1989/7
No.25
1. 航空機の音(ICAO騒音会議-現在) 2. ポータブル蓄音機 SOUND BOX 3. 振動ピックアップのラウンドロビンテスト 4. 2チャンネル耳かけ形補聴器アークII(HB-38)について
       <研究紹介>
 振動ピックアップのラウンドロビンテスト

騒音振動第二研究室室長 横 田 明 則

1.はじめに

 振動ピックアップの校正が世界的にどの程度の精度で達成できているかを知るために1984年より振動ピックアップの校正に関するラウンドロビンテストがNBS(U. S. National Bureau of Standards)を幹事機関としてスタートしました。ラウンドロビンテストの必要性は1974年のISOTC10/SC3の会議で持ち上がったものですが、それから10年後に実施されることになりました。

 このテストでは"piggy back"と呼ばれているタイプの基準ピックアップが校正の対象とされています。このタイプの基準ピックアップは一般に使用されている振動ピックアップの感度校正を行なうための基準器として用いられるものです。このテストのために振動ピックアップメーカの7社が表1に示している基準ピックアップを提供しています。リオン(株)は当研究所の圧電研究室で開発した圧電素子RZ-15を用いた基準ピックアップPV03を提供しています。感度校正の条件は室温23±3℃、湿度50±20%の環境で校正周波数は160Hzあるいは80Hzで1m/s2から100m/s2の加速度振幅の範囲で校正を実施することだけが条件となっております。校正の方法等についての条件は特にはなく参加機関で実施している最良の方法とされておりますが、校正方法、校正装置等については詳細を報告することになっています。このテストヘは参加表明だけでよく、参加に対する制限はありませんが、実際に参加している機関は表2に示しているように22機関となっています。日本からはこのテストヘ工業技術院計量研究所と小林理研/リオンの2つの機関が参加しています。参加22機関のうちのほとんどが計量研究所のような国の計量機関で小林理研/リオンのような私的な機関は3機関だけです。これらの参加機関に対して、先に紹介しましたピックアップメーカ7社より各2個ずつ提供されたピックアップを2個ずつ組合せて(2個共に同ーメーカになることはない)7組として一組ずつ校正させるという方法が取られています。各組のピックアップは2機関で校正されるとNBSに戻されそこで動作状態等がチェックされた後に次の校正機関に送られるという方法が取られています。当初の計画ではラウンドロビンテストは1987年の夏には終了の予定でしたが、種々の事情により遅れており、日本へもまだ3組のピックアップしか送られて来ておりません。参加機関の多くはこれらの基準ピックアップの校正をレーザ干渉法によって行なっておりますが、相反定理で校正しているところも幾つかあるようです。比較校正を用いているところはごく希のようです。小林理研/リオンではレーザ干渉法による方法で校正に参加しています。

表1 ラウンドロビンテストで仕様仕されている基準ピックアップ
 
表2 ラウンドロビンテストに参加している校正機関の一覧

2.小林理研/リオンの校正方法
 レーザ干渉法による振動ピックアップの校正には2つの基本的な方法があります。その一つである干渉縞計数法と呼ばれている方法は400Hz以下の低周波数領域に適用されるものであり、一方干渉縞消失法と呼ばれる方法はそれよりも高い周波数領域に適用されるものです。これら二つの方法は適用される周波数領域が異なるため不便な点が多いのですが、小林理研/リオンでは全周波数帯に適用可能な関数近似による方法も開発しました。ラウンドロビンテストでは160Hzあるいは80Hzでの感度校正が要求されておりますので、400Hz以下の周波数に適用される干渉縞計数法を用いることにしました。この方法によって振動ピックアップを校正するための校正装置を図1に示します。レーザ発振器から放射された光はハーフミラーによってピックアップヘ向かう光と固定された反射鏡へ向かう光に分割され、その後固定鏡とピックアップの上の面に取り付けられている鏡によって反射された光は再びハーフミラーによって合成されます。それぞれ異なる光路を通って来た光が合成されるために、合成された光は干渉光となっています。図2に加振器の振動波形とその時の受光器で検出される干渉波形を示します。干渉縞計数法とはこの二つの波形の周波数の比を求めることによって校正する方法です。つまり、振動の一周期の間に干渉縞が何回生じるかを計測することになります。二つの波形の周波数比は図1のレシオカウンタで計測されます。レーザ光の波長λおよび周波数比Nより振動の変位振幅はなる関係から求めることができます。さらに、速度への変換は、加速度への変換はという関係によって行なえます。この方法での校正精度は周波数比Nが大きい程よく、加速度振幅で10g(g=9.807m/s2)程度の振動で校正されます。この場合周波数比は160Hzでは1250、80Hzでは5000程度になります。このような形で校正した結果の例を表3に示します。

図1 干渉縞計数法による振動ピックアップの校正装置のブロック図
 
2 加振器の変位波形(上)とレーザ光の干渉波形(下)この例の場合は
変位振幅がレーザ光の波長と等しいため周波数比は8である。
 
表3 干渉縞計数法による校正例

3.ラウンドロビンテストの中間報告
 1988年の暮れにNBSからこれまでの各機関での校正結果を集計して整理されたものが送られて来ました。報告はNBSでの校正を除く21機関での14個のピックアップに対する130を越える校正結果に関するものです。7組の基準ピックアップのセットのうち最も多くの機関で校正されているのは第一組の15機関であり、次に第五組の13機関となっています。第一組のセットについては当方でも校正を終了させています。表3に示している校正例がNBSに報告した結果です。図3に第一組のセットについて集計されている結果を示します。縦軸、横軸のそれぞれには15機関で校正された値の平均値からのずれを%で表示してあり、各機関で測定された二組の校正結果がどのような傾向を持っているかが調べられています。図には12機関での校正データがプロットされていますが、3機関の結果はこの範囲に入っていなかったためと思われます。この図では平均値からのずれが表示されているために、小林理研/リオンの校正結果がどこに位置しているか知ることができませんが、つい先ごろリオン音測技術部の鈴木部長がNBSを訪れる機会があり質問しましたところ、平均値に非常に近いところに位置しているという回答を得ました。

図3 第1組の基準ピックアップ(A、B)に対する校正のばらつき
(校正機関の数は15機関である)

 さらに、全体的な傾向を見るために集計されたデータの中から特異なデータを除いた12個のピックアップに対する校正結果124個のデータをもとに平均値からのずれが調べられた結果を図4に示しています。2個のピックアップに対するデータが除かれているのは、そのうちの1個が紛失し、さらに1個は故障したために他のピックアップに比べてデータ数が少ないためと思われます。この図では横軸に平均値からのずれが取られており、縦軸にはその個数が示されています。この結果から、平均値からのずれは校正値の86%が±1%の範囲に納まっており、さらに校正値の73%もの数が±0.5%の範囲に入っていることが確かめられました。また、この値は各機関がNBSに提出した校正に使用している測定器の精度とも良く対応していることが確かめられています。

図4 校正値の平均値からのずれ
(校正データ数は124である)

4.おわりに
 1984年からスタートした振動ピックアップの校正に関するラウンドロビンテストは半分の工程しか終了していないにもかかわらず、世界的に広まっている校正精度±1%という値は実験結果よりもわずかに大きい値に過ぎないということが確かめられました。さらに、基準ピックアップの経年変化については考えられていた以上に安定していることがNBSでの5年間の調査で確かめられたこともこのラウンドロビンテストでの大きな収穫となっています。

-先頭へ戻る-