1988/4
No.20
1. 巻 頭 言 2. 環境基準(騒音)の設定経過(その2) 3. WECPNLについて 4. 水鉄砲形周波数分析器 5. 透光性強誘電体セラミックス(BCN-PZT)の物性
       <研究紹介>       
 
透光性強誘電体セラミックス(BCN-PZT)の物性

圧電材料研究室 横 須 賀  勝

1. はじめに
 ジルコン酸鉛(PbZro3)−チタン酸鉛(PbTio3)系セラミックスは、通常PZTとよばれ、優れた圧電件を示すため各種のトランスジューサー用材料として利用されている。ところが、このセラミックスに酸化ランタン(La2O3)を加え、ホットプレス焼結したセラミックス(PLZT)は、高い透光性及び優れた電気光学効果を示すことが知られている。当研究室では、長年の間、PLZTを上回る光学的特性を有する透光性セラミックス材料の探索を行ない、いくつかの組成材料を開発してきた。1-6) ここでは、それらの中から紙面の制約上、BCN-PZT系セラミックスに限定し、その物性について簡単に報告する。このセラミックスはPZTにBaCO3CaCO3Nb2O5を加えて反応させたもので、その組成式は次のように表わす事とする。

これを便宜上、BCN-PZT. X/Y/Z (X=100x, Y=100y, Z=100(1-y))と呼ぶことにする。
 通常、強誘電体の誘電率は、温度と共に、キューリ点(Tc)で鋭いピークを示し、自発分極や圧電性はこの温度で消滅する。しかし、BGN-PZT系はXの量が増えると自発分極(圧電性)の消滅する温度と、誘電率のピークとなる温度は一致しない。そこで、自発分極(圧電性)の消滅する温度をTI→II又はTII→Iと表わし、この温度以上を常誘電相(I),この温度以下を強誘電体相(II)と呼ぶ。さらに、誘電率のピークとなる温度をTmで表わし区別する。

2. 相 図
 図1に、X線回折、誘電的圧電的測定、光学的測定及びD-Eヒステリシスループの観測から決定したBCN-PZT系セラミックスの室温における相図を示す。白丸は相図作成に用いた試料の組成を表わし、これらは全てペロブスカイト型の固溶体を作っている。なお、第三成分として用いたBa(Ca1/3Nb2/3)O3複合酸化物も立方晶のペロブスカイト型であることがX線回折から判明した。相図は、正方晶(Tert.)、菱面体晶(Rhomb.)、斜方晶(Orth.)及び立方晶(Cub.)の四相から成立ち、正方晶強誘電相と菱面体晶強誘電相間の相境界線はほとんどXによらない。斜方晶反強誘電相はPbZrO3近くの狭い領域に存在している。このことはBCN-PZT. 7/100/0, 7/97.5/2.5の組成において強誘電的ヒステリシスループが観測された事から明らかである。常誘電相I(PE)と強誘電相II(FE)との境界は図のように二本の線で表わされ、実線はTII→Iに対応し、破線はTI→IIに対応する。

図1 Ba(Ca1/3Nb2/3)O3-PbZrO3-PbTiO3(BCN-PZT)
系セラミックスの相図
 
図2 BCN-PZT. X/50/50の転移点

 図2に、BCN-PZT. X/50/50のXを5から22まで変えたとき、誘電率のピークとなる温度Tm及び自発分極(圧電性)の消失する温度TII→Iを示す。TII→I及びTmは、Xの増加と共に直線的に低下する。X<10のとき強誘電相(II)は正方晶であり、TmとTII→Iはほぼ一致し、通常の強誘電体セラミックスと同様、誘電率のピークは鋭い温度変化を示す。しかし、X>10では、Xの増加と共に、誘電率のピークは次第にブロードになり、TmとTII→Iとの温度差は大きくなる。例えばBCN-PZT. 15/50/50に対し、温度差は80℃にもなる。なお強誘電相(II)から常誘電相(I)への転移温度TII→Iは図1の相図の実線に対応する。

3. 結晶構造
 この系の結晶構造を決定するために、X線回折測定を、Cu-Kα源及びNiフィルターを用いて、テフラクトメーターにより行った。光学研磨した16/45/55板状試料に対する(200)回折スペクトルを図3に示す。(A)は分極前の状態(熱的にアニールした状態)であり、シャープな強い回折線が観測され、立方晶であることを示している。なお、厳密にいえば、スペクトルの左肩に小さいこぶ(山)が見られ、正方晶相が僅かではあるが含まれていることを示す。(B)はセラミックス板に垂直、(C)はセラミックス板に平行に分極した後のスペクトルを示しているが、(B)、(C)双方とも二本にスプリットし、分極により立方晶から正方晶へ結晶構造が変化したことがわかる。ドメイン配向の違いのため、(B)と(C)は回折線の強度比が逆になっている。一旦FEの正方晶へ転移した試料は、温度を転移点TII→I (63℃)以上に上げない限り安定である。図4には、BCNーPZT. X/45/55のXを5から22まで変えたときの格子定数の変化を示す。なお、黒丸は、分極前(熱的にアニール)の値を表わし、白丸は分極後の値を示している。分極前の状態で正方晶と立方晶間の相転移はX=15で起り、分極後はX=17で起こる。X=15〜17の範囲にある組成は電界により分極され、図3に示したように正方晶へ転移する。X<15の組成では、分極の有無にかかわらず格子定数はほぼ同じ値を示している。図の上側の矢印は、分極後のFE(II)からPE(I)への転移がX=17で起こり、逆にPE(I)からFE(II)への転移はX=15で起こることを示している。この事を相図(図1)と比較すると、X=15の組成は、破線上に、X=17の組成は実線上に位置することがわかる。このように、二本の境界線が、PEとFE間に存在することになる。

図3 BCN-PZT. 16/45/55のX線回線スペクトル
(A)分極前,(B)板面に垂直に分極,(C)板面に平行に分極
 
図4 BCN-PZT. 45/55の分極前、後の試料に対する格子定数の組成依存性
(I : 常誘電相 , II : 強誘電動 )

4. 光学的性質
 ホットプレスにより作成した透光性セラミックスの典型的な透光率波長依存性をBCN-PZT. 16.4/42.5/57.5及び15/40/60に対し、図5に、300〜800nmの範囲で示す。試料の厚みは0.25mmであり、測定は分光光度計により行った。両者とも吸収端は約375nmに存在し、透光率はその付近から急激に立上がり、その後、波長と共に漸次増大する。16.5/42.5/57.5は400nmで38%、600nmでは68%の高い透光性を示している。この試料は分極後、強誘電性を示し、誘電率が最大となる温度Tmは、114℃である。15/40/60の透光率は16.4/42.5/57.5よりも全般に低いが、これはTmが168℃であるため、結晶異方性が16.4/42.5/57.5よりも大きく、よって光学異方性も大きいためと考えられる。

図5 BCN-PZT. 16.4/42.5/57.5及び15/40/60に対する透光率の波長依存性

 

 つぎに、電気光学効果について簡単に述べる。一次及び二次R電気光学定数は、例えばに対し、に対し、が得られた。これらの値は光学結晶に比べ優れており、組成は電気光学材料として有望である。

5. 終わりに
 ホットプレス法により作成した透光性強誘電体セラミックスBCN-PZT系の相図、結晶構造ならびに光学的性質を説明した。なお、著者らは、この材料以外に、SLN-PZT系、BLN-PZT系及びPBLN等の材料研究も行ない、PLZTを上回る光学的、電気光学的特性を有する組成材料をいくつか開発することが出来た。詳細は下記の文献を参照されたい。

参考文献
1)M. Yokosuka: Jpn. J. Appl. Phys. 16(1977)379.
2) M. Yokosuka, S.Miura, T. Ochiai and M. Marutake:
  Jpn. Appl. Phys. Suppl. 20-4(1981)75.
3)Yokosuka, T. Ochiai and M. Marutake:
  Jpn. Jappl. Phys. Suppl. 24-3(1985)130
4)M. Yokosuka: Jpn. J. Appl. Phys. 25(1986)993.
5)M. Yokosuka: Jpn. J. Appl. Phys. 25(1986)1183.
6)M. Yokosuka: Jpn. J. Appl. Phys. 25(1986)1371.

-先頭へ戻る-