1988/4
No.20
1. 巻 頭 言 2. 環境基準(騒音)の設定経過(その2) 3. WECPNLについて 4. 水鉄砲形周波数分析器 5. 透光性強誘電体セラミックス(BCN-PZT)の物性
       
 
巻 頭 言

 今年も新緑の季節を迎えようとしております。皆様におかれましては益々御健勝のこととお慶び申し上げます。

 小林理研ニュースも昭和58年6月に第1号を発刊して以来、四半期毎の刊行を続けてまいりました。ここに第20号を届けさせていただきます。

 昨年来始められた国分寺駅の工事も順調に進められ、JR中央線と西武線の二つの駅を持つ近代的な駅ビルの完成もそう遠くないようで、私どもの研究所をお訪ねいただくお客様にもこれまでのような御不便をおかけしなくてもすむようになることと思います。駅舎の新装もさることながら、ここ数年の研究所周辺の環境は急激に変化してきつつあります。

 そんな中にあって、私たちは四季折々の自然の移り変わる様を窓越しに見ながら研究活動を推進することができるという幸せな自然環境に恵まれています。

 ここで研究所の周囲をほんの少しですがご案内させていただくのも一興かと存じます。

 研究所の敷地に沿って木立の間を縫うように作られた細い急な階段を下りると小さな泉の淵に行き当たります。ここの透明な涌き水は昭和60年に環境庁が日本名水百選の一つに指定しましたが、それからというものポリタンクやガラスびんを手にこの水を汲みに来る人の姿を目にするようになりました。研究所に来られるお客様の中にこの水を汲んで帰られる方がおられます。お話しではコーヒーやお茶が美味しいのだそうで、私も一度試してみましたが水道の水を使うのとは何やら違う味がするように思えました。

 涌き水は一またぎ出来るくらいの幅の流れになって、20メートル程でやや水量の多い小川に合流します。これはやがて野川の支流の一つになるのですが、合流点から川沿いの小径を上流にぶらぶらと5分も歩くと古い寺の山門に至ります。この小径には「お鷹の道」と書かれた小さな標識があるので、おそらく名のある遊歩道なのでしょう。せせらぎを耳にしながら「お鷹の道」をたどる散策はここが東京の近郊の小都市であることを忘れさせます。

 聖武天皇の勅願で諸国に建てられた国分寺の一つである武蔵国・国分寺は建物の基礎に使われた巨大な石を遺しているだけで、今の国分寺は当時の境内の高台の一角に位置しています。全国でも指折りの規模を持つ寺院であったらしく、研究所の敷地も当時の境内の一部であるとの話しも聞きます。私が研究所に通い始めた頃、昔の国分寺の屋根に使われていたという特徴的な裏模様を持つ布目瓦が近くの畑の隅に無造作に積まれているのを目にしました。

 1200余年前の国分寺の規模ではないにせよ「お鷹の道」を抜けて見上げる今の山門は、うっ蒼とした林に続く高い石段を背にして仲々の風格です。

 春から秋にかけてカメラを手に散策を楽しむ方々の姿も見られます。駅ビルの完成を楽しみに待ちながら、都市化の波に呑まれることなく残されているこんな一画が近くに在ることに喜びを感じている次第です。

 今年は本州四国連絡橋、青函トンネルの開通によって日本列島が一つにつながり、多方面で様々な変化が始まることになるものと考えられます。この時期、私どもの研究所でも音響研究の成果を環境保全はもとより、安全性の確保や品質管理など従来よりも幅広い分野に応用する研究の推進を試みたいと考えています。

 研究所の建物を取り囲む樹木の小枝たちは今年も小さな新芽を覗かせ始めました。お立ち寄りの機会が有りましたら緑の木漏れ日の下をご案内したく存じます。お待ちしております。        

所長 山下充康

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