1988/7
No.21
1. 晴天のショックウェーブ 2. 騒音環境基準の設定経過(その3) 3. 補 聴 器 4. 人の反応を見る 5. レーザー加速度計
       <技術報告>
 
レーザー加速度計

リオン株式会社 基礎技術部 関  淳

1. はじめに
 コンピュータを初めとした高度なエレクトロニクスの発展をささえている半導体デバイスは、より高い集積度が要求されてきております。このようなデバイスは、高密度であるためパターンの幅が非常に狭く、1um(10000分の1cm)以下のものもあります。このため特にマスクパターンをシリコンウェハに露光するいわゆるフォトリゾグラフィの工程において、外部からうける振動は写真のぶれと同様にパターンを不鮮明にするので、製品の出来不出来に大きな影響を与えます。
 したがって半導体を製造するにあたっては、特別な除振設備を用いて振動を低減する必要があります。最新の半導体デバイスでは、製造時に許容される振動が、数Hz以下の低振動数領域で、変位換算で1Hz、1umといわれており、非常に小さな振動であるため測定によって確認しなければなりません。このような低周波微振動環境の測定には、低周波において高感度で、なおかつ低雑音の振動ピックアップが必要となります。
 圧電セラミックを用いた加速度ピックアップとしては、弊社のPV-96型加速度ピックアップのように、前記の低周波微振動を測定できるタイプもありますが、ここではレーザーを用いた、方式の異なる加速度計を紹介します。
 レーザー加速度計LA-50型は、光干渉法を用いて感振部(振り子)の動きを検出し、サーボ機構によって出力信号のリニアリティを高めています。この結果1Hz付近の低周波領域においての微動を測定することを可能にしております。(特許出願中)

2. 原 理
 LA-50型は振り子の位置を光干渉法で検出する新しい方式のサーボ型加速度ピックアップです。
 サーボ型加速度ピックアップとは、振動を感じる振り子に電磁力を作用させて振り子の動きを抑制する、力平衡型のピックアップです。従来の一般的なサーボ型加速度ピックアップの構造を図1に示します。振動を感じる振り子がバネによってケースに取り付けられており、振動によって動きます。また、ケースには振り子の位置検出器があります。位置検出器で得られた位置信号は電気回路で増幅された後、振り子に取り付けられた電磁コイルに電流として流れます。電磁コイルはケースに固定される磁気回路ギャップ内にあるため、電磁力が発生して振り子に作用します。この電磁力は振動による力に対して逆向きでほぼ等しい大きさであるため、振り子は殆んど動かなくなります。そしてこの時の出力は振り子に働く電磁力、すなわち電磁コイルを流れる電流によって得られます。

図1. 従来のサーボ型加速度ピックアップ

 この様にサーボ型加速度ピックアップのすぐれている点は、電磁力が振動力をバランスし振り子が殆んど動かなくなるため、バネや位置検出器のリニアリティが良好な範囲で動作し、振動に対する出力のリニアリティが大きく改善される事です。
 ところでサーボ型加速度ピックアップの性能は振り子の動きを検出する位置検出器のノイズ性能に大きく支配されます。このため高感度低雑音のサーボ型加速度ピックアップには高感度低雑音の位置検出器が必要になります。従来から用いられている振り子の位置検出器にはコンデンサを用いたもの、光遮断による方法などがありますが、これらは比較的ノイズが大きいため高感度低雑音を目的としたサーボ型加速度ピックアップには、あまり適しているとはいえません。
 LA-50型は振り子の高感度低雑音な位置検出を光干渉を用いる事によって実現しています。光干渉は音の干渉と同様に光が波動である事によって発生します。LA-50型の場合、図2に示されるように振り子とケースに2枚半透明鏡が平行に取り付けられており、干渉性の良いレーザー光が入射すると繰り返し反射によって干渉が生じます。受光器で受ける干渉光強度は2枚の半透明鏡の隅に大きく依存し、0.1um以下の極く僅かの間隔変化でも干渉光強度は大きく変化します。このため光干渉では振り子の位置を従来に比べて高感度低雑音に検出することができます。

図2. 干渉による振り子の位置検出部

 この様に光干渉法には高感度に位置を検出できるメリットがある反面、干渉強度が半透明鏡の間隔変化に対して周期的に変化するという欠点もあります。干渉の周期的変化は原理的なものであり、半透明鏡の間隔がレーザー光波長の2分の1(用いている半導体レーザーの場合、約0.4um)の周期で正弦状に変化します。このため振り子が振動によって大きく動くと干渉光が周期的に変化し、半透明鏡間隔と干渉光との対応がとれななくなります。しかし、振り子はサーボによって抑制制御されているので、干渉光が周期的に変化する程は大きく動きません。動く範囲は干渉光のリニアリティの良好な極く僅かな範囲のみです。この結果、リニアリティの良い出力が得られます。
 以上の様に、LA-50型は光干渉の高感度低雑音性を生かし、かつサーボ動さによってリニアリティの改善を図った新しいタイプのサーボ型加速度ピックアップです。図3はLA-50型の内部構造です。前述の様に2枚の半透明鏡が平行になって振り子とケースに取り付けられており、レーザー光の入射によって干渉が生じます。振り子はバネでケースに取り付けられており、振動によって動くため、半透明鏡の間隔変化が起り、受光器で受ける干渉光強度が変化します。電気信号に変換された干渉信号は電気的に増幅された後、磁気回路内部の電磁コイルを流れて、振り子への抑制力を発生します。信号出力は従来のサーボ型加速度ピックアップと同様、電磁コイルを流れる電流で得られます。

図3. LA-50型の構造

 なお、光源は半導体レーザーでペルチェ素子によって高精度に温度コントロールされており、安定した発光が得られます。また、半導体レーザーから出射するレーザー光は発散しているためコリメータレンズを用いて平行光にし、干渉型の良好な光となっています。

3. 性能
 LA-50型の主な性能を表1に示します。寸法はφ78×135mmで一般的な圧電型加速度ピックアップよりも大きく、重量も2Kgと重くなっています。これは感振部が大きい他に、半導体レーザーの温度コントロールやサーボ増幅器が内部に組み込まれているためです。このピックアップは専用電源(写真1)によって動作します。感度は電源部のスイッチによって3段階の切り換えが可能であり、中央値で0.1V/Galとなっています。この時の雑音は、1uV/√Hzです。他の方式の加速度ピックアップに比較して雑音は小さく、感度は非常に大きくなっています。又、測定振動数は0.1〜100Hzであるため、低周波微振動を精度良く測定する事ができます。

写真一 LA-50型レーザー加速度;専用電源

図4はLA-50型2台による程度の振動の測定例です。雑音が小さいため二つの振動は殆ど同じ形状を示しています。

 以上の様にLA-50型は、感度および雑音などにおいて優れた性能を有しております。
 LA-50型は半導体工場ばかりでなく、地盤の測定、高層建造物あるいは長大な橋梁など幅広い低周波微振動の測定を可能にした加速度計であります。

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