1988/1
No.19
1. 騒音の環境問題 2. 騒音環境基準の設定経過 3. 骨董品に見る音響学 4.レイリー・ディスクと石英の糸 5. カスタム挿耳形補聴器 6. インターノイズ’87
  
 骨董品に見る音響学

所 長 山 下 充 康

 研究所の書庫の片すみから発見されたヘルムホルツの著書「聴覚に関する研究」についての記事をこのニュースに掲載してから一年が過ぎた。この著名な論文が、うっかりすれば書籍の整理作業に取り紛れて無くなってしまっていたかも知れないことを思うと気持ちが落ち着かない。それからというもの、古ぼけた物があるとついほこりをこすり取ってひねくりまわす骨董品店のおやじのような癖を身に付けてしまった。

 創立以来、そろそろ半世紀になろうとしている小林理学研究所である。書庫や備品室、研究室などを覗くと新しい書籍や測定機器に隠れて様々な骨董品が見当たる。われわれの先輩たちが研究に使った古めかしい実験器具や装置、ワープロでは使われることのない旧字体の活字で綴られた文献などなど……。

 これらの実験器具や書籍たちは今でこそほこりを被って置き忘れられたように息をひそめてはいるものの、過去のある時期にはそれなりに注目を集め、研究活動に強く関与していたに相異ない。おそらく、これらの品々は購入資金のやりくりや機能的な得失の検討など、今日と同様、あるいはそれ以上の苦労の末に当時の研究員たちが手に入れたものであろう。そう考えるとこれらをこのままほこりに埋もれさせて置くのは忍びない。

 回顧趣味と言うのではなく、われわれの先輩たちに使われたこれらの品々を今ここでほこりを吹き払って見直してみることは今日の研究の推進に役立たないとも限らない。そんな思いから、研究所に遺されているこれらの品々をこのニュースの誌上に少しずつでも紹介して行きたいと考えた。

 今回は音響計測技術の始祖的な位置付けにあるレイリー・ディスクを取り上げた。

19_4. レイリー・ディスクと石英の糸へ続く