1986/7
No.13
1. 都市環境改善に関する作業委員会(米国) 2. 低周波音の睡眠影響 3. 建築音響研究室 4. 聴力検査室の遮音性能について

5. 中国における騒音事情

 中国における騒音事情

はしがき
 昭和61年5月1日-3日、米国ロスアンゼルス、UCLAにおける環境騒音に関する作業委員会において中国からの招待者Maa教授が中国における騒音事情について講演を行った。(本号1ぺ一ジ参照)

Maa教授は中国声学研究所の前所長で、明年のINTER-NOISE'87の組織委員長である。尚中国声学研究所は、北京にあって所員数700人、音響関係の部門30以上を有する大研究所である。

講演の概要

1. 騒音問題の歴史
 中国は長い間侵略、内乱等の被害を受けた結果、過去には騒音は経済発展のシンボルと考えられていたこともあって、騒音の研究が開始されたのは1959年(昭和34年)からである。また人々が騒音を問題にするようになったのは昭和35年頃からで昭和41年の春初めて北京市内の騒音測定が行なわれた。1970年(昭和45年)代になって、国として騒音問題に取り組むことになり、昭和54年北京、天津地区(28.000km2人口1800万人)の周辺22小都市を含めた騒音測定が実施された。この内都市部は269km2、人口600万人である。これらの2都市で昭和53年には公害に対して1269件の苦情の訴えがあり、このうち42%は騒音に関するものでこれが1980年には49%に増加した。その後交通量、工場の数は急激に増加したが、以下に述べる騒音対策の結果、騒音環境は著しく改善された。表1は北京市における171点の主要道路周辺における騒音レベルの測定結果で、交通量が増加したにも係わらず騒音レベルは減少している。

表1 北京市の騒音レベルの変化

2. 測定の方法
 道路周辺、住居、商業、工業地区に測定点を設置して測定を行ったが、場合によっては、500×500mのメッシュにわけて騒音分布を測定した。騒音レベルは直読または自動測定器によって時間率騒音レベル、等価騒音レベル等をもとめた。 (交通騒音については200個のデータのサンプリングを行なった)

3. 自動車の警笛
 北京、天津における測定結果によれば、諸外国のデータと比較して交通騒音で約12dB程大きいことが判明したが、このうち3-7dBは警笛によるものである。

 昭和54年北京には約10万台の自動車があり、その内40%はトラックとバスであった。一方約300万台の自転車があり、事故は専らドライバーの責任になるということもあって、自転車と歩行者を避けるために警笛が使用された。併し現在は地方都市の一部を除いて著しく改善された。

4. 騒音対策
 市街地の騒音対策としては、道路交通騒音の寄与が最も顕著で、航空機騒音については中国においては運航回数も少ない上に空港が市街地から20-30kmはなれていることもあって現在特別に問題になっていない。北京の市街地ではその1/2がまた天津においては1/3の地区において工場騒音の問題があり、それに対する対策が必要である。

4-1 交通騒音
 過去6年間に道路における交通量は、160%、自転車は130%増加したが、次のような対策を実施した結果、交通渋滞は解消し、交通騒音はL10で4.5dB, Leqで3dB減少した。
a) 警笛は緊急の時を除き禁止、制限速度の順守  (同時に歩行者、自転車通行者に対する教育)
b) 主要道路において歩行者および自転車通行者をフェンスで分離
c) 道路の拡幅、幅を2倍にすることで騒音は約4dB、事故も減少した。
d) 拡幅の出来ない道路には一方通行の採用、これによって交通量は15-30%減少した。
表1 北京市の騒音レベルの変化

4-2 都市計画
伝統的な外壁をもった建物は騒音を約20dB減少するが、現在このような建物は減少しつつある。しかし建物を道路から距離をおいて建設することによって、70mではL10で17dB, L90で10dB減少できるので、学校、公共施設の建設に当たっては道路から隔離する方法がとられている。また新しいビルディングについては、道路に面したところに廊下または窓をもったバルコニーを配置することによって窓を開けて10-15dB、閉じて20-30dB騒音を減少することに成功した。

4-3 工場騒
 大工場は通常住居地からはなれていてあまり問題ないが、都市部では敷地境界で65dBと制限されている。この限度を満足することはあまり問題がない。しかし発電所等においてはこの限度は極めて厳しく、周辺の住居に対して防音工事を実施している場合もある。また自転車のチェーン工場などは都市から移転しなければならない場合もある。

5. 基準と規制
 現在までに制定された騒音に関する基準、規制には次のようなものがある。
a) 1979年環境保護法が施行された。
b) 自動車の騒音規制 GB1495-79
c) 自動車の騒音測定法 GB1496-79
d) 都市騒音の評価方法 GB3096-82
e) 北京における環境騒音の暫定規制

 睡眠休息に対し 30-50dB
 会話妨害     40-60dB
 健康と聴力障害 70-90dB

ここで下限は望ましい騒音レベル、上限は規制値を示す。

 (五十嵐寿一)

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