1990/1
No.27
1. 温故知新 2. NCB曲線(Balanced Noise Criterion Curves)の応用 3. 蝋管式蓄音機 Edison Standard Phonograph 1903 4. 音響測定器に関する規格の動向 5. ディジアナ表示で小型軽量な新世代の振動レベル計VM-51
       <実験室紹介>
 改装された床衝撃音実験室と床衝撃音改善量の測定

騒音振動第一研究室 落 合 博 明

 最近、新築のアパートやマンションの不動産広告で、床を木質フローリングで仕上げた部屋を設ける事例が多く見られ、人気も高いようです。また、『絨緞敷きから簡単に木質フローリング床に改装できます』を謳い文句にした、リフォームの広告も多く目にします。
 この木質フローリングの要求は、新聞、テレビで一時大きく取り上げられた、絨緞に生息するダニの発生に対する防止策であることや、木の感触の良さ、生活様式の多様化など、これからもますます増える傾向にあると思われます。
 しかし、これまで表面が柔らかい絨緞であることで吸収されていた衝撃音が、木質フローリング床のような堅い仕上げになることで吸収されなければ、階下への騒音が大きくなることは明らかで、現実にこの床衝撃音レベルが問題となり、トラブルが発生している例も多いようです。
 現在、床材の各メーカーでも、この木の特質を損わずに、且つ床衝撃音レベルを低く押さえられるよう、床仕上げ材の開発が盛んに行なわれております。
 当所でも、昭和50年頃より、床の表面仕上げ材による床衝撃音レベルの低減効果の実験を各種行なってまいりましたが、最近の実験依頼の増加および多様化に対応できるよう、床衝撃音実験室の改装を実施いたしました。
 実験室の仕様は下に示す通りです。
 新しい実験室は、床面積が広くなると共に、音源室への出入を内階段から外階段に変更したことで、作業性が大幅に改善されました。また床面にアンカーボルトを埋め込んであるので、根太床を組むことも可能です。
 床衝撃音実験室では、軽量床衝撃音発生器(タッピングマシン)を用いた、床表面仕上げ材の改善量の性能試験を行なっております。
 床衝撃音改善量は、次式で表されます。
 
   :床衝撃音改善量              (dB)
   :コンクリート床表面の床衝撃音レベル (dB)
   :床仕上げ後の床衝撃音レベル      (dB)
 同じ性能の仕上げ材を用いても、床構造や吸音力の異なる受音室では、発生する床衝撃音レベルは当然変化します。そこで、コンクリート床素面の床衝撃音レベルを基準にして、表面仕上げを施した後の床衝撃音レベルとの差を、オクターブバンドごとで表示したのが床衝撃音改善量です。
 図1は、コルクタイルの下地材の有無、および下地材の厚さを変化させた場合の、改善量の測定例です。  
 この実験に用いた下地材は、クッション性が比較的良いので、付加することで改善量は大幅に向上していることがわかります。また下地材の厚さを2倍にすると改善量は2dB〜4dB程度良くなります。

図1 各条件での床衝撃音改善量

 図2は、乾式二重床の測定例を示したものです。表面が合板の上に木質フローリング材直貼りでは、板の共振により125Hzの周波数帯で改善量がマイナス(-)となり、床衝撃音が増幅されてしまいましたが、フローリング材と合板の間に制振材を挟み込むことで板の共振は防止され、改善量を見込むことができた例です。

図2 各条件での床衝撃音改善量

 この実験室における改善量から、実際の建物での床衝撃音レベルを知るには、実際に仕上げ材を施行する現場のコンクリート素面の床衝撃音レベルが、事前に計測できれば間違いありませんが、既存データあるいは予測計算等による方法でも、実用的な範囲での推定は行えます。
 以上、新しい床衝撃音実験室と実験内容について簡単にご紹介いたしましたが、当所では床仕上げ材開発にあたっての音響面でのアドバイス等も行っております。

写真 床衝撃音実験