペクトルに注目した評価の方法として、1950年代からBeranek等によってNC曲線(Noise Criterion Curves)(4)、SC曲線(Speech Communication Curves)(5)あるいはPNC曲線(Preferred Noise Criterion Curves)(6)等が提案されこれまで広く使用されてきたが、最近Beranekは、音のラウドネスに関するStevensのMark7(7)に基づいてこれらを改良したNCB曲線を提案した。いずれも会話に対する影響を考慮した、SIL(Speech Interference Level)に基礎をおいた評価曲線である。今回の新しい評価方法は特に苦情の原因となる低音における'Rumble'に対する評価のために周波数範囲を16Hzまで拡張し低周波音の影響を考慮したこと、さらに高音領域における'Hiss'(耳障りな高音)の検出方法も含め、周波数全域にわたって音のバランスがとれるように配慮してある。ついでこのNCB曲線を実際に利用する場合の適用方法としていくつかの例を説明している。

2. 従来の評価曲線とNCB曲線
 NCまたはSC曲線は、600〜4,800Hzの周波数範囲における3つのオクターブバンドの平均レベルで定義されたSILに基づき、NC-40,SC-50等と表示し、周波数範囲は75Hz〜9,600Hzである。その後低音域及び高音域の評価をややきびしくしたPNC曲線が提案された(1971)。ここではオクターブバンドが1kHzを中心周波数とした系列に変更されたことも受けて、SILとして中心周波数500,1k,2kHzの3つのオクターブバンドに変更された。その後Blazier(8)は、ASHRAE(American Society of Heating, Reffragerating and Air-conditioning Engineer)における、HVAC(Heating, Ventiraing and Air-Conditioning)の騒音の測定結果に基づいて別にRC曲線を提案した。この他、ISOにおいても、ISO R 1996 (1971)(9)の付図としてNR(Noise Rating)曲線を提案しているが、これは周波数範囲を中心周波数で31.5〜8,000Hzとし、NC曲線に比べて勾配がやや急な周波数特性を有している。
 ここに提案されたNCB曲線は、
(1)ANSI(American National Standard Institute)の規格に定めるSILが、500k,1k,2k,4kHzの4つのバンドの平均に変更されたので、その数値を曲線の評価数とする。
(2)周波数範囲を低音の16Hzまで拡張し、中心周波数16〜8,000Hzの騒音に対して計算されたオクターブバンドのラウドネスレベルが臨界周波数帯域幅を考慮して均衡がとれていること、
(3)ラウドネスレベル(Phon)とSIL(dB)差が24 Unitsをこえないこと、
(4)PNC,RC曲線による空調騒音の評価は特に低音において必要以上にきびしく設定されているので実用上の観点から修正を加えたこと、
(5)NCB曲線は周波数範囲を16Hzまでとし、居住環境において空調等の低音の成分によって軽量構造の天井、壁、窓等が加振され'Rumble'の現象が発生して苦情の原因になることが多いことから、これらの、評価方法を追加した。さらに高音対策として、'Hiss'の評価方法を加え、周波数全域にわたって平均された音環境になるように考慮することとした。
(6) NC曲線等は測定された騒音について、オクターブハンドレベルの最大値とNCの数値を比較することになっていたが、NCB曲線による新しい、評価方法は、騒音のSIL値を算出して望ましい推奨値と比較し、これを満足しているときにはさらに低周波音(1kHz以下)および高周波音(1kHz以下)について改めて吟味するようになっている。
 NCB曲線は図1、そのバンドレベルの数値はTable 1である。図に示す低域のAはこの範囲の成分によって振動の発生が明瞭に認識される領域、Bはそれが判別される範囲であるとしている(それぞれTable 1の( )及び*)。尚、NCB曲線の適用範囲として、定常的な連続騒音で、間欠音や明瞭な特異音を含む騒音は除くことにしている。(注:ISO R1996のNR曲線については間欠音、衝撃音、純音性特異音については、適当な補正をしてもよいことになっている。現在のISO1996では削除されている)。

図1 NCB曲線(Beranek)
 
Table 1. NCB Criterion

3. OccupiedとUnoccupied空間
 一般の居住空間においては日常の活動が行われ、この中で会話が十分可能であることが必要である。そのためにはその空間で発生している当事者以外の音源による騒音について考慮する必要がある。これが'Occupied'空間である。'Unoccupied'空間はこれらの活動による騒音を除いた場合で、空調による騒音だけは含めてある。
 一方、評価の対象となる空間として、種々の人間活動、それに必要な様々な機械(例えば、タイプライター、事務機械等)は環境によって異なるので、活動の場所毎に推奨されるNCB曲線の数値とそれに対応するA特性騒音レベルがTable 2のように示されている。ここで許容値の下限は充分に会話が可能な環境であり、音楽を聞く際にも満足な限度と考えられる。また、上限は騒音に対してとりわけ敏感でない人には受け入れられるレベルで、経済的な考慮も必要な場合に適用される。

Table 2. NCB Curvesの適用

4. 応用例
 図2は大きな事務所における騒音のスペクトルで、NCB-40を目標とする場合とする。ここでSIL=38.5dBであるから目標に適合しているが、低音成分について考察する。ASHRAEの資料によれば、空調機械の騒音についての評価結果として500Hzの成分が、SIL値より7.5dB(8dBとする)大きい場合に許容される。Table 1から500HzのハンドレベルはSILの数値に比べて5dB大きいので、低音領域については、+3dB(8-5=3)まで許容されるとして、SIL=38+3=42dBの曲線を図2に、NCB=YY=42dBとして示す。この場合の騒音については、このYYを超過した成分についての対策が必要になる。なお31.5HzはB領域の下限になるので'Rumble'の可能性もあることがわかる。なお軽微な'Rumble'が認められる場合、電気的にスピーカーから500〜4,000Hzの音を加えることによって低音に対する不快感が減少し、満足な結果の得られることが図2の例について示されているとしている。

図2 Rumbleの検出

 次に別の例でHissの検討をする。SIL及びRumbleのテストに適合している場合のHissについては、図3のように騒音スペクトルの125,250,500Hzに最も近いSIL曲線NCB=34を描き、1kHz以上でNCB=34dBを越えている成分についての対策が必要である。

図3 Hissの検出

自動車の車内騒音の例
 図4と図5は米国車両(1987)の普通車と高級車について、粗いコンクリート道路と平滑な道路をそれぞれ56Km/hと88.5Km/hで走行した場合の騒音スペクトルである。前者では、SILがそれぞれ45,40dBで高級車のSILは一般の事務所並みの騒音なので会話に支障はないが、小型車では会話のために声を張りあげる必要がある。また低音におけるRumbleについては図中にバンド毎の超過レベルとして示してある。図5で平滑道路、高速の場合は騒音レベルが大きくなり、SILとしてそれぞれ50,47dBであるがRumbleは認められない。小型車内での会話では大声が必要で、一方高級車の場合はすこし張り上げた声が必要である。この場合の騒音は主として空気流によるものである。

図4 粗いコンクリート道路を走行する自動車騒音
 
図5 平滑道路の場合(自動車)

5. 文 献
(1) L.L.Beranek : Noise and Vibration Control. Revised Edition. INCE USA (1988)
(2) L.L.Beranek : Balanced Noise Criterion (NCB) Curves. J.A.S.A. 86(2) (1989) p.650-664
(3) L.L.Beranek : Application of NCB Noise Criterion Curves. Noise Control Eng. 33(2) (1989) p.45-56
(4) L.L.Beranek : Revised Criteria for Noise Control in Buildings.
   Noise Control 3(1957) p.19-27
(5) L.L.Beranek : Acoustics, Mac Graw-Hill Co.(1954) P.428
(6) L.L.Beranek, W.E.Blazier & J.J.Figwer :
   Prefered Noise Criteria (PNC) Curves and their Application to Rooms.
   J.A.S.A.50(1971)p.1223-1228
(7) S.S.Stevens : Perceived Level of Noise by Mark 7 and Decibels(E')
   J.A.S.A. 51 (1972) p.575-599
(8) W.E.Blazier Jr. : Revised Noise Criteria for Application in the Acoustical Design and Rating of HVAC Systems.
   Noise Control Eng. 16 (1981) p.64-73
(9) ISO R 1966 : Assessment of Noise with Respect to Community Response. (1971)

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