1988/10
No.22
1. 超音波の話 2. グルノーブルのC. S. T. B 3. オルガンパイプとケーニッヒのレゾネータ 4. 聴感実験による航空機騒音の評価 5. 発音・発語訓練装置の開発(その1)
  
 グルノーブルのC. S. T. B

山 下 充 康

 8月30日から9月1日までの3日間、フランスのアビニヨンで開催されたインターノイズ'88の後、グルノーブルのC.S.T.B. (Centre Scientifique & Technique du Bâtiment)を訪ねた。
 C.S.T.B.は、建築技術の研究機関で、パリに本部が置かれている。採光、日照、熱、耐火、植栽、景観などの居住性や安全性、経済性、代替エネルギー問題など、居住空間に関して、多角的な研究が進められている。グルノーブルには室内音響と騒音振動の研究部門が置かれ、我々の研究所の建築音響研究室と騒音振動研究室を思い起こさせるような機能であった。
 C.S.T.B.の主催で「道路交通騒音シンポジウム」が企画され、これに参加するのが目的でグルノーブル入りをした。シンポジウムには、アメリカ、西ドイツ、カナダ、イスラエル、オーストリア、フランス、そして我々の総勢40名程度が参加し、和やかな雰囲気の中で進められた。発表の持ち時間は30分を原則としていたが、討議が始まると時間制限はどこへやらで、フランス英語やジャパニーズ英語が飛び交う。
 ホスト役のC.S.T.B.のスタッフは我々を大層好意的に迎えてくれて、会場入り口にいかにも西洋人が書いたと判る不思議な字体の「道路騒音セミナー」という看板が掲げられていたのはうれしかった。日本語と空手を勉強しているフランス人の研究生が書いたとのことである。
 グルノーブルの北東の郊外、西ドイツのブラウンシュバイヒにあるPTBがそうであったように、耕作地に囲まれた、のどかな自然環境に立地している。
 25年ほど前、たくさんの小さな鈴(cat bells)をひもにくくり付けた音源を作って、道路交通騒音の縮尺模型実験の線音源として利用したレポートを読んだことがある。高い周波数の音を出す猫の鈴を使う思い付きに感服したものである。これが小林理研のカーテンレール型線音源の開発に大きなヒントとなった。この論文の著者J.M.Rapin氏はC.S.T.B.の騒音部門のチーフで、相変わらず縮尺模型実験による道路交通騒音の研究に取り組んでおられた。
 Rapin氏に模型実験施設を案内していただいた。ちょうど道路交通騒音の予測の実験中で、無響室の中に地形や建物が忠実に模型化されていた。もち論、音源は猫の鈴ではなく、ジェットノイズを利用したものになっていたが、マイクロホンの移動装置、大きなガラス窓のはまった観測室、実験室内の空調施設など、見事に整備されている。我々の模型実験室に比べると、うらやましい限りである。模型にはペイントが施されて、家屋の色とりどりの屋根、緑の草地、まるで映画の特撮セットを見るようである。Rapin氏によれば、見学者が多いから見栄えを良くしているとのことで、部外者へのサービスも怠りない。
 別棟に、吸音率や透過損失などの測定施設が建てられている。この種の研究機関を訪ねて、いつも感じることがある。それは、実験室の隅々まで整理、整とんが為されていること。来客があるから急いで片付けた、というのではなく、習慣的に身についているように思う。見習いたい。

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