1989/10
No.26
1. 能舞台の床下大カメ(甕)の音 2. 13th ICA in BELGRADE 3. 音叉と音棒 4. Aモード超音波副鼻腔診断装置 UM-02 5. Noise and Vibration Control
       <技術報告>
 Aモード超音波副鼻腔診断装置 UM-02

リオン株式会社研究開発部 大野  繁

1. はじめに
 Aモード超音波診断装置は、超音波パルス反射法を利用して、生体から得られる反射信号の振幅パターンを調べ各部疾患の診断を行うものである。UM-02は耳鼻咽喉科専用で、受信部に対数増幅器を用いることにより、広範囲にわたる超音波の反射信号レベルの変化を正確に画面表示できるようにした装置である。

2. 超音波の性質
 超音波パルスを生体内部に放射すると、超音波パルスは指向性が強いので超音波は真っすぐ進み、生体内をある速度で伝搬していく。その速度は骨や肺の中をのぞいてほとんど一定で、水中の音速とほぼ等しく、軟部組織は約1530m/s、骨は約4030m/s、空気中は340m/sである。
 超音波パルスは生体組織の音響インピーダンスに変化があるとその境で反射をするから、これにより組織の境界や病変部が識別できる。音響インピーダンスはその物質の音響的な硬さを表す量で、密度(ρ)と音速(C)の積で決まり、人体の軟部組織の音響インピーダンスは水に近く、骨は軟部組織の約4倍、空気は水の約1/4000である。軟部組織と骨の反射率は36%、軟部組織と空気との反射率は99.95%でほとんど超音波パルスは透過しない。生体組織間や病変部と正常部との音響インピーダンスの差はごくわずかであるが、わずかな反射でもこれを十分増幅すればそれに応じた反射信号が得られるので、生体のいろいろな部位の様子や生体内部の動きを検出できる。さらに、超音波パルスを発射した時点から、反射して戻ってくるまでの時間を測ると、その反射体の距離を知ることができる。
 生体内部に放射された超音波パルスは、生体組織を通過するとき次第に拡散し、熱となって生体組織に吸収されたり、散乱によって減衰する。減衰はほぼ周波数に比例して大きくなり、同じ周波数でも組織や病変により減衰量は変化する。一般的にいえば、均質な組織は減衰が少なく、硬い部分や軟らかい部分が入り交じったところでは減衰が大きい。また、肺のように気泡を含む組織では減衰が非常に大きく、例えば、周波数3.5MHzのとき、骨は約45dB/cm、軟部組織は約3.5dB/cm、水は0.07dB/cm、空気は42dB/cmの減衰量である。
 近接した2点をどの程度認識できるかという能力を分解能といい、距離分解能と方位分解能がある。超音波ビームの進行方行に並ぶ2点を識別する能力が距離分解能で、周波数が高く、パルス幅が短いほど分解能は向上する。超音波ビームの垂直方向に並ぶ2点を識別する能力が方位分解能で、超音波ビーム径が小さく、周波数が高いほどよい。

3. 耳鼻咽喉科における超音波診断
 超音波診断が内科や産婦人科で十分診断に活用されているにもかかわらず、耳鼻咽喉科領域で活用されていない理由は、特に、耳鼻科での診断部位が顔面内の骨壁で囲まれ、さらに空気層を含むためで、超音波パルスは骨で吸収減衰し、空気との境界では完全に反射する。このように、一耳や鼻は超音波診断に不利な対象である。
 しかし、軟部組織で覆われた耳下線腫瘍の「質的診断」には有効であり、また、副鼻腔疾患の場合は、副鼻腔洞内が分泌物や腫瘍組織等で満たされているから、超音波パルスは洞内を伝搬して行き、組織の音響インピーダンスに応じた反射信号がえられるので診断に応用できる。

4. 装置の構成と性能
 本装置は大きく分けて、超音波プローブ、高電圧パルス発生部、高周波受信アンプ、A/D変換回路、画像表示回路、プリンタ部と同期制御部、および電源部から構成され、小型、軽量化するために本体ケースはプラスチック類を用いた。
 超音波プローブは電気信号を超音波に、あるいは、逆に超音波を電気信号に変換するトランスジューサで、効率よく超音波を送受信することが要求される。振動子としては圧電特性の高いジルコンチタン酸鉛(PZT)やポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが使われている。今回、振動子は音響インピーダンスが低く、可とう性に富み、高絶縁性であるポリフッ化ビニリデンを用いた。
 プローブから超音波パルスを発生するためには、高電圧、高周波パルスを印加する必要がある。このパルス(-150Vop、125nS)を発生する部分が高電圧パルス発生部である。
 生体に超音波パルスを入射して得られる反射信号は80dB以上の広域に分布するので、受信部の増幅器はリニア増幅器のほかに、反射信号の変化に対応できるダイナミック・レンジの広い、信頼度の高い、高周波対数(LOG)増幅器を用いた。そのほか、遠方の弱い反射信号の増幅度を上げるTGC(STC)回路や検波回路もふくまれる。
 画像表示回路は、検波した入力信号をデジタル信号に変換する高速A/D変換器(30MHzサンプリング)とデジタル信号を記憶するメモリ(SRAM、25nS、など)を用いた。メモリの内容は、演算処理と補間処理を行いモニタTV(520×272)に表示する。さらに、プリンタ回路で演算処理を行い、メモリ(ROM)を通してプリンタに印字する。  
 検査データと臨床結果との対応については、検査データが診断の手がかりとなるので、東京大学医学部分院、社会保険中央病院において臨床試験を依頼し、約200症例のデータを収集した。その結果、副鼻腔炎の診断確率は80%を越えたので、性能には十分な信頼がある。

図1 UM-02 ブロックダイアグラム

5. 超音波検査の有効性
(1) X線検査法は放射線被爆の問題があるが、超音波検査法は無侵襲なので、安全性が高く、小児や妊婦にも繰り返し用いることができる。
(2) 貯溜液の有る副鼻腔疾患に関する診断確率は高く、洞内貯溜液の消長、治療効果の判定、経過観察などに利用できる。
(3) Aモード超音波診断装置は小型、軽量で、操作も簡単なので外来患者にはスクリーニング検査として使用でき、また経過状態をその場で患者に見せることもできる。
(4) リアルタイムに検査が行えるので、今後は、副鼻腔疾患の集団検診や学校保健関係にも進出が予想される。

6. 検査例
 写真2、図4は副鼻腔炎の患者を実際に検査したBモード画像とAモード波形である。

写真2 BEモード画像(水平断)
図3 写真2のシェーマ
 
図4 Aモード波形(写真2と同じ症例)

7. おわりに
 Aモード超音波副鼻腔診断装置「UM-02」について概要と検査例を紹介した。本装置の開発にあたって、東京大学医学部分院、飯沼助教授、塩野先生、北原先生方の助言を頂きまして、ここに感謝いたします。さらに、テクニカルマニュアル作成には、リオン(株)広告宣伝課、塩畑氏の協力を得ました。また、製品設計は、リオン(株)機構設計課 小川氏、聴能技術部第4グループ 夏井氏と研究開発部 大野の共同で行なった。

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