1989/1
No.23
1. 台湾音響学会 2. 理事就任にあたって -五十嵐先生と私と台湾- 3. 騒 音 計 4. 新装された模型実験室 5. 発音・発語訓練装置の開発(その2)
      
 台湾音響学会
     
(The Acoustical Society of the Republic of China)

理事長 五 十 嵐 寿 一

1. 第1回台湾音響学会
 昭和63年11月18、19日の両日台北市の師範大学において、台湾音響学会の第1回研究発表会が開催された。この学会は昭和62年(台湾歴76年)11月に設立された。現在会員数226、団体会員4
 学会は台北帝大医学部を卒業された師範大学の王老得教授(聾教育)の肝入りで発足し、王教授が初代の会長に就任したが、今回の発表会の準備半ばで今年8月に不幸にも亡くなられた。王教授の後任としては同じ師範大学の黄乾全教授(衛生工学専攻)が会長(台湾では理事長)に選出された。
 学会は師範大学の国際会議場で約150名が出席し、先ず国歌斉唱の後、国父孫文の肖像に三拝する儀式があって開始された。理事長の開会宣言、主賓として行政院環境保護署(日本の環境庁)の陳竜吉副署長(日本の次官)及び環境保護学会の荘進源会長から祝辞がのべられた。陳、荘両氏は学会の理事にも名を連ねている。なお、黄理事長から日本音響学会子安勝会長の祝辞が披露された。開会につづいて午前は招待講演として次の2件があった。
1. Environmental Criteria on Noise and Measures for Noise Control. (小林理研 五十嵐寿一)
2. Practical Calculation of Floor Impact Sound by Impedance Method. (日本大学 木村翔教授)
 午後は一般講演に移り、2会場で次のようなセッションに分けて26件の発表があった。(このうち日本から4件)台湾の会員の発表について、氏名を省略し講演題目と所属のみを記載した。
 音響基礎(7):無響室の性能測定(国立海洋学院)
 三次元空間のモード解析(台大土木)
 ベァリングの欠陥による振動の解析(中正理工学院)
 水中における板振動による音圧(台大)
 拡散音場の音響インテンシティ計測(リオン 大熊恒靖)
 流れのある円管中の音の減衰(台大造船)
 パネルの振動と透過損失(台大造船)
 聴覚・語言(2):内耳の障害による聴覚に関する動物実験 (台大医)
 声帯結節による音声のスペクトル分析 (語言治療師)
 建築音響(5):石油化学工場の防音壁 (成功大建築)
 現場における遮音の測定と評価 (東大、成功大地)
 Fタイプ吸音材による無響室の性能 (藤井工場 田村隆宏他)
 建設騒音評価 (立地環境管理有限公司)
 床衝撃音の現場測定 (成功大、東大、東洋大他)
 騒音・振動(7):自動車騒音 (車速と騒音レベル) (成功大都市計画)
 交通騒音の学習への影響  (国立師範大)
 手持ち工具の振動評価  (嘉南薬学専科学院環境)
 交通量と騒音・振動の関係  (逢甲大土木)
 騒音による価格の低下  (騒音防止協会 荘美智子)
 都市騒音の電算機による予測  (立地環境管理有限公司)
 単一車両騒音に基づく交通騒音の予測式 (中鼎工程公司)
 
防音工程(5):高架道路の防音塀の設計(2件)  (交通大及び逢甲大土木)
 冷却塔から発生する騒音のインテンシティ計測 (中原大、成功大)
 ディーゼルエンジンルームの消音設計 (消音技研 井上一二三)
 製薬工場における圧縮機の消音設計(逢甲大環境)等の演題で発表が行われ、19日正午終了した。
 日本人(英語)以外はすべて中国語の講演で、論文集はなんとか拾い読みで内容を推測できるが講演になると図をみて理解しようとする以外どうにもならないのは残念であった。文字については"無響室音場特性之分析"といった表現である。もっとも無響室というのは日本からの外来語という説明であった。また騒音は"噪音"が使われている。座長は主持人、講演者は主講人、セッションは例えば建築音響組である。
 第1回の大会ということで発表件数を制限して、時間を十分にとり1人25分、論文は平均10ぺーシで詳しい研究結果の内容であったが、発表できなかった人から苦情が出たということである。発表は当面する課題を取り上げたものが多く、外国の文献も参考にして充実したものであった。台湾には米国や日本に留学した人も多く、日本人の講演に対しては、英→中 日→中→日等の通訳が随所にボランティアによって行われた。 現在台湾では急速な工業化で工場、道路交通による騒音が苦情の対象になりつつあり、騒音規制法がすでに施行されているが、その運用としての対策が急務になっている。今回の大会も主題を騒音においたということである。市内の交通は専らバスとタクシーで、自動車も年々10%づつ急激に増加しつつあり、通勤は主としてバイクによっていることもあって交通の混雑は日本以上である。
 学会の第1日目の夕刻、大学の食堂で台湾料理のパーティが開催され、学会の役員と日本からの参加者約30名が出席したが、開会や閉会の挨拶も一切なく席の近くの人と互いに紹興酒で乾杯しながら食事をするだけという形式張らない会であった。聞くところによると結婚式の披露宴でもスピーチなど一切ないということである。

2. 学会の運営
 学会は理事長(常務理事の中から選出)、理事21人(理事の互選で常務理事6人)、候補理事8人 監事7人(互選で常務監事1人) 候補監事3人 常務理事のなかから総幹事を選び現在は台北大学心理学の黄栄村教授で副会長にあたる。なおこれからの役員は大会で連記の投票によって選出することになっている。会員は満20才以上、高中(職)以上の学歴、または音響関係の業務に従事する者で会員2人の紹介を必要とする。
 会費は個人会員 200元 (1元約4.5円)  
      団体全員 2000元

3. 台湾事情
 台湾といっても台北市の周辺だけの知識であるが、街の様子はバイクが多いこと以外日本の街と変わらない。但し日本と違い商店の看板が全部漢字で左書き右書きが混在していて戸惑うが半分位は内容が推定できる。現在中華人民共和国、日本とも正式な国交はないが出入りは自由で、日本企業で台湾に進出している数も多く台北には日本のデパートも今年開店した。台湾では昨年政権が代わり戒厳令も解除になったことで一般の表情は明るい。また新興工業国として発展した結果、国際収支の黒字の額では日本に次ぐ繁栄を遂げている。従って生活程度が高く街の治安もきわめてよいように見受けられた。 当地の新聞にはまだ日本に関する記事が少ないことが気になるが、全般的に親近感がもてることは他の外国に居るのと違う印象を受けた。航空機で3時間半の距離にある近い国でもあり、音響の分野においても今後の交流がさらに盛んになることが望まれる。

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